舌打ちは聴こえるように、ただし舌鼓は下品なので聞こえないようにしましょう。
さて一行は現場である油屋を離れて、事件被害者の遺体を確認するために奉行所の安置室まで来ていた。無論許可は松之助に手配させているので問題無い。
「死体を見るんでしょ・・・しかも二週間も前のやつ。」
「死体は何よりも多くを語る、これも大切なことだよ。」
「それにこっちは死体の状態も発見当時そのままに保てるらしいからなあ。まぁ?その分偽装もしやすいんだろうけど。」
「ま、まぁそれなら。腐乱状態の死体なんて見たく無いし。」
「裏返せばそれだけしっかりと残ってはる言うことやけどなぁ。」
「死体なんですし、当たり前お言えば当たり前ですけどね。」
「べ、別にただの死体じゃない・・・。」
死体がただの、ということはないだろう。もっと驚きを持ってしかるべきだ。
「なんかあなた達ってそこら辺ちょっとおかしくない?」
「そうでもねぇだろ。」
「べ、別におかしくは、ない。」
「向こうにいた頃だったら違ったかもしれませんが・・・。」
「こっちやとそない珍しいものでもありまへんしなぁ。」
「いや、その理屈はおかしい。だって死体なんて何度見てもなれるわけじゃないじゃん!!それにこっちでも珍しいからね死体は!!」
「ほ、ほら死体製造機がいるから・・・。」
「おい人を頭のネジのぶっ飛んだシリアルキラーみたいに言うんじゃねぇ。見境なく殺した試しも趣味趣向で殺したこともねぇぞ。テメェ実は俺をディスりたいだけだろ絶対。」
「そ、そんなこと・・・あるに決まってる。」
「オーケーその喧嘩買ってやろうじゃねぇかクソアマが。」
いつも通りのことなので皆スルーだ。もう大我や杏たちですら関わるだけ無駄というか損なのを判ったらしい。まぁ、2、3日も一緒にいれば嫌でも慣れるだろうし、当然か。
「・・・そういえば私たちもそこまでたくさんみてきたと言うわけではありませんね。」
「ど、どっちかっていうと、そ、それより大きなことが起こりすぎてし、死体ぐらいじゃ驚かないだけ・・・かも。」
「一体全体どんな生活送っていきたのよあなた達・・・。」
「ま、まぁ俺は向こうでも呼ばれた殺人現場でみていてるから問題ないけど、普通の生活を送っていればまずみないからね、死体なんて。」
「え、何。お前高校生探偵!?まじで 高校生探偵なの!?」
大我の言葉に、響が反応を示す。というか、別に響じゃなくても驚く内容だ。目の前に工藤◯一や白鐘直◯とかと同じ存在がいるというわけだから当然である。前者だとこれまた違う意味で身構えそうだが・・・。死神はお呼びでないのはどこでも同じだ。千円札で煙草一個とかいっぱいいる。なんならコーヒーに千円札だっている。何も妙じゃない。
「父が一課の刑事で叔父が本職の探偵をやてるからね。コネだよコネ。」
「さらっと職権濫用してんじゃねか。・・・まぁ、それはそれとしてあれだ。茶畑は見たくなけりゃ見なきゃいいんだよ。ぶっちゃけ俺と黒崎さえ見れれば問題ないわけだしな、お前らただの野次馬だし。いや、ソフィアは俺が連れてきたんだったな。なら見るべきか。ま、茶畑はどうしても慣れたいって言うんなら・・・。」
「言うんなら?」
「一度、最底辺。死体の山でもみれば、慣れるだろうよ。見ても楽しいもんじゃねぇがな。」
少しいつものトーンより重く、響が答える。
「いや、そこまでしてまで慣れたくないから。」
「逆にそうしたいって言ったら今すぐ頭のお医者様に見せるところだわ。明らかに頭のおかしいかわいそうなお友達だし。そういうのは早めに処理してもらうに限る。」
「じゃぁそんなこと言わないでよ全く。ってか処理って何!?言い方!」
失礼極まりない響の物言いに杏が食い下がる。それを響は軽くあしらって処理するが、それが余計しゃくに触ったようでさらに杏の講義は激しくなってくった。
皆二人を放置しているが、大我だけ先ほどのらしくない重いトーンと真剣かつ若干の嫌悪を混ぜて語っていた響に思うことがあるらしい。少し考えをまとめてから、口を開く。
「・・・まるで見たことがあるかのような物言いだね。」
