It'll at least kill is me
幾数もの土槍が、フェイスマンの無敵たる肉体をいとも簡単に突き破り、蹂躙する。
魔力を持たないが故に、土槍は肉体に刺さり、魔法の分類であるが故に物理無効は意味をなさない。
まさしく防御不能、己が生命力に頼るか、そも避けるしかない理不尽な攻撃。
幸いにも数々の実験の披体となり、合成生物となり果てたフェイスマンは、尋常ならざる生命力を持ち合わせているため、一撃で沈むことはなかった。
が、しかし一応は魔法の分類であり、ステータスが化け物の響の攻撃である。いくら中級相当だからといっても、その威力は絶大であり、既にその命は風前の灯だった。
一方攻撃した響も、その燃費の悪さから、全魔力の2割を持っていかれたため、倦怠感に襲われているようだ。そっと心のなかで愚痴を溢す。
(マジで燃費が悪すぎるよな、コイツ。これじゃぁ実戦じゃなかなか使えねぇな。要改良だ。)
それでも、守ってやると言ってしまった手前、その疲れは表面上には出さない。
身体中を土槍に突き抜かれ、最早戦闘に出ることすらあたわなくなったフェイスマンは、その体躯を地に落とし、苦悶の声を上げる。
「ク,クルシ……ア,ア,アァ……」
それは一体、身体を貫かれたことによるものだったのだろうか?まるで、生きていることが苦痛であると、そんな風に聞こえた気がしたのだ。
「な、なんなんですかその魔法は!?フェイスマンは全ての魔法を吸収します‼例えそれが何らかのスキルであったとするのであれば物理無効が働くはずです‼それがなぜ!?」
まるで壊れたかのようにわめき出す神父。その表情には先程までの余裕はなく、焦りや困惑、恐怖がにじみ出ていた。
「あー、説明がめんどくさいから適当に考えといてくれ。」
そう言って、右手をひらひらとふる響。
「イタイ……タスケテ、オカ……」
「えぇい‼五月蝿いですよ!この役立たずが‼一体お前を作るために幾つの披体を使ったと思っているんですか!?」
呻くフェイスマンに対し、憤りのない怒りをぶつけ蹴飛ばす神父。
ダメージは入らないものの、蹴りの勢いでわずかながら飛ばされる。
動けず、黙って己が主の怒りの捌け口になっている人形を見ていると、あわれに思えてくる。
しかし、響は先程の神父の言葉が、人形の呻きが気になっていた。
今アイツは、怒りに任せてなんと言ったのか?
あの人形はなんと言おうとしたのか?
「おい、アナザー。あの肉達磨は……」
(はい、恐らくあれはいくつもの生物を合成させて作ったキメラです。そのなかには人も含まれているはずです。)
なんたる外道か、なんたる非道か。ただ実験体として使うだけでは飽きたらず、あんな風にバケモノに変えられて、弄ばれ。
生きていることすら辛いはずなのに、死ねない躯のせいで死ぬこともできず、それを嘆くことも、苦痛を叫ぶことすら五月蝿いと否定され。
ーーふざけるな
「起きよ(Steh auf.)ーー」
「其は人の持ちし祝福(Es ist der Segen einer Person)。」
「天より受け取りし禁忌の念。(Konzept der Kontraindikationen vom Himmel genommen)」
「焼き、消し、染め、(Brennen, löschen, färben)」
「そして照らせ!(Und erleuchtet!)」
「害ある闇に灯火を‼(Licht in schädlicher Dunkelheit‼)」
「ーー祝福の灯(Segne das Licht)」
言葉と共に紡がれた焔が、彼らを燃やしていく。
もうこれ以上は良い。もう、生きることが悲痛でしかない。ならせめて、早く、早く殺してあげることが、彼らのためになると、その炎には言外にそう、込められていた。
響は決して正義感が強い方ではない。来たときもそうだが、この世界の住人の命よりも、自分やその身内の方を優先するし、知らないところで知らない誰かが死のうが、なにも感じない。
それに、目的のためなら自身の手を汚すことも躊躇わないし、実際何度も正義とは言いがたい方法で物を成し遂げたことだってある。
