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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(1) 六月十日 (木)

 これまでのように書こうと思っても、なかなかそうもいかない。有紀子さんの意識が戻ったと聞いて、すぐに病室へ向かったのに。それなのに、有紀子さんはボクとの関係を覚えていないみたいな態度をとって・・。あれは演技ではなかったと思う。本当に記憶を失ってしまったんだよな? 悲しいけれど、それは仕方のないことかもしれない。だって、あんな事故の後だから。


 今、この日記は自分の部屋で書いている。いつか有紀子さんも入ってもらおうと思っていた、ボクの部屋で。有紀子さん、いつかあなたをこの部屋へ招きたいです。

 でも、ようやくこうして、ゆっくりと日記を書けるようになった。昨日はボクも病院にいたし、今日は朝から警察で事故について話さなくてはならなかった。きっと、有紀子さんもこれから警察に話を訊かれると思う。意識を取り戻したばかりで大変だろうけれど、少しだけ協力してあげて欲しい。ただ、けっこう緊張するから覚悟した方がいいかもしれない。悪いことなんてしていないのに、けっこう汗をかいてしまった。こんな恥ずかしいこと日記に書かなきゃいいんだけれど、有紀子さんには正直に接したいと思って書いています。


 そんなわけで、昨日は日記を書けませんでした。有紀子さんと付き合い出してから始めた交換日記だけれど、さっそく一日空白ができてしまいました。けっこうショックだし申し訳ない。でも、二人とも無事に生きているから我慢しようと思います。それでも、あのノートの続きに書くのはなんとなく悔しくて、これは新しいノートに書いています。いつか、この日記も有紀子さんにも読んでもらえたら嬉しいです。そして次こそ、二人で一冊の交換ノートを書いていきたいと思っています。

 

 さて、これからどうしよう。勘違いされたら困るのだけれど、これから毎日、有紀子さんに会いに行くつもり。有紀子さんも知っているはず、というか、覚えていてくれると嬉しいのだけれど、ボクの仕事は遅番が多いから、有紀子さんに会いに行けるのは午前中になる。まだ寝ていたらそっと帰るつもりだし、有紀子さんがボクのことを忘れているのは悲しい・・。それに、会っても恋人のように接することができないのはツラい・・。

 でも、一番ツラいのは有紀子さんなんだって理解しているつもり。体が傷つき、記憶も失って、ボクとの思い出も消えてしまったのだから。有紀子さんのことを思えば、ボクはどんなことだって我慢ができる。だって、ボクの中には有紀子さんとの思い出が残っているから。

 本当は、これまでみたいに交換日記を続けたいと思っている。有紀子さんは腕を動かすくらいは問題ないみたいだから、日記を書きたいんじゃないかとも思うし。でも、記憶喪失なんだったら仕方ない。いつか、有紀子さんの記憶が戻るまで、ボクが毎日書いておくことにしよう。

 二人で一緒に行ったペットショップで、有紀子さんが子犬に吠え続けられていたことを思い出して欲しいし、その思い出を共有したい。これまでと同じようにバカみたいに笑い合いたい。一緒に見に行くはずだった映画だって、チケットを買って準備している。有紀子さんの記憶が戻り次第、いつだって出掛ける気でいる。


 きっといつか、そんな日がくる。そう信じて、ボクは有紀子さんの病室へ向かい続けよう。でも、有紀子さんがボクとの記憶を失ってしまうなんて、神様はなんてイジワルなんだ。アピタのこととか、どこまで記憶を失っているのかわからない・・。それでも、これは神様から与えられた試練なんだと思って、乗り越えなければ! ボクたち二人なら、きっと乗り越えられる。まずは、有紀子さんの記憶が戻るときを待つという、ボクの役目を果たさなければ!

 諦めるな! 成田賢太郎!

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