「・・・まぁな。」
「・・・そう、まぁ深くは聞かないでおくよ。それより遺体の確認に移ろう。」
そう言って死体が入っている麻袋を開ける。収容されていたのは奉公人の男の遺体で、記録によるとあの酷く荒らされていた廃棄部屋にあったものだという。
「頭部からパックリと胸元まで。傷口をみるに上から振り下ろされた形、しかも頭蓋骨が破壊されてるから刀みたいな細いものじゃなくて斧みたいなかち割ることを前提としたものが凶器・・・。」
「わかったのってそれだけ?もっとこう爪の中の皮膚とか髪の毛とかそういった決定的な証拠とかないの?」
「あのなぁ、ドラマやアニメの無能鑑識じゃねーんだから現実のプロがそんなアホ丸出しなまねするかよ。いや、本物見たことねぇから断言はできねぇが。そこんとこどうだったよ黒崎。」
「日本の鑑識は優秀だよ、そもそも爪や手の中、足の裏や髪は証拠が残りやすい場所、そこを重点的に見ないってのは無いと言っていいと思うよ。館ものじゃあるまいしね。」
ちなみに館ものとは、屋敷や洋館、古城を舞台にしたミステリーやホラー作品のことである。なぜか外部との連絡が取れなくなることが多く、まずそんな状態で鑑識なんているはずがなく、素人だらけの状態で犯人探しをしなければならない状態であれば、という意味での発言だ(そもそも主人公が鑑識という場合であれば話は変わってくるが。)。
「まぁ、凶器がわかるだけでも犯人は絞れるさかい、結構重要なことですえ。それが、特定の人しか持ってへんような特殊なもんやったら特定は容易。まぁ、凶器本体が見つかればもっとええのやけどなぁ。」
「そういうことさ。さて、次の遺体だ。」
そう言って隣の麻袋を開く大我。こちらの遺体は廊下にあったらしく、先ほどの廃棄部屋のものとはずいぶん離れた場所にあったそうだ。
「報告書によると後ろから一突き。そのあとどどめを刺すよように下に向かって切り裂かれたみたいですね。」
「・・・さっきと凶器が違う。」
「た、確かに。で、でも廊下って狭いし、お、斧とか振るえないから、あ、当たり前なんじゃ・・・。」
「そうだね、そうなんだよね。」
「ん?・・・あぁそういうことか。確かに斧じゃ邪魔だわな。」
「だ、だから、そう言って、るんだけど。」
「オメーには言ってねぇよ。」
「ここはもういいかな、少し休んでから資料室に行こう。」
また言い争いに発展しそうだったが、ナイスなタイミングで大我が切り上げてことなきを得た。慣れたと言ってもそばで煩くされては叶わないのである。
「何かわかったの?」
杏が問いかける。
「わかったというよりは、一つ確信が持てたってところだね、やっぱり来てよかったよ。それより、何か飲み物をもらってくるよ。」
♢
薄暗い書室の中で、山積みにされた資料を漁る。
松之助に頼んで用意してもらった過去資料は、流石は十年以上続く事件のもの、机一つに山積みされるだけでは足りず、また紙であるためずり落ちては一部散乱してさにも骨の折れるような状態だった。
それでも探さなければならないものはならないし、きっとこの工程を省いて先に行くことはできない。
「お前たち・・・一体どれだけの情報があると思ってるんだ?全部目を通すのだって一ヶ月は降らないぞ。」
「でも、目を通さずにはいられない。そこまでするだけの価値がある行為だからね。」
「まぁ、過去に起きた事件を見る術がない今、情報源はこれだけだしな。しっかし、もうちょっと整理しておけなかったのかねぇ。まるでガキの机ん中だぜこれ。量が多いからしょうがないってレベルじゃねーだろうよ。」
「人に頼んでおいてその言いぐさか・・・。」
「どうせ酒呑んだくれて使い尽くされたパンツのゴム見てぇに鼻伸ばしながら女遊びにうつつぬかしてるだけだろうが税金泥棒が何言ってやがる。ちょいとは働けや。というかむしろ率先して動くべきだろそうするべきだ今すぐそうしろ。」
まさしくその通りだった。全く持っての正論だし、松之助には反論を投じる隙すらもない。まぁ、身からでた錆、自業自得のその結果なのだが。
「と、とりあえずふ、二つには分けたわよ・・・。」
