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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(2) 六月十一日 (金)

 今日も有紀子さんの病室へ行ったのに・・。やっぱり、有紀子さんはボクのことを覚えていないみたいだ。

 病室には有紀子さん以外にもいて、四人で一部屋を共有するなんて気が詰まりそうだった。若い女性を、四十くらいの男性がいる部屋に入れるなんて。仕方ないこととはいえ、他に選択肢はなかったのだろうか。

 ボクが病室へ入ると、有紀子さんは不思議そうな顔をしていた。それに、驚いたような顔もしていた。最初は、自分を見舞いに来たと思わなかったみたいだ。ボクのことを忘れているのだから当然か。昨日も会ったし、勇気を出してもう一度話し掛けてみても、あいまいな返事がきただけ。初対面みたいな距離感だった。すごく残念だったし悲しかった。これから少しずつ距離を縮めていきたいと思う。そのうち少記憶が戻るかもしれないし、たとえ戻らなくても、もう一度二人の関係を始めればいいんだ。それくらいの覚悟はある。


 午後からは仕事があったから、あまり長い時間は病室にいられなかった。でも、一つだけ発見があった。収穫といえるかもしれない。有紀子さんが、日記を書き始めていたことだ。

 ボクが一度病室を出て、やっぱり悔しくて戻ったときのこと。そのときは有紀子さんが眠ってしまっていたから、声を掛けずに帰った。あのとき、テーブルに置かれたノートに気づいてしまった。書こうとして、疲れて眠ってしまったのかもしれない。眠っていたのをいいことに、こっそりと覗かせてもらった。申し訳ないことだと思う。反省し、後悔もしている。恋人とはいえ、プライバシーの侵害には違いないから。

 でも、どうしてもそれを読みたくて、何度も読み返したくて、写真に撮ってしまった。その場で、無音カメラをダウンロードした自分が恐ろしい。そこまでして、日記を読もうとしていたのが怖いくらい。有紀子さんに気づかれないように、じっとしながら。

 そうして撮った日記を読んで、やっぱりがんばろうって思えた。有紀子さんが記憶を失っているのは事実みたいだけれど、諦める必要はないはずだ。記憶が戻るまで、そして戻ってからも、有紀子さんを支えていく覚悟はあるのだから。


 撮影した有紀子さんの日記を、今も何度も読み返している。恋人とはいえ、人の日記をコッソリと熟読するなんて趣味が悪いだろうか。でも、有紀子さんの側にいられているような感覚がする。有紀子さんの記憶が戻ったとき、ボクの気持ちも理解してもらえると思う。二人で積み上げてきた思い出を、こんなところで終わりにしたくない!

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