頂に立つ色彩よ
本殿の裏、かなりの広さを持つ敷地へとその足をは運んだ後。
そのおよそ中央に二人は威として立たずみ、互いに不動不言を決めていた。
「さて、いつ始める?いつまでもこうやってたって拉致があかねぇぜ?」
沈黙を破りようやく開いた口から発せられた言葉は催促のものだった。
「そうですね、では・・・。」
そう返して、屠は懐から一枚呪符を取り出す。
「これが地に落ちるのを合図としましょう。それでいいですね?」
「あぁ、文句はないぜ。始めようか。」
響の肯定を確認して、呪符が宙に放られる。ひらひらと舞い落ちるひとひらの紙片。加速し、減速して不規則な速度で落ちてゆく。
そして、ちょうどそれが目線の高さにきて、相手の姿が完全に隠れる瞬間ーーーー
「・・・やはり、そうきましたか。」
二つの刃がぶつかり合う。つんざめくような金属音が周囲に響き渡り、その衝撃で砂煙が吹く。
舞い落ちる呪符ごと斬った響の獲物を、屠は抜身の刀身で防いでいた。
「はっ、オメェも刀身抜いてんじゃねーか。」
「貴方の動きを読んでのことです。そもそも貴方に人を非難する権利はありません。」
一刻の空白の後、互いに距離を取るため後方に飛ぶ。
「汚っねあいつ。」
「はっ、勝ちゃいいんだよ。大体戦場だったら合図なんてねーんだよ負けたらそこで死なんだよ、無駄なこと言ってられっか。」
「言わんとしてることはわかるが、それ防がれてるのが絶望的にダセェよな。」
「あそこで決めてればまだ、ねぇ。」
「おーけーテメェら後で覚えとけよクソが。」
そう吐き捨てながらも、手を動かして鋼糸を周囲に張り巡らせる。外野の話に乗っているように見せかけて注意を逸らす作戦だ。そして充全に糸は巡った、後は気を待つのみ。
対して屠はというと、手に持っている刀を鞘にしまい、横に突き出して手を離した。
「『数珠丸恒次』」
落ちると同時に刀が消え、言葉と同時に新たな獲物が手中に出現する。それを掴み鞘を抜くと同時に姿は消え、ほぼタイムラグなしに響の眼前へと肉薄していた。
「(はやッ・・・!)」
切られる寸手のところでなんとか自分の獲物を滑り込ませ防ぐものの、響には彼女がここまでくる姿が見えなかった。つまりこの時点で速度だけでいえば向こうのほうが勝っていることになるわけだ。
そのまま無数に渡る斬り合いが始まる。いや。斬り合いというには些か語弊があろうか、響の方は防戦一方、あきらかに一方的な斬り付けだった。なんとか防いで入るものの、小さな切り傷は腕や頬に増えてゆき、斬られ腕か足か、はたまたその胴体が真っ二つになるのは時間の問題だ。
このままでは不味いと感じたのか、出し惜しみをするのをやめて本気を出すことにしたよう。口がかの単語を言葉にする。
「『Lost familia』ーーーー『盃』小夜衣。」
速度の優位が、逆転する。抑えるだけだった響の姿は一瞬で消え、反応できないはずだった。出来ないはずだったのだ。だがしかし、響の速さは変わることなく、抜け出すことも出来なかった。
気付く、視認できない速度を上乗せするという特性は、そもそも生まれながら目が見えない相手には通じないのだとそんな単純なことに。しかし、それでもやりようはある。今度は対象を外野の中で最も速く動体視力に優れたパイフェンへとチェンジした。おかげで飛躍的にそのスピードは上がったが、どうやらこれで互角といったところ。なんとか斬り合いができるほどになった程度で、『familia』の特性を従前に発揮できてるとは到底言い難い。
だが、不利なことばかりではない。ただの鋼の塊では触れられぬ向こうはこちらの攻撃を受けることは出来ず、避けるしかないのだ。さらに枝刃を含めれば手数は響の方が上。総合的に見ればやや上やもしれぬ。
