成田賢太郎の日記(18) 六月二十七日 (日)
考えなきゃいけないことはたくさんあるし、考えたことも多い。結論は出ないし、答えも見つからない。ただ、今のボクにできるのは、有紀子さんのために考えることだけだ。自分ではない誰かのためを想い、考えてあげることが必要なときもある。
有紀子さんは仕事を休んでいる。サービスカウンターの中に彼女の姿はないし、あのアパートの中にひきこもっているはず。というよりも、打ちひしがれているはず。少しでも食べてくれているだろうか。贅沢は言わない。三食食べなくていいし、お風呂に入らなくてもいい。電話に出なくてもいいけれど、水分くらいは摂っていて欲しい。中村課長は、彼女の側にいてくれるだろうか。ボクは直接的には何もできないから、心からそれを願う。ボクの分まで、有紀子さんを支えてあげて欲しい。
午前中、有紀子さんのアパートへ向かった。二○三号室のポストにはチラシがたまっていて、部屋の電気は点いていなかった。部屋の中へ入って彼女の無事を確認したいと、どれほど悩んだことか。それができない状況を恨み、自分の不甲斐なさに憤慨するこの気持ちは、彼女には一ミリも届かず、役に立たない。
ポストに入れてきた栄養ドリンクやカロリーメイトは、彼女の部屋の中へ運び込まれるのか。有紀子さんにはその力がなくても、せめて中村課長が気づいてくれるのを願うしかない。
有紀子さんのお母さんが殺された事件について、警察は捜査を続けているはず。現場が静岡なのだから、当然地元の警察が動いている。ときどきは、有紀子さんの家を訪ねてくれるだろうか。崩れ落ちている彼女を見て、コンビニのおにぎりだけでも差し入れをしてくれていると嬉しいのだけれど・・。経費が落ちないなら、ボクのところに請求してくれたって構わない。メモ書きを残しておくべきだったか。
明日、中村課長に確かめてみよう。恥など捨てて、有紀子さんの様子を教えてもらおう。彼が出勤であることを願う。有紀子さんのお母さんについて、どうやって発見したのか尋ねるのもいいかもしれない。警察から教えてもらうことなんてできないわけだから、当事者から説明してもらうしかない。解決できるとは思えないけれど、有紀子さんの力にはなれるかもしれない。
そもそも、誰かに対して、殺してしまうほどの恨みがあるっていうのは、よほどのことだ。その恨みの対象は、有紀子さんのお母さんだけなのだろうか。もし、何かが間違って、有紀子さんのところへ牙が向いたら・・。それを守ってあげられるのは誰だ。
中村課長と、ボクだけだ。




