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ロストメモリー  作者: 島山 平
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交換日記(2) 六月一日 (月)

 こんな日がやってくるなんて・・。信じられない、信じられるはずがない。まさか、山岡さんから声を掛けてもらえる日がくるなんて。

 山岡さんから『明日の夕方、お時間はありませんか?』なんて訊かれたら、たとえ用事があっても時間を作るに決まってる。だって、山岡さんは店内でナンバーワンの女性なんだから。アピタで働いている女性は何人くらいいるだろう。食品、医療、住関、サービスカウンター。全てを合わせて三百人くらいか。もっと多いかもしれないし、そんなにはいないのかも。

 具体的な数字は重要じゃない。大切なのは、山岡さんがその中で最も美しい女性ということだ。それも、ぶっちぎりで。しかも二十六歳。女性として最も輝く頃だと思う。外見だけでなく、働いている様子を見るだけでも、彼女の人間性の良さが伝わってくるくらいだ。

 そんな山岡さんから声を掛けてもらった。正直、嬉しすぎて怖いくらい。明日の出勤途中で事故に遭うかもしれない、ってレベルで。


 山岡さんから声を掛けてもらったのは四時くらいだった。いつもみたく一階フロアの点検を兼ねた清掃をしているときだ。これから毎日、四時になるたびに、あの幸せを思い出すかもしれない。

 実は、山岡さんが出勤の日は、サービスカウンターの周囲の掃除を念入りに行っていた。そうすれば、彼女の姿を見られる時間が多くなるから。今日も同じように清掃していたのだけれど、まさか、その山岡さんから声を掛けてもらえるなんて。ヤバい、興奮して眠れなくなりそうだ。

 でも、油断しちゃいけない。

 彼女が何を話したいのか、まだその内容は聞かされていないのだから。別に騙されているとか、おちょくられているとかは思ってないけれど、仕事に関する相談かもしれないし、恋愛とは別の内容である可能性もある。可能性という意味では、そっちの方が高いくらいかも。

 それでも、期待してしまう理由がある。

 山岡さんは、明日、ボクの仕事が休みだと知って話し掛けてくれたんだ。サービスカウンターの山岡さんと清掃員のボクでは、接点がほとんどない。店内で会ったら『お疲れさまです』と挨拶する程度。それに、彼女がボクのシフトを知っているはずがない。それなのに、ボクが明日休みだと知って声を掛けてくれた。つまり、どうにかして調べてくれたということ。清掃員のシフト表なんて、バックヤードには貼ってないというのに。そうまでして、ボクに近づこうとしていたということ。

 それだけで、期待しちゃうってもんだ!!!

 

 落ち着け、成田賢太郎。こんなテンションで山岡さんの前に立てば、失望させてしまうかもしれない。たぶん、おそらくだけれど、山岡さんもボクの外見が気になっているんだと思うから。

 自分で言うのも、というか、こうして書くのも恥ずかしいけれど、ボクの外見はイケテル。自他ともに認めるイケメンというやつになる。あぁ、こんなことを書く日がくるなんて・・。恥ずかしい恥ずかしい。たぶん、まだ舞い上がっているんだろうな。

 身長百八十三センチ、体重六十九キロ。高身長で痩せ形、顔はジャニーズのM岡くんに似ている。それがボクだ。ボクの外見だ。これまで、この外見に注目され続けてきて、され続けてきたからこそ、ボクの内面は卑屈なものになっていった。ひきこもりとかコミュ障ってほどじゃないけれど、若干の人見知りくらいだ。こうして書くのも嫌になってしまうくらい。もし、外見がそこそこで性格も明るかったら、ボクの人生は最高級のものだったに違いない。残念なことに、外見が超最高級なせいで、内面が少しばかり腐り気味だ。イケメンでも苦労するんだぞって、羨ましがってきたやつらに教えてあげたい。そんなことをすれば、『嫌味かよ!』って余計に嫌われるんだろうな。

 そんな素晴らしい外見をしているボクだからこそ、山岡さんの目にも留まった。少し複雑ではあるものの、結果だけを見れば最高だ。彼女に近づきたくてもその勇気がなかったのに、彼女の方からやってきてくれたんだから。このチャンスを生かさない手はない。だからまず、この舞い上がった気持ちを抑えようと思う。


 明日、山岡さんのシフトは五時まで。その後、着替えたりする時間もあるだろうから、五時十五分くらいには店に到着しておこう。従業員通用口から出てきた山岡さんの視界に入る辺りにいてあげればいいだろうか。

 彼女の仕事中に、私服のボクが声を掛けたら不自然だ。客として登場すれば誰からも文句を言われる筋合いはないけれど、店中にボクの顔は知れ渡っている。それくらいのイケメンだから仕方ない。そんなボクが現れたら、山岡さんとの関係を感づかれてしまうかもしれないし、彼女の集中力を削ぐことにもなる。山岡さんのことが好きだからこそ、そんなことは望んでいない。きっちり、仕事が終わったところで、プライベートの彼女に会いに行こう。


 そろそろ、明日の準備をしなくちゃならない。デート (そう呼ぶのはまだ早いかもしれない) は夕方だけれど、準備は早いに越したことはない。もうすぐ日付が変わるし、早めに寝て、早く起きよう。たぶん、緊張で寝られないと思うし。

 よし! 寝るぞ!

 明日は紳士らしく振る舞う!

 山岡さんのハートを打ち抜く!

 外見じゃなくて、中身で勝負だ!

 がんばれ! 成田賢太郎!

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