ただ、そこで終わる様な相手ではないと言うことだろう。無論屠には高いする策がある。
「『袮々切丸』」
屠の得物が、また変わる。今度は無骨な長太刀へと持ち変え、鞘から刀身を視認できない速度で抜ききる。
それは周囲に配分されていた枝刃を斬り伏せ、煩わしかったその全てを振り払った。
「袮々切丸・・・妖刀か。」
「よくご存じで。」
袮々切丸。かつて袮々と呼ばれる妖を切り払ったとされる名刀だ。その折、この刀は誰の力を借りることなく自ら抜刀しかの妖物を斬ったとされる。
つまり霊妖を斬った妖刀だからこそ枝刃も処理できるというわけだ。流石にそれだけで斬れはしないが、そこは彼女の技量がなせる技といったところか。しかしこれで形勢はまた元に戻ってしまったことになる。
横薙ぎの一払いが襲いかかり、それを『盃』で受け上方へ流す。そのまま左手に持ち変え首を狙う、だが向こうは剣技の達人。その程度上に上げられた斥力を完全に無視して叩き落としてくる。普通であればまず有り得ない動きだが、彼女からすればなんということはないことらしい。それだけでも目の前の少女の異常さがよく伝わり、響の額には冷や汗が垂れていた。
だが、そんな冷や汗も避ける動作で宙に舞うばかり。足払いで体勢を崩されるが、それを利用してこめかみにかかとを入れようとする。しかしそれは柄頭にて止められ、そのまま地に叩きつられた。その時足の骨は変形を留められないほど粉々に砕かれたが、急いで薬を口に流し込むことによって修復を図ろうとした。
しかし、薬を口へと矛部のも、その後修復するまでにも時間は必要で、もちろん向こうがそれを待ってくれるはずもない。しかもただ時間が執拗なだけでなく無防備でいる間も長いわけでなるたけ距離を取りたい。故に砕かれた足を軸にして体を回しもう一度蹴りを入れんと試みる。しかしそれもまた防がれ今度はその足首を掴まれてしまった。
だが、掴まれた体勢のまま手で大地を跳ね飛び上がり首を狙って刃を振るう。二人の位置と体勢上刀を首との間に戻すことはできず、もう片方の手は足首を掴んでいるため使えず、避けるにしてもその掴んだ手を離さなければいけない。離せば逃し回復の隙を与えてしまい、話さなければ頸を落とされる。どちらにせよ響にとって良好と呼べる最善の動きだった。
さて、屠が選んだ選択肢は後者の離すという行動だった。まぁ、当たり前といえば当たり前だ。そうしなければお陀仏なのだから、別段いくらでも追い詰められる彼女が今の状態に執着する理由がない。
それは響も読んでいたのか離された瞬間その足で屠の体を蹴り飛ばして距離を撮りつつようやく薬を摂取することができた。
「・・・・・・なんなんですのあの赤白の。響さんと互角に渡り合ってますわ。」
「いえ、響さんの方が押されています。しかもあちらはまだ余力を多く残している様子。私が加勢に行ったとして、2対1でもどこまでもつか・・・」
「つ、つまり彼やわ、私たちより強いってこと?た、ただの人間が?」
「まぁ、ただの人間にとは違うのでしょう。管理者的なことを言ってましたが、それ相応の肉体で生まれてくるのでは?私も人のことをいえないけれど、ずるいわね。」
故意に強く生まれたというところに思うところがあるのだろう。ベロニカの最後の言葉は小さく誰にも聞こえない様なこぼれ落ちたものであった。
「おっしゃるとおり巫女は常人を逸した力を持って生まれてきますが、屠はさらに特別です。生まれ持った霊力、才能すべてに置いて歴代随一。歴代全員が束になっても勝てないと言われてきました。特に剣技に関しては神すら超えるほどのものと。しかし、彼の方も凄まじいですね。いくら身体面で大きく優っているとはいえ屠相手にここまで善戦するとは・・・」
