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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(10) 六月十九日 (土)

 有紀子さんが仕事に復帰して、久しぶりに彼女の姿を見ることができた。少し痩せたのかと思って見ていたけれど、特にそんなこともなかった。彼女は元から痩せていたし、病院でもちゃんと食べていたということか。この二日間はお母さんの食事を楽しんだのかもしれない。そうだったら、こっちまで幸せになる。

 有紀子さんが復帰したことを知って、色々といじられたのは面倒だった。休憩中、食堂で彼女を見掛けて話し掛けたのだけれど、やっぱり覚えていない様子。そんなときに中村課長が現れたから、余計に悲しくなった。ボクは離れなくちゃいけなかったし、まるで逃げていくみたいだったかもしれない。どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんだ・・。


 有紀子さんは中番で、五時に帰っていったはず。だから、バックヤードで中村課長を見つけて勝負をかけたのに。全く相手にされないってどういうことだ。

 ハッキリ、有紀子さんはボクの恋人だと伝えた。彼女は記憶を失っているだけで、あの日だって、デートの途中だったことを。それなのに、中村課長には相手にしてもらえず、むしろ哀れむような目で見られた。

 屈辱だった。妄想で恋愛をしている痛いやつ、そんな風に思われてしまったんだ。

 しかも、中村課長と有紀子さんが連絡し合っていることが確定したし・・。

『山岡さんは、あなたのことは単なる同僚だと言っていましたよ』だなんて。もしかすると、中村課長から有紀子さんに話がいくかもしれない。『清掃の成田が、きみと恋人同士だと言い張っていたよ』と。それで、有紀子さんは困ってしまうはずだ。ボクのことを気持ちの悪いストーカーだと思うかもしれない。知らない相手からそんなことを言われていたら、誰だって気味が悪いに決まってる。記憶がない有紀子さんがそう感じたとしても、彼女を責めることはできない。

 これ以上、アピタで目立つことはできない。本当に頭のおかしいやつになってしまうし、有紀子さんにも迷惑がかかる。せっかく復帰したばかりなのに、彼女の印象を悪くすることなんてできない。

 でも、ボクはどうすればいい。勇気を出して行動しても、何も変えられないじゃないか。このまま諦めるしかないのか?

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