それは正(まさ)しく正しき生き方
響達が歩き初めて20分程、小さな崖下にポッカリと空いた穴を指し、ここがそうだと無理やり案内されたガッチャンは言った。
「見張りの1人もいませんのね。少し不用心すぎません?」
「いや、んな堂々と見張りなんて置いといたらここがアジトなんですよと公言してるようなもんだろ。普通は内部にいるもんだよ。」
「言われてみればそうですわね。」
リコリスは納得したように頷き返す。
「しっかしあれだな、俺は何故か洞窟に縁があるらしなおい。いや、山賊のアジトなんざ大体が洞窟なんだろうけどもさ。」
と、答えながらも長柄の刀片手にボヤきつつ戦闘準備を始める響。
「さ、ひと狩りいこうぜ?」
「いや、なんでそんなにノリが軽いんですの?」
意気揚々と軽々しくそういう響に、呆れたように突っ込むリコリス。
あってほとんど経っていないというのに、既に何度も見た光景だ。
響がボケてリコリスが突っ込む。もうこの構図が板につきつつある。
「そんなの今はどうでもいいだろ。というわけで、霧村響の明日から使える賊狩り講座〜」
まるで某3分でつくる料理番組のbgmが流れてきそうなテンポで言葉を口にする響。
その様子を見て、またもやリコリスは呆れたように呟く。
「いきなりなにか始まりましたわ・・・・・・」
「ステップその1、大量の火のついた松明を用意します。」
意気揚々と楽しげにそう言い放ち、言葉通り数本の松明を用意した響は歩き出していった。
「その2、これはしなくてもいい。洞窟内に着火剤を突っ込みます」
そう言って取り出した油瓶をいくつか乱雑に放り投げる。
洞窟内にパリンと言う音が響き、油瓶が割れたことが確認出来た。
「これ見張りに気づかれるきがするんですが・・・・・・」
「大丈夫、大丈夫。来たら殺すから。というわけでステップその3。用意してあった松明共を放り投げます。」
サラッと恐ろしいことを言いながらそーい、と手に持った松明を油瓶と同じく放り込み、パンパンと手を叩きながら次の工程へと移る。
「ステップ4だけど、これはリコリスに手伝ってもらおう。」
「?なんですの?」
「いやね、こればっかりは俺が苦手だからしょうがないんだよ。洞窟内に向かって風魔法をうってくれ。威力としては火が消えない程度の強風ぐらいでいいぞ。」
「・・・・・・あぁ、何をしようとしているかはわかりましたけれど、酷すぎませんこと?」
「一酸化炭素中毒させるよりはましだろ。別にこれでやき殺すわけじゃないし。追い出すだけだから問題ないさ。」
「いや、どちらにせよ非道の行いであることには代わりありませんわよ。普通に討伐するのではダメなのですか?というか出入口から火の手が上がれば閉じ込められて焼死するのでは?」
最もな意見である。しかし言われた当の本人は何を言っているんだこいつはという目でリコリスを見つめ、呆れたように言い放った。
「いやいや、いくら山賊とは言っても人の子だぞ。いくらなんでも出入口が1個とかいう愚行は犯さないだろ。」
「いえ、出入口はここひとつのみですが・・・・・・」
「まじで!?」
「は、はい。ここは天然の洞窟をそのまま利用しているだけなので・・・・・・」
「嘘だろおい!?」
ガッチャンの言葉に激しく動揺する響。どうやら彼の常識は山賊たちに通じなかったようだ。
リコリスはそんな様子を見て 、それ見たことかとジト目で彼を見つめる。
まぁ、響きの言う通り出入口がひとつのみというのは非常に危険であるし、隠し通路のひとつもないというのはおかしく、正論を言って入るのだが、しかしここでは生憎少数意見となってしまった。
「あぁ、クソッ!!どうすんだよこれじゃぁ資金源も燃えちまうじゃぁねか。山賊共が持って飛び出してきたところをぶんどろうと思っていたのに!!ここのトップは完全にトチ狂ってやがる!!!!」
「残念だが、それは杞憂に終わったぞ。というか口悪いなお前。」
嘆き罵る響に、新しく言葉がかけられた。
その声の主はいつの間にかいたスキンヘッドの大男で、片手に地震よりも大きな大剣を握り、周りのものを威圧している。
「いや、誰だよお前。」
「俺はサルトガ。お前が火を放った洞窟の主だと言えばわかるか?」
「か、頭ぁ!!」
サルトガと名乗った男、どうやら響に目をつけられた山賊共の頭領らしい。可哀想に、とても運のない男だ。
どうやら山賊共が無事だったことを喜び安堵した響だったが即座に警戒態勢へと入る。
「こりゃご丁寧にどーも。俺らの軍資金が無事で何よりだよ。しかし丸焼きにされそうだったてのに随分と普通そうだな。」
「何。俺等は盗賊。他人の命やものを奪って生活しているのだ。いつかそれ相応の報いを受けるだろう。どこの誰にどんな殺され方をされようと無理もないと覚悟はしているつもりだ。奪う(戦う)ということはそういうことだと部下たちにも言っている。」