暦庵の言葉に、リコリス達はただえもいわれぬ驚きを大きくするばかりだった。決して己らより強い奴はいないと満していたわけではなかった。だが、それは敵たる神仏、妲己やウリエルと言った世界の敵だけだの話だと、そう思っていた。いくら才があろうと自分たちの高みに人類が到達できるはずがないと、それだけの差があるはずだった。いや、実際その通りなのだ。人では彼女らには絶対に届きはしない。あの薬を使いステータスだけ同じ土俵に上がろうとも、Lostシリーズの有無は大きい。一つでも差があればそれだけで超えられない壁が出来上がるほど。
だから、目の前の、盲目の少女がおかしいのだ。何事にも例外はあるとはいえその範疇を大きく逸脱している。
「というか、アレ見えるのか?俺には何をしてるのかさっぱりわからないんだが。」
「俺もだ。時々姿は見えるけど、速すぎてわけわからん。悟○の戦いを見てる天◯飯とか飲◯に気分だぜ。」
無理もない、リコリス達ですら目で追うのがやっと、章太郎達にはみえるはずもない。大体光速の何十何百倍もの動きを見せる方が異常だし、それを視認できる方がおかしいのだ。
「『心中天網島・梳り』」
響が仕込んでいた鋼糸を起動させる。複雑に、しかし決して絡まり合うことも乱雑になることもせず、芸術的なまでに美しい世界を構成して屠を捕縛、ひいては骨肉を断たんと襲いかかる。
だが、その針の孔よりも小さく下細い隙間を一瞬で縫う様に抜けて響の懐まで潜り込み、一度鞘に収めた祢々切丸を握り直し、超光速の居合斬りを繰り出した。しかしーーーーーー
「『虚葛』」
派手なブラフからの騙し打ち。たった今屠の得物が斬り伏せたのは所詮鏡に映った虚像に過ぎない。刃合わせの鏡面から出て来るは獲物の背後。その頸落とさんと逆さのまま『盃』を振るう。
完璧な不意打ち。防がれるはずなどなかったのだがしかし、血を流したのは響の方だった。抜刀し、振り抜いた刀身をそまま片手でもちかえ迫る刃を停止、柄を握る手を離す。身を翻しては得物を拾い斬り付けたのである。やられたのは左目、さらには腹部にも一撃もらったらしく忍ばせていた薬品類まで尽く斬り砕かれていた。これではこの戦闘中に回復を行う事はもうできない。新しく取り出せる暇でもあれば別の話だが。
「クッソ、冗談じゃねぇぞアマが。ありえねだろこりゃ。技量面の問題にしたって限度ってもんがあんだろーが!!」
斬り合いの中、あまりにもな現状に響の愚痴が溢れる。
「何を言い出すかと思えば。当たり前でしょう。いくら力があろうが何億何兆と振るった一には決して届かない。その回数は刀の重み、軽いんですよ貴方の刀は。その数は振るう速度。鈍いんですよ、貴方自身も。」
「ほざけ、テメェの地の才覚あってこその話だろうが!!これだから天才は嫌いなんだよ!血筋、才能、努力とかジャ◯プ主人公かテメーは!!」
言葉と共に、強く振りかぶる。しかし相手は労することもなくただ自然にその一撃をいなしては切り捨てる。咄嗟に体をよじり直撃は避けたが、それでも浅くはない傷がまた一つ増えることとなった。
普通、傷ができれば人というのはどうしても責めるのではなく、守り傷を庇う行動に出る。しかし、そんなことをしていては一生彼女に辿り着けないと踏んだのか気にすることなく屠の懐まで距離を縮めて力の限り刀を振り抜いた。生憎、その一撃も防がれてしまうが、今のは予想がだったのか少しばかり同様の色が顔を覗かした。
互いに交差させた己が獲物に力を込める。だが、力比べとなれあ響の方が圧倒的に有利だ。それは百も承知と屠は刀を弾かせ、互いに距離を取らせ仕切り直しを図った。
「『牛鼓』」
屠が、また得物を変える。
