旅の目的
全て終わった中で、響は背に向けた少女へと向き直り言葉をかける。
「ま、とりあえずこんなもんだろ。あのクソ野郎は消えたが、お前はどうすんだ?」
「……‼と、とりあえず礼はいっておきますわ。助けてくれてありがとうございます。」
少し顔を赤くして、しかししっかりとお礼を述べるリコリス。
素直に礼を言うのも彼女の性格的に難しいことなのだが、やはり命を助けてくれた相手になにも言わないというのも彼女のプライドが許さなかったらしい。
「気にするな。俺が勝手に助けただけだし、あいつを殺したのもほとんど俺の都合だからな。」
そう、なんでもなかったかのように返す響。
「で?今後のお前の予定は?」
「……そうですわね。まずはこの森を抜けて人のすむところに出るのが目標ですわね。」
「ま、そりゃそうか。わざわざこんなところに長居する意味はないもんな。」
あたりの薄暗い森を見ながら答える。木々が自由奔放に生え渡り、一メートル先すらもよく見えない。
「それでそちらはどうしますの?」
「未定としか言いようがない。まぁ、この森を抜けるのは当たり前なんだがな。」
この男、クラスから離れたはいいがそのあとのことをよく考えていなかったらしい。
普通、目的があるから離れるのが通なのであって、離れてから考えるというのも妙な話である。
「あら?でしたらご一緒いたしますか?」
「それは助かる。ここいらへんの土地勘がなくてな。案内がいるなら心強い。」
「わたくしも知りませんわよ?」
「え~」
暗い森の中に迷子が二人。早速ピンチに陥ってるところを見ると面白いものがある。
実際はアナザーがいるため全くといって良いほど問題がないのだが……。
「ならなんで一緒に来るかとか聞くんだよ?」
「あら?貴方はこんな薄暗い森の中にこんないたいけな美少女を一人でおいていきますの?」
「自分で言うな自分で。」
呆れたようにため息を突き、響はしょうがないからとアナザーに命令を出した。
「四式展開。範囲はとりあえず10キロ。」
(承認しました。解析を開始します。)
すぐにアナザーの解析が始まる。そしてものの十秒もしないうちに終わり、結果が出された。
「とりあえずは東に進めば良いんだな?」
(はい。ここから東にいきますと、帝国たどり着きます。そこでは信仰よりも実力を重んじていますのでちょうどよいかと。)
「おーけー。」
特に異論もないので、とりあえずの目的地を帝国に決める響。
響のやり取りを見て、誰もいないのに会話しているのを不思議に思ったのか、リコリスが問いかけてくる。
「先程から誰としゃべっていますの?」
「別に頭のかわいそうな奴じゃないからな?といってもどう説明したもんか……。」
自分の能力を明かすのはまずい。といっても頭のおかしな奴と思われるのも嫌だ。
そう考えていたときだ。
「というかそもそも、どうやって魔法の効かないあの化物を倒したのかや、何で崖の中から出てきたのやら、最後の一撃の威力のおかしさやら色々と聞きたいことがありますわ。」
と、次々疑問を投げ掛けてくるリコリス。
無論、その答えを言えるわけもなく、響は困惑していた。
どうしたものかと思考を巡らせていたがやはり隠しておく他あるまいと結論付き、適当にごまかすことにしたようだ。
「さぁ?なんでだろうなぁ?俺にも教えてほしいぜ。」
「……まともに答える気はありませんのね。」
「当たり前だろ?いくらなんでも見ず知らずの人間を信頼して話すほど俺はアホじゃないぞ。」
人間にというセリフに、リコリスは少し反応た様に見えたが、この際それはおいておこう。
それよりも、だ。大切なのは、その後に彼女がニヤリと不適に笑ったところだろう。
そして続ける。
「あら?少なくとも、そこいらの有象無象よりかは信用に値すると思いますわよ?」
「?どういうことだ?」
彼女の言葉に疑問を浮かべる響。
そんな響の反応を見てリコリスはさらに艶やかに微笑み、答える。
「私の目的は復讐。父に、母に、村の住人に。そして、私を受け入れないこの世界を作った神に!」
初めてだ。響はそう思った。
この世界に来て初めて、神を崇拝せず、敵対しようとした奴を、自分以外に見つけた。
驚きを顔に浮かべた響に対して、さらに彼女は続ける。
「貴方はさっき言ってましたわよね?神と対峙する可能性は考えていた。対峙することになっても構わないと。つまり貴方もわたくしと同じ様に神とやらに背くものなのでしょう?」
確かに、響は神と対峙することは構わないといった。だからといって、神が憎いわけでもないし、今のところ倒す意味もない。そもそも信者達が狂っているのであって、神が狂っているとは言いがたい。
でも、だ。
(基本的に異世界転移の黒幕は神と相場が決まっている。何よりも、信者を信じるよりも、こいつの方が数億倍ましだ。)
ここに来てもやはり予備知識は役にたった。無論あっているとは限らないが、前例があるのとないのでは大きな差がある。
それに、何度も信仰に狂ったものたちを見てきているのだ。
その上で考える。少なくとも、今この段階で、こいつより信用できるものはいるか?と。
無論、級友に関しては王国を欺くために置いてきたので除外はするが。
それに、彼女を見ていると、思い出す記憶がある。
(アナザー、何か、必ず約束を守らせるような魔法や何かはあるか?)
