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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(23) 七月二日 (金)

 中村課長を信じてはいけないのかもしれない。ひょっとすると、とんだ詐欺師である可能性がある。有紀子さんを幸せにするなんてとんでもない。彼女を不幸のどん底に引きずり込む悪魔なのかもしれない。

 まさか、彼が有紀子さん以外の女性と付き合っていたなんて。二股なのかもしれない。あの二人の距離感は、少なくとも最近できた関係ではないからだ。しかもその相手が、有紀子さんと同じサービスカウンターの工藤さんだなんて。相手は四十代の主婦だぞ? 中村課長よりも十歳ほど年上のはずなのに。

 有紀子さんが悲しんで苦しんでいる今、工藤さんをマンションに招いているなんて、誰が信じられるだろう。自分の目で見ても信じられないのだから、誰かに教えたところで信じてもらえるはずがない。

 二人が並んで建物の中に入っていく様子は撮影できた。暗くてよく見えないけれど。証拠として決定的なものにはならないように思える。それに、心のどこかで、アレが何かの間違いだと信じたい気持ちが残っている。ボクの勘違いであれば、どんなに嬉しいだろう。きっと、そんなことはないんだろうな。

 あの二人の関係は、いつから始まっていたんだ。ボクが働きだしたときから、二人はすでに従業員としてアピタにいた。ずっと昔から、少なくとも、中村課長と有紀子さんが付き合うよりも前から、二人の関係は続いていたに違いない。それに気づけなかったボクは愚かだし、有紀子さんはみじめだ。


 お母さんを失い、有紀子さんが苦しんでいる間、中村課長はヨソでよろしくやってるわけだ。工藤さんは既婚者、息子さんがいるってことも知ってる。家族に気づかれないように、パート先の中村課長と不倫している。テレビを点けていれば、いつ聞こえてきてもおかしくない話だ。許すわけにはいかないけれど。

 工藤さんに関してはよしとしよう。旦那さんにバレて、勝手に慰謝料でもなんでも請求されてしまえばいい。

 でも、中村課長は話が別だ。

 ボクの最も大切な有紀子さんを裏切り、傷つける行為をしている以上、放っておくわけにもいかない。ただ、有紀子さんは中村課長のことを信じている。頼りにしているはずだ。これ以上彼女にショックを与えないように、中村課長を改心させなければならない。そして、ボクが知ってしまった以上、二人の関係を認めていくことはできない。たとえ表面上は平和でも、真の意味での幸せは訪れない。有紀子さんには、表裏なく幸せになってもらわなければならないのだから。


 今、ボクが有紀子さんに正体を明かしたらどうなるだろう。有紀子さんはすぐには受け入れてくれないだろうし、余計なことに悩ませてしまうかもしれない。

 でも、事故のときも同じことを考えて、彼女はボクから離れてしまった。そして今も悲しんでいる。ボクが側にいれば、有紀子さんがこんな想いをしなくてよかったのかもしれない。だとしたらこれはボクの責任だし、彼女を救えるのはボクだけだ。中村課長を信頼して有紀子さんを任せたけれど、もうダメだ。偽物では彼女を幸せにできないし、不幸にするだけだ。

 有紀子さんに全てを話してしまいたい。この日記を読んでもらいたい。ボクがどれだけあなたを愛しているのか知って欲しい。ボクたちの愛を思い出して欲しい。

 あの事故の日、ボクたちに何があったのか、有紀子さんに話してしまいたい。

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