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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(29) 七月八日 (木)

 こうして無事に日記を書いていられるのは幸せだ。もしかすると、死んでしまっていたかもしれないから。

 有紀子さんに呼び出されて、何事だろうと思いつつも向かった。正直、どこかで危険なニオイはしていた。身近な人を二人も亡くし、中村が犯人とはいえ彼女は信じたくないだろうから、ボクを疑ってしまう気持ちも理解できた。同じタクシーに乗っていて事故に遭い、その後もボクは何度か彼女に会いにいっている。有紀子さんからすれば、一連の事件に関係しているのはボクくらいしか思いつかない、それも理解できる。

 ナイフで斬りつけられた傷は痛むけれど、彼女の気持ちを考えれば、それくらいは我慢できる。今頃、有紀子さんはひどく落ち込んでいるだろうし、立ち直ることができないかもしれない。有紀子さんを見守ると決めているから、ボクはいつまでも彼女のためだけを想って行動する覚悟がある。

 でも、有紀子さんは信じてくれただろうか。そのうち警察がハッキリと事件に結論を出すはず。中村が有紀子さんのお母さんを殺してしまったという物的証拠はある。あの男の部屋に、ナイフが隠してあったのだから。

 正直、中村が犯人でホッとしている。有紀子さんが犯人である可能性を思いついて、どうかそれだけは間違っていてくれと願っていたくらいだから。

 中村が凶器であるナイフを処分しなかったのは、自分が犯人であると思わせるため。つまり、誰かの罪を庇おうとしているのではないか。その相手というのは、有紀子さんなのではないか。という考えが頭に浮かんでから、本当に怖くてたまらなかった。その考えが間違っていて欲しいと、何度も祈っていた。実際、彼女は犯人ではなかったわけだから、これでゆっくりと眠れる。

 現場である有紀子さんの実家には、中村が犯人であるという証拠は残っているんだろうか。もう、ボクに調べられる範囲を超えている。どうか、真実が明らかになってもらえると助かる。


 警察には、ボクが中村の部屋にいたことを明かした。向こうからやってきて、監視カメラの映像を見たというから、正直に話して正解だったと思う。あの部屋にいたのは事実だし、嘘をつく理由はない。中村を殺したのではないかと疑われているし、それは当然のことだ。あの男が目の前で落ちていく様子を見ていたくらい、ボクは近くにいたわけだから。殺そうと思えば殺せたし、実際、実行する直前だった。殺してやりたいと、どれほど思ったか。


 ただ、ここにハッキリ書いておきますが、ボクは中村を殺してはいません。脅しただけです。刑事さんに言った通りです。中村がベランダから落ちて、すぐに救急車や警察に連絡しなかったのは悪いと思いますが、ボクはあの男を恨んでいたので、助けたいという気持ちなんてありませんでした。人として間違った行為であることは認めます。現場から逃げ出したのも、かっこ悪いと認めています。でも、中村を許そうという気持ちは皆無でした。ですから、後悔はしていません。


 明日、仕事の前に有紀子さんに会いにいこう。彼女が無事であることを確認して、何をしてあげたら有紀子さんのためになるのか、必死に考えようと思う。

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