「この子は私のお気に入りの内の一振りです。思ったよりもマシでしたので少し本気を見せてあげましょうか。。正直斬り合いにすらならないと思っていたので。」
「上から目線でお褒めに預かりありがたいことで。随分と舐められてたみてーだクソッタレが。」
互いに構えをとる。男は数多の刃を従え突きの構えを。女は刀身を抜き抜刀したまま居合の構え、ただしその右手は刀身の腹へと添える様に。
「名の話をしましょう。この刀の名は『牛鼓』。それは鼓を担いだ丑、即ち。」
ーーーーーー雷神
無数たる紫電の稲光と共に、姿が消える。押し潰されそうなほどの気迫と共に屠の肢体は響の背後へと現れる。響の方もそれを読んでいたのかすでに己が方向を変え、互いに至近距離で御技を繰り出す。
「『花散雨』」
「『一色・蘇芳縫罅』」
その空間ごと、斬り砕かれる。赤黒い閃光が幾万と走り、そこから空間ごと斬られ、砕け落ちる。不可説不可説転の斬撃を生むはずだった枝刃は全てその前に紅の罅が入り、世界と同じ結末を辿る。最後に残ったのは響ただ一人。その首筋に切先を当てがい屠は静かに終わりを告げた。
「おしまいです。解きなさい、無闇に維持する意味もないでしょう?」
「・・・ッチ、わーったよ。」
渋々響がfamiliaを解き、情景は元の無機質な中庭のものへと戻る。
それと同時に屠も刀をおろし、響から距離を取った。
「なっていませんね。身体能力とセンスに任せすぎ、それでは刀を振っていることにはなりません。無論、その他も同じですそれではその並外れた能力自体半分も発揮できません。ですがーーー」
また新たな刀を一振り呼び出し、響へと投げつける。それは刀と呼ぶにはあまりに刀身が長く作られていた。
「『童子切安綱』、持っていなさい。まぁ、高々薄皮一枚といえども私に傷をつけたのは見事、及第点として認めてあげます。それはその餞別です。いいですか、貸すだけですからね、もし刀身の少しでも欠けていたら親族末代までバラしに行きます。刃こぼれの酷い劣悪な刃で。」
及第点、、そう口にした彼女の頬には赤い筋が一つ。言葉通り本当に薄皮一枚だけだが響の刃は届いていた様だ。
「こえぇよ。なんだお前刀オタクかよ刀◯女子かよ。」
「人のコレクションを壊せばそれくらい当然でしょう。そもそも刀とは思考の芸術であり究極の美。それを汚すとなれば・・・・・・。」
「いやもういいいから。ゼッテー長くなんだろその話。他人の美的センスとか興味ねーから。心底ねーから。毛程もねーから。近所のババアの便秘事情並にどうでもいーから。」
「殺しますよ?そんな汚らわしいものと一緒にしないでください。・・・もう一つ、これも持って行きなさい。」
そう言って、数枚の呪符を渡す。
「それは連絡用の呪符です。一応言って置きますが、貴方たちが彼らを訪ね巡る間は私達は味方です。何かあればそちらで連絡を。私はこの境内から外に出る事はできませんが、助言程度であれば出来ます。有事の際のみにしてくださいね。」
「オーケー、それじゃぁ毎晩丑の刻に全力の声で連絡するわ。」
「殺しますよ、殺しますよ?その頸切り落としますよ?」
「冗談冗談。ただの腹いせさ、大体それじゃぁ俺の睡眠時間まで減っちまう。」
そうは言っているものの、真偽の程は不明だ。屠がこ神社からでられない以上幾らやったところで報復を受けることもないのだから非常に怪しい。
「ともかく。ここにはまた改めて来なさい。今のままでは無理、せめて私を超えてから、安全をとってかなり後半に持っていくべきでしょう。そうでなければ、悪王ザッハークを打つ事は叶いません。無論、勝てる見込みもないのに封印を解くわけにもいきません。」
「和系じゃねぇの!?神社なのに!?日出国なのに!?ペルシアの王とか真逆じゃねぇか!!」




