被害者
「あ、あり得ませんわ……。年頃の乙女にこんなことするだなんて正気の沙汰とは思えません」
「いや、そうは言われてもしょうがなくね?こういう方法なんだし。俺
も通ってきた道だから諦めてくれや。」
既によるも更け、日付もとっくに変わっているであろう頃、一つの焚き火のそばに二つの影があった。
一つは腹部を抱え、顔を歪めている少女であり、もう一つはそんな少女に睨み付けられている少年ーーリコリスと響である。
「というか本当にこんなので強くなったんですの?ただのずるな気しかしないのですが……。」
そう言ってさらに響をで見やるリコリス。
この反応から察せると思うが、響は彼女にドーピングアイテム大量摂取によるステータスの底上げを行ったのだ。
勿論、数日に渡ってなどという甘えは与えない。俺も辛い思いをしたんだ。お前も同じ道をたどれ‼という心意気で一辺に飲み食いさせたのだ。
大人気ないというか女々しいというかなんというか、呆れた心意気である。
しかしその効果は絶大で、リコリスのステータスは、異様と呼べるそれに変容していた。
リコリス・メルセデス
女 17歳
Lv,26
能力《人形遊び》・《異眼》
HP9876/9876
MP19676/ 19676(+220)
攻撃 2223
防御 2076
魔攻 3897(+140)
魔防 3765(+125)
俊敏 2659
《スキル》
炎魔法Lv,2、水魔法Lv,2、土魔法Lv,2、風魔法Lv,2、光魔法Lv,1、闇魔法Lv,4、雷魔法Lv,1、回復魔法Lv,2、強化魔法Lv,2、
《称号》
異眼の魔女、復讐者、魔法使い、人形使い、契りの共謀者、神に抗うもの、ゴシックロリータ、妖艶、リミテッドブレイカー、大罪・暴食
《装備》
玄彼岸のドレス(魔攻+80、MP+140、魔防+75)、ゴシックハット(魔攻+60、MP+80、魔防+50)
「いいんだよ。発想の違いってやつだ。文句垂れようとアイテムでステータスを上げるっていう考えに至らなかったそいつが悪い。」
そうにべもなく言葉を返す響。
その答えを聞いて、彼女はもういいやとでもいうようにため息をついて諦めたような顔をした。
「まぁ、もういいですわ。取り合えず強くなったことには代わりありませんから。」
そうこぼす、リコリス。だが、響はその言葉にいい顔をしなかった。
「言っておくが、これはただステータスを上げただけだからな?確かにステータスってのは大事だが、全てじゃない。こんな裏技を使った俺らには、それに見あった経験や技術ってものがまるでない。そこは自分で頑張っていくしかないところだからな。」
そう、釘を刺すように真剣な面持ちで語る響。
ステータスが高いからといってつよいわけではない。普通に考えればおかしなことだが、考えてみれば当然である。いくら高いステータスを持っていたとしても、それを十二分に扱える技術がなければ宝の持ち腐れであるし、こと戦闘に関して経験というものは時にステータスを越えたアドバンテージとなりえる。
「ま、そういうわけだからあんまり過信しすぎるなよ。ごり押しが通じるのは三流までだ。」
「……了解しましたわ。」
素直に響の言葉に従うリコリス。
「ただ、ステータスを上げたことによってできることは格段に増える。その分、修行するにしても進行スピードは常人よりかは早くなるだろうさ。まぁ、時間も時間だしそこいらへんの話はまた明日にして今夜はこれで寝るとしようじゃないか。」
そう言って彼は、アイテムボックスから予備の毛布をとりだし、リコリスに投げつける。
そのまま、自分の毛布もとりだし、ハナコとともにくるまって眠りについた。
眼帯の少女が眠りについたのはそれからまもなくのことである。
◇
「取り合えずまずは実戦を積むことからだ。ほれ、あのリザードマン達を倒してみ。」
「そういわれましても、流石にリザードマン程度でしたら以前の状態でも倒せましてよ?あまり効果があるとは思えませんが……」
「なら余計にいい。以前の自分と比べて、何がどこまで出来るか比較しやすいだろ?」
そう言って、リコリスを促す響。
どうせ何をいっても上手く返されるだろうし、いっていることも尤もなので渋々リザードマン達に向き合うことにする少女だった。
「……では、いきますわよ‼『悲しき子』!『怒れる子』!」
その呼び声とともに、二体の人形がリコリスの背後から飛び出し、トカゲの群れへと向かっていく。
その動きは、前日赤猿に向かっていったときとは比べ物にならないほど素早く、繰り出された一撃は硬い鱗で覆われたリザードマンの皮膚を突き破り、その骨を容易く裁ち切り、その骸を地面に落とした。
「すごい……あのリザードマンの鱗を簡単に切り裂くなんて……。」
「正確には裁ち切っただがな。切れ味というよりも加える圧力が上がっているはずだ。次は魔法使ってみ。」
言われた通り、左目の眼帯を取り外し、リザードマン達に対して普段通り(・・・・)炎の魔法を行使する。
すると、辺り一面に豪炎が広がり、回りの木々もろともリザードマンを焼き散らしていく。
「え?え?」
「あー、やっちまったなぁ。一応言っておくがお前の今のステータス考えて魔法使えよ?今まで通りの感覚でやるとこうなるぞ。術式81展開。」
リコリス自信はリザードマン一匹を焼ける程度の感覚で魔力を使ったのだが、ステータスが急上昇したことを忘れてしまったようで、大惨事となってしまった。
すぐに響が氷魔法で鎮火しにかかる。(氷は水魔法のあつかい。)
「とまぁ、こんなところだ。お前用のアンクルも制作中だからできたら渡そう。」
「……またステータスを上げるんですわね。一体どこを目指しておりますの?」
「さぁ?俺にもわからん。」
リコリスの問いに首をすくめてそう答える響。
その言いぐさに呆れた様にリコリスは言葉を投げ掛ける。
「わからんって……。自分のことでしてよ?いい加減すぎませんか?」
「目標とする神様とやらの強さの目安がわからないんだから仕方がないだろう。それより先に進むぞ。」
そう言ってお供のイシマジロと一緒に消火し終えた森の奥へと進んでいく。
少女はその様子を見て、はぁ、とため息をこぼし、その背中を小走りに追いかけていくのであった。