だから、人の非道をとやかく言うつもりはないし、その資格はないと思っている。
だが、それでも。
「この非道は、胸くそ悪い。」
共に、怒りの焔が燃えていく。
悪だからと、非難はしない。
悪の道だからといって、悪いと決めつけたくはない。
それでも、それでも、何度か道を外している自分でも、あれは許しがたき悪であると胸を張ってそう言える。
悪が認める悪あれば、それは巨悪であるだろう。
「クソッ!!クソッ!!クソッ!!何が、何が起きているんだ!?ふざけるな!?私が、私がここで終わって良いはずがあるまい‼我が神は未だ……」
「五月蝿い。」
喚き、神の名を出した神父に対し、いつの間にか取り出した異様に柄の長い刀からすれすれのところに斬撃を飛ばし、黙らせる。
「ヒッ‼ク,クレイジーモンキー‼」
神父の呼び声と共に、後ろに控えていた赤猿達が一斉に響へと飛びかかっていく。
「お前らもなんだよな。せめて俺が殺してやる。術式33、計6つを連鎖展開。」
(承認。)
赤猿が順々に爆ぜ行く。その死に際は一瞬で、きっと痛みを感じることはなかっただろう。
おもちゃにされた彼らに、響がしてやれる最大の慈悲であり、救い。その爆発は決して汚いものなどではなかった。
「そ、そんな。魔法の多数展開だと!?」
驚くクソ野郎の声がする。
確かに、発動に名呼びが必要である魔法の複数展開は、通常魔法の行使をアナザーに任せている響の特権だが、彼にとってそんなこと(・・・・・)はどうでも良い。
「ク、クソッ!!」
もう自分ではどうしようもない。あんな化物から一刻も早く逃れるべきだと、森の中に逃げ出す神父。
だが、
「術式42、3つ囲うように連鎖展開。」
響の作り出した土壁によって、その退路を完全に閉ざされてしまう。
「誰が逃がすかよ。バーカ。」
片手に刀を持った響がゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。
今まさに、この外道に裁きを下すため、その息の根を止めるため。
「ふ、ふざけるな‼わ、私は、神に支えるものだぞ!?その私に危害を加えるということは、神に背くということになるのだぞ!?」
そんなどこにでもありそうな言葉を、嘲笑で蹴り飛ばし、続ける。
「悪いがこちとら神と対峙することは考えていたし、可能性も高いと感じていた。だから、これで神と敵対することになろうが問題ない。ただ、なんとか隠れてきた手前、ここでばれるのは避けたいが、お前如き潰そうが変わんないだろうし、何よりーー」
目を閉じ言葉を、貯める。
その表情は静かに涼しげなものだったが、その目を開いた時には憤怒のそれと化していた。
「お前が生きていることを、俺が許せない。」
どんなリスクを負おうとも、この巨悪を打たなければ、気がすまないのだ。
他の悪事は見逃せても、これだけは見逃せない。もう二度と、あんな思いはしたくない。
「天之尾羽張ーー」
刀の名を呼ぶ。
それは天之尾羽張という刀の持つスキル。無冠級という破格の武器の持ち主たる、リミテッド・ブレイカーである響の特権。
それを、振りかざす。
「神代の一線・桜花」
青白き一線が走る。
神父を通り越し、土壁を切り裂き、森の木々を断っていく。
まさしく一刀両断。その一線は一体どこまで続いているのだろうか?
まず、肉眼では分からないほどであることは確かであった。
だが、それで終わりではない。
その一線に切られたものに、触れたものに次々と絶え間なく細かい斬撃が襲っていく。
無論、それは神父も例外ではい。
皮膚は既にボロボロに切り裂かれ、その肉は細かく飛び散り、骨は容赦なく削られていく。
あり得ない程の激痛が躯を駆け巡る。だが、それでも気を失うことができなかった。否、させてくれなかった。響の鋭い殺気が、死ぬそのときまで、気を失わせまいと刺激をしてくるのだ。
次第に、肉も、骨も、四肢も五臓六腑も皆消えていく。
そして、上げられぬ悲鳴を発する神父に対し、響の怒気を孕んだ言葉が発せられた。
「二度と、二度と戻ってくるな。輪廻転生すら許さない。世界がなくなるそのときまで永久に阿鼻地獄にでも落ち続けていろ。」
既に、そこにいるものはなかった。




