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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(22) 七月一日 (木)

 警察に疑われるというのは、あまり気持ちのいいものじゃない。自分が悪いことをしていないのは知っているし、警察だって、ボクが犯人だと決めつけてやってきたわけじゃない。でも、できればこんな経験をしたくはなかった。

 有紀子さんが、ボクのことを思い出してくれたのかと思った。刑事さんは、彼女からボクの名前を伝えられたと言っていたから。実際には、五月の事故の話をしただけのようで、彼女の周囲にいる人物全員に話を訊きにいっているだけみたいだ。それでも、自分と有紀子さんが繋がっているような気もして、心のどこかでホッとしていた。

 

 警察には、自分が有紀子さんと付き合っていた (正確に書いてみた) ことは言えなかった。タクシーの事故のときと同様、偶然出会って乗り合わせただけで、彼女とは単なるアピタの同僚だと答えた。あと、有紀子さんのお母さんの事件が起きた二十五日のことは、申し訳ないけれど嘘をついた。家でのんびりしていたと。前日にコンビニで偶然有紀子さんと会ったのは事実だし、彼女から静岡へ向かうことを聞いたのも間違いない。二十五日に静岡の有紀子さんの実家へ行ったけれど、それだけだ。事件が起きて、すぐに愛知へ戻ったのだから。事件には関係ないから、わざわざ言わないでおいた。嘘をついたことがバレたら余計に怪しまれるかとも考えたけれど、そもそもボクが容疑者として疑われるなんてありえないし、平穏に過ごすに越したことはない。


 中村課長の周囲を調べようと思っても、その時間もないし、術もない。彼ならば有紀子さんのお母さんを殺してしまえるという可能性に気づいたものの、やっぱりただの杞憂だったのかもしれない。明日とか、彼の家まで着いていってみるべきか。

 今日は仕事終わりに有紀子さんの家へ寄っていたみたいで、ボクがアパートに着いたときには、駐車場に見覚えのある中村課長の車が停まっていた。部屋の電気は点いていて、有紀子さんを心配してお世話をしてあげていたのかもしれない。安心だけれど、やっぱりどこか寂しかった。すぐに家まで帰って、一人で苦笑い。敗者はなんともみじめだ。どれだけ頑張っても、主役の座は変わらないのだから。

 有紀子さんは、仕事に復帰できるだろうか。あんなことがあって辞めてしまうかと思った。しかも、彼女には帰る場所すらなくなったのだ。待っていてくれるはずのお母さんが亡くなり、彼女はひとりぼっちだ。寂しさを感じつつ、中村課長と結婚して、一・二年くらい心を休めて欲しいとも思う。困ったことがあれば、ボクがいくらでも助けてあげるから。

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