「・・・・・・アンタ、盗賊にしておくにはおしいよ。」
響の態度が変わる。サルトガを見つめる目は狩ろうとしていたものの目から奪い合うものの目に、そして、言外に相手に対しての敬意を語る。
「残念ながら俺は生まれながらにして盗賊でありここのリーダーだからな。生憎とこの生き方しか知らんのだよ。それに身内共を食わせてやらなきゃならん。善行悪行などとそんなもの考得て入られん。俺は自分のやりたいようにやっているだけだ。人の正義なぞしらん。」
「本当にもったいないよ、あんた。」
おそらくここまで響が認めた相手は空前絶後にて存在しないだろう。
並べられた御託よりも、常套句のような綺麗事よりもずっと心地がいい。
そんなものよりも、彼の吐いた等身大の言葉は身にしみる。
「言っておくが俺は下の奴らのために全力で抵抗させて貰う。それに、俺の仲間に牙を向いた代償は受け手もらうぞ。」
「あぁいいぞ。俺も最初は軽い気持ちだったが今は違う。全力でかかってこい。」
最初はただの小遣い稼ぎだったがもうそんなものはどうでもよかった。だが今はこの男との出会いに感謝すら覚えている。この男とは真正面から殺り会いたい。
響は別段バトルジャンキーでもないし、人を殺して楽しむ趣味もない。(無論必要とあれば躊躇いはないが)だが、この男は違う。ここまでの人間に会えることも少ないだろうし、何より自分が認めた男だ。まして相手はやる気であるというのであれば、もうこれは運かなにかだろう。
「サルトガ.レムニバ」
「霧村響ーー」
「「参る(いくぞ)」」
刹那、2陣の風が激突する。
激突ざま、響は自身の得物である天ノ尾羽張をステータス任せに振り抜く。無論そのスピードは音速を超えており、視認することは常人には不可能である。
が、しかしその驚異的な一撃は既のところでの大剣の一振りによって上へといなされてしまう。しかも的確に一番効率のいいところに完璧なタイミング、角度で入れているため力は全く入っていない。
ただでは起きるまいとそのまま手を離し左手でキャッチ、回転斬りの容量で斜めにしたから切り掛る、がまたもいなされる。
なんのまだまだと、蹴りを入れようとするもそのタイミングで斬撃が襲いかかり、不発に終わる。
いなされるのが面倒だと交わした敵の得物の刃を掴むも、なんと相手はああっさりと放棄。
あっけに取られたのもつかの間、胸部に蹴りが襲来し吹き飛ばされる。
その拍子に握っていた大剣を離してしまい易々と得物を奪い返されてしまう。
「つ、強い・・・・・・」
「あぁ、ステータスじゃぁ絶対に俺に勝てるわけがないのにこれだ。あんだけいなし続けられると凹むぞ。てかなんで見えんだよ。」
「見えてなどいないさ。感と憶測が上手く働いているだけだ。」
これが経験の差だということは今の言葉で容易に想像がつくだろう。
以前も言った通り戦闘において経験というものは大きなアドバンテージになる。その点において、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきたこの男は凄まじかった。今まで戦ってきた相手から攻撃の場所を導き出し、培われた戦闘感により音速を超える速度に対応、その類まれなる技術によって人知を超えた猛攻に対応したのである。
「リコリス、覚えておけよ、これが本当に強いってことだ。俺らみたいななんちゃって最強とは違うんだよ。」
「光栄だな。貴様のような圧倒的強者に認めてもらえるとは。」
「あぁ、だからこっからは出し惜しみ無しだ。術式23〜25共に2項、重ねて展開」
『承認』
響の体に、3種のバフが二重にかけられる。
そのまま、先程とは比べ物にならないスピードで突撃。そのまま先程と同じく切りかかると思われたのだがしかし、既のところで体を捻らせながら上に飛び越え背後に浮かぶ。
「4式展開、No21、総数30」
『了承』
異空間か幾十ものククリナイフが現れ、に向けて一斉に襲いかかる。
残念ながらその全ては握られた大剣にてなぎはらわれてしまったがしかし、これはただの目くらまし。
響は既に上へと飛翔しており、新たに攻撃を開始する。
「術式42、四つ囲うように展開」
『承認』
言葉と共に現れた土壁がを囲いその動きを封じ込める。
かわしいなされるのであればその動きを封じればいい。故に土壁にて閉じ込めたのだ。
が、しかし。
「甘いぞ。この程度では止められん。」
なんとサルトガは土壁を蹴りつけながら上に登ってくるではないか!一体全体この男はどこまで人間離れすればいいのだろうか。
とはいえその人間離れした奴の相手をしているのは既に化物の域へと達した男。既にその程度では驚くこともなく、さらには予想すらもできている。