(はい、ございます。血の契りといって、それを反故にしたものをしに至らしめるという、本来奴隷などものではございますが。)
(それで……いや。そのくらいが丁度良い。)
そう、秘密を共有するにはそれくらいじゃなきゃいけない。特にこれは、二人の人生がかかっているのだから。
「……。話してもいい。だが、条件がある。」
「よろしいですわよよ。もとよりただで聞くつもりはございませんから。」
彼女に了承をとり、よってその条件を口にする。
「血の契りを互いにかわす。お前は俺の秘密を知る代わりにばらすことはしない。そして、極力俺の行動に協力する。」
「……ッ!!それは‼」
それはあんまりすぎると、抗議の声をあげたリコリスだったが、続く響のなだめる様な言い方に、勢いをなくしてしまう。
「まぁ、待て。話は最後まで聞けや。」
無論、そんな一方的な契約を結ぶつもりは更々ない。最初にいった通り、これは互いに掛け合う制約なのである。
「逆に俺はお前に秘密を話す。そして、出来る限りお前の復讐につきやってやる。」
それが、響の出した答え。
どうせ近しい目的を持った二人なのだ。ならいっそ一緒に目指してしまえば良い。
もっとも、響に関してはいまだに細かい目標ではないので、これから考えていくのだが……。
して、それを聞いた女の答えは無論のこと決まっていた。
また不適で艶やかな笑みを浮かべ、その危険なまでに美しい紅唇を動かす。
「良いですわ。その誓い乗りましょう。ですが、一つ付け足しますわよ?」
「ん?何だ?」
その言葉は、きっと呪いなのかもしれない。でも、それでも、運命に変わりはない。
「絶対に、何があろうとも互いを裏切らない。これを足してもらいますわ。」
その言葉に、男も、彼女と同じ様に不適な笑みを浮かべて答える。
「グッド‼交渉成立だ。宜しく頼むぜ共謀者さん」
導かれし男女二人、月光の元に誓いをかわす。
◇
「確かに、勇者の一人と言われれば、あの強さの納得できなくはないですわね。」
「いや、厳密に言えば違うんだが……。」
焚き火を囲うように、二人の男女が話し合っている。
契約の通り、響がここまでの経緯と能力についてリコリスに語り聞かせているところだった。
ちなみに、響は彼女の過去については既に軽くではあるが聞かされている。
「どういうことですの?」
リコリスは響の指摘に対して、疑問を投げ掛ける。
響としては説明しなければならないのだが、それを彼女に理解させるのがいかんせん難しく、頭を悩ませていた。
数十秒ほど考えた後、まさにひらめいたと言える様に出たアイディアがそこにはあった。
「ちょいとステータスを見せてくれ。」
「?良いですわよ。」
そうして浮かび上がった彼女のステータスはこうであった。
リコリス・メルセデス
女 17歳
Lv,26
能力《人形遊び》・《異眼》
HP130/130
MP670/670 (+220)
攻撃 33
防御 21
魔攻 127(+140)
魔防 119(+125)
俊敏 45
《スキル》
炎魔法Lv,2、水魔法Lv,2、土魔法Lv,2、風魔法Lv,2、光魔法Lv,1、闇魔法Lv,4、雷魔法Lv,1、回復魔法Lv,2、強化魔法Lv,2、
《称号》
異眼の魔女、復讐者、魔法使い、人形使い、契りの共謀者、神に抗うもの、ゴシックロリータ、妖艶
《装備》
玄彼岸のドレス(魔攻+80、MP+140、魔防+75)、ゴシックハット(魔攻+60、MP+80、魔防+50)
こうして見てみると、勇者たちの異様さがよくわかる。
装備こそ良いものの、今のままでは勇者一行の誰にもかなわない。
無論、そうなれば神を倒すなどもっての他である。
だから響は、まずリコリスのステータス強化からはいることにした。
勿論、彼なりの方法で。
「よし、俺の強さの秘訣とやらを教えてやる。というかお前もそれで強くしてやる。」
「あら!?それはほんとですの?」
響の提案に、期待するように声のトーンを上げて聞き返してくる。自分も強くなれるのかと、心が踊る。
その先の地獄も知らずに。
「あぁ、とりあえず、まずはHPからいこうか。」
前回から時間をかけてひねり出したのですが、やはり、響の旅にリコリスが加わる理由が強引になってしまったかもしれないです。
もっと良い理由があったと思うんだよなぁ。
注意※血の契りの契りは男女の約束の意ではなく、単に約束をするという意味です。




