12 領主
街の領主様にいきなり呼び出された。ちなみに、辺境伯らしい。
「魔法が全く使えない身でありながら、街で活躍しているそうだな」
「いえ、それほどでも…」
謙遜ではない。グライダーにしても、僕では森から薬草や卵を送り出せない。
ホットケーキ?食堂のおばちゃんが卵や牛乳が少なくても済むよう工夫した。
「僕は、出身国で聞きかじった知識を伝えているだけです」
「それでも、薬とは別にいろいろと新しいものを生み出しているのだろう?」
「生み出したのは街の人達です。みなさん、応用力がずば抜けています」
魔法が便利過ぎて、たまたま思いつかなかっただけなのだろう。
僕が伝えなくても、将来的にはいずれ発見していたに違いない。
「それでも、お主の評判は悪くはないぞ。この間の定例会合でも…」
この世界には既に、議会制民主主義や立憲君主制に相当する制度がある。
思念記録・検知の魔法は、技術や知識だけでなく思想自体の蓄積も可能だ。
中学校程度の政治経済知識を役立てていた某ラノベ主人公がうらやましい。
「だからそんなに過小評価するな。シル、お主の視点や発想は貴重なのだ」
「そんなものなのですか…」
「我らが魔力枯渇を恐れるのは知ってるだろう。どうしても畏縮してしまう」
それでいいんじゃないかなあとも思う。度が過ぎた野心は身を滅ぼす。
元の世界で話題になっていた様々な社会問題を思い出してしまう。
「お主がなぜこの国に来たかは問わないが、ぜひこのまま定住してほしい」
「…考えておきます」
「必要なら、小さいながらも家を用意する。お主では入手は難しいからな」
正直、僕は既にこの世界に居心地の良さを感じ、離れ難くなっている。
でも、帰れるなら帰るべきだ。養ってもらっているようなこの状態はダメだ。
そんなことをつらつらと考えながら、領主の館を後にする。