「こう見ると、やっぱり死人が出てからの方が多いですね。」
「それもそうやろうけど、やっぱり一つの事件に書く内容が増えたんやろうなぁ。」
「昔は、盗みだけだったもんね・・・。」
泣き言ばかり言っていても始まらないので、とりあえず全員近くにあった文献から目を通し始める。三十分ほどして、沈黙を破る声が静かさに響く。その主は辿であった。
「違うなぁ。」
「ん?どうした。」
「いやなぁ、死人が出るまえと、出た後、実は犯人が変わってはりますと思うたんやけどなぁ。」
「ほぅ、それで?」
「いくら筆跡を見せてもどこかで違いはではりますやろと思うて、前後の 予告文を見比べてみたんやけどもなぁ。まるで一緒なんよ。」
「そうだな、まるで一緒だ。寸分違わず同じ文字だ。」
「せやろ?そないなわけでウチが間違うてはったんやろかなぁ。」
「さぁ?俺としてはどうとも言えんな。本人じゃねーし。」
言い方からして何かをつかんでいる様子だったが、自分で考えろということだろうか、響は曖昧に誤魔化すだけだった。辿も、響が何かあえて黙っているのを察したのか、やはり自分の読みは間違ってなかったんじゃないかとさらに文献を漁る。
沈黙が続いて三刻程はすぎただろうか、すでに一部から集中力が欠けていた。無理もない、似たり寄ったりのつまらない事件記録を延々淡々と読み続けているのだ。その量は未だ終わりが全く見えないし、しかも何か見落としがないように精神を集中して頭を働かせながら読んでいるのだから精神的にも疲れるのもそれだけ早くなる。
「あ〜もう疲れたぁ。つまんないしおわんないし目は痛いし、この量確認するとか常識的に考えて無理だって!」
「・・・ッチ。」
未だ文献を漁っているところに、さらに喋り声という雑音が入ってきたことのより、自然と舌打ちがはいる。
「書体も特殊なものが多くて読むのに時間がかかりますね。それに順番が変わってるところも多くて考えをまとめづらいです。」
「・・・つまんない。お、おんなじようなものばっかで、あ、飽きた。」
「うるせぇ、黙れやクソアマ共。高々三時間も集中できねぇならせめて静かにしてろ邪魔だ。」
「だって・・・」
「だってもクソもねぇ人の邪魔すんな。」
随分とご立腹の様子だ。
「まぁ、まぁ。うん、そしたらここは俺がやっておくよ。人がいない方が集中できるしね。松之助さん部屋一つ借りられるかな?」
「空いてる部屋はそこそこあるし問題はないが・・・。」
「いいいのか、これ全員でやったってかなり時間かかるぞ。」
「問題ないさ。あ、でも一人は残って欲しいかな。資料を整頓したり運んでもらう人は欲しい。」
「ようはパシリだな。よし、茶畑残れ。」
「なんであたし!?」
「一番パシリっぽいから。」
「酷いっ!」
本当のところをいうと元々同じチームだから選んだのだが、それをそのまま言ったところでつまらないのでわざとからかっただけだ。まぁ、無駄にどうしようもない頻度で暇つぶしが如く人を揶揄うのはいかがなものかと思うが。どうせ本人にそんな事いったところでへのかっぱどころか嬉々として揚げ足を取ってきそうで本当に厄介極まりない。
「それで、引き受けてくれるのかな?」
「ま、まぁいいけどみんなは何するの?あたしだけ働くとかだったら嫌なんですけど・・・。」
それもそうだ。じゃなかったら一揆ものである。
「餅は餅屋だ。犯人探しは名探偵殿に任せるさ。。俺らは俺らの出来ることをやるだけよ。」
「出来ることですか?犯人探しはよろしいので?」
「まぁ、無理だからな。」
「い、いつもと違ってず、ずいぶん、潔いわ、ね。」
「容疑者があがってるようなもっと普通の殺人事件なら違ったんだがな、これはダメだ。どんな奴がやってるのかはわかってもそっから個人に特定する術がねぇ。いやこう考えると警察ってすげぇよな。」
「そないなら何しはりますん?」
「とりあえずは撮られた金やらブツの流通を探ってみるかね。それと調べなきゃいけねぇこともあるしな。」
「「「?」」」
「わかった、それならそっちは任せるよ。」
「オーケー任された。」