化物は空中へと逃げ出したサルトガに計画通りだと言わんばかりに声を投げかける。
「残念だが、悪いがぞれは予想済みだぜ!!術式56、包むように多重展開!!!」
『承認。』
言葉と共に、を四方八方包み囲うように数多の魔法陣が形成される。
「何っ!!」
サルトガがしまったと焦ったような声を上げるが時すでに遅し。数多浮かび上がる魔法陣が光り出す。
そして発動に至る。
魔法陣の中心から出てきたのは漆黒の極光。闇魔法の一種、シャドウレイザー。
その光線はに向かって伸びていく。無論ひとつではなく、数十もの極光が襲いかかる。
残念ながら異能か翼をもち、自由自在に飛び回れたならいずしらず、空中という人の本来居えないところに逃げ出したこれを回避するすべなぞすでになく、なす術なくその暴力的な一撃に飲み込まれて言った。
♢
空に浮かび上がった極光の群れが何事もなかったかのように消え去る。そこに先ほどまでいた男の姿は見えず確かに戦闘の終わりを告げていた。
「これにて一件落着だな。いやしかし惜しい人をなくしたもんだ。」
「いや、殺したのはあなたですよね?」
「まぁ、そうなんだがな。要は殺しあう関係になったことが残念だって言ってるんだよ。」
「いや、その原因作ったのもあなたですわよね?」
「・・・・・・小さいことは気にするな。」
「全くもって小さくありませんわ!!」
さっきまで真面目にやっていたというのにすぐにコントを始める二人。そのせいで余韻も減ったくれもなく妙な雰囲気があたりに流れ始めている。
まったくこの男には自重というものをおぼえてほしいものだ。ボケないと生きていけない体質だろうか?
「そんな・・・・・・頭が負けるだなんて。」
二人がコントを起こしている間に、隣でガッチャンがうなだれていた。名前は一番ファンキーなのに、一番シリアスをしているのだからわかったもんじゃない。
どうやら横の二人もその重々しい空気を感じ取って、展開していたコントをたたみ、打ちひしがれているに近寄っていく。
その後数秒の沈黙が流れたのち、最初に口を開いたのはさっきまでボケ倒していた響だった。心なしかその表情も真剣なもののそれになっている。いくら彼でもこの雰囲気の中ボケることはできないらしい。
「おい、・・・・・えーと、あぁガンチャンだったな。」
「名前忘れてましたわね。」
「いやあれだから。別に忘れてたわけじゃないから。ただちょっとのどの調子が悪くて発音しずらかっただけだから。」
「そもそも名前間違えてましたわよ。」
「oh・・・」
前言撤回。やっぱりこの馬鹿はボケなきゃ生きていけないようだ。まさかこの場面で名前をまちがえるだなんて、常識外れにもほどがある。
「えーと、なんだっけ此奴の名前?」
「はぁ・・・ガッチャンですわ。少しは興味持ってくださいまし。」
「あぁそうだそうだガッチャンだったな。結構惜しかったなぁおい。」
「惜しかろうと何であろうと間違ている時点でアウトですわ。」
そう言ってまたもやコントのようになっていく二人の会話。
だが、さすがにこれ以上ふざけるのも話が進まないということで、咳ばらいを一つ。
それをかわきりに真面目なモードへと移行する。
「おい。予定通り金目の物をいただくぞ。」
「く、クソっ!!な、なんでこんなことにっ・・・・・・!!」
たとえ相手が悲しみの波におぼれていても気にせずに自分の要求を押し通そうとする響。流石は鬼畜すぎる男の称号を持ったものである。
そんな響に対し、当のガッチャンは強くにらみつけるがしかし、その次に発せられた言葉は予想外のものだった。
「お前らが持ってる中で二番目に希少価値が高いもんもってこい。」
「え?」
そう、男の口から素っ頓狂な声が漏れる。
「あの男に免じてそれだけで済ませてやる。あとはさっさとうっぱらって軍資金にでもするんだな。」
「あ、あんた・・・」
「いくらため込んでたかは知らねぇが取り合えず農村くらいは開けんだろうさ。そしたらどっかのアイドルグループみたいに最終的に島ぐらい作れるだろうよ。」
「・・・・・・」
「わーたらさっさとブツ持ってこいや。ノロマ。」
「は、はい・・・・・・!!」
そう呼応して目からこぼれた涙をぬぐいながら急ぎ己のアジトである洞窟の中に駆けていく。
その姿が見えなくなってから先ほどから優しい目で響を見ていた少女は口を開いた。
「随分と粋なことをしますのね。」
「さぁ?何のことかね。ただの気まぐれだよ。気まぐれ。」
「そういうことにしておきますわ。」
「そうそう。そういうことにしときゃぁいいんだよ。さ、アイツが戻ってきたらさっさと出発して先に進むぞ。」
「ふふ、そうですわね。」
澄んだ笑い声が、深い森の中に響いていった。




