第八話 危険な勝利?
「お久しぶりですわね、ルチア様! 今日の私は一味違いますのよ!」
王立庭園のお茶会にて、扇子をバシッと開いて高らかに宣言したのは、以前「あざとポーズ」で完封したはずのライバルお嬢様・セシリアだった。
懲りずにマウントを取りに来た彼女を前に、私(中身:48歳元ニートおじさん)は「やれやれ」と心の中で溜息をつく。
(また来たよ……。もう勝負はついたろ? 王子は私の可憐さにメロメロだし、マウント取ろうとしたって無駄だって……)
そう、前回の勝負やそれ以降のやり取りで、セシリアが唯一自分の方が勝っていると誇っていた(と思い込んでいた)要素――それは「淑女らしい胸の豊かさ」だったはずだ。以前の私は確かに平らで、セシリアの方がほんの少しだけ大きかった。
だが、今日のセシリアはどこか様子がおかしい。
自信満々に胸を張ってみせるものの、どこか焦りを含んだ眼差しで私を凝視している。
「ふふん! ご覧なさいなルチア様! 今日も私は大人の魅力にあふれて……って、ちょっと待ちなさいな!?」
セシリアの言葉がピタリと止まった。
彼女の視線が、私の胸元に釘付けになっている。
それもそのはず。最近の私といえば、朝昼晩の激甘スイーツのドカ食いとコルセットの締め上げ、そして王子にキュンキュンさせられ続けた結果、過剰分泌された女性ホルモン(エストロゲン)の神秘によって、自前の胸が日に日に着実な成長を遂げていたのだから!
「な……なんですのその胸元はーっ!? 前にお会いした時より明らかに大きくなっていませんこと!? 嘘でしょ、私より……私より控えめだったはずなのに……っ!?」
「あら……? どうかされましたの、セシリア様?」
私は前世のギャルゲ知識をフル稼働させ、わざとらしく首をかしげて見せた。
(フフン、驚いたか! これぞ日頃の脂肪とホルモンバランスの狂いが産み落とした奇跡の膨らみよ!)
「くっ……! 認めませんわ! そんな、可憐さだけでなく……私が唯一勝っていたスタイルでまで負けてしまうなんて……! キーッ! ズルいですわルチア様ーっ!!」
セシリアは涙目になりながら扇子をギリギリと噛み締め、走り去っていった。
完全勝利――。しかし、一人残された私はハッと我に返り、血の気がサァァッと引いていくのを感じた。
(……待てよ? 男の俺が……他人の女の子と胸のサイズを競い合って、相手の成長を追い抜いて勝ったことにドヤ顔で歓喜してるのか……??)
レスバで鍛えたマウント魂と、すっかり育ち切った乙女心が融合した結果の謎の達成感。しかし、男としての尊厳はまたしても木っ端微塵に砕け散っていた。
「素晴らしい勝ち誇りでございました、ルチア様」
背後に控えていた侍女のエレノアが、うっとりと目を輝かせる。
「エレノア……私、もう引き返せないところまで来ちゃってる気がするのよ……(涙目)」
己の確実な「成長」と男としての喪失感に震えながら、私はそっと自分の胸元を押し包むのだっ
(フフン、見たかセシリア! これぞ日頃の激甘スイーツのドカ食いとコルセット締め上げ、そして王子のイケメン攻撃によって過剰分泌された女性ホルモン(エストロゲン)の奇跡! 勝った! レスバで鍛えたマウント勝負、完全に俺(私)の勝ちだーーーっ!!)
自分の『自前の成長』でライバルを完封し、脳内で勝利の雄たけびを上げていたその時――。
「やあ、ルチア。楽しそうにおしゃべりかい?」
極上の笑顔とともに現れたのは、婚約者候補のアストルフォ王太子殿下だった。
「あ……アストルフォ様……!」
私が振り返った瞬間、アスファルト――もとい、アストルフォ様の視線が私の胸元にピタリと固定された。
以前の「ちょっと膨らんできたかも?」という段階を超え、確かな存在感を主張し始めた私の可憐な胸元。
「あ……」
王子は絶句した。サファイアのような瞳が大きく見開かれ、顔がみるみるうちにリンゴのように真っ赤に染まっていく。
(え? なんだ……? 王子、そんなに驚いて……??)
次の瞬間、アストルフォ様は「おおっと!?」と情けない声を上げながら、ガバッと両手で鼻を覆った!
指の隙間から、鮮血がタラーッと垂れ落ちる!
「で、殿下ぁぁぁ!? 鼻血が……!? 大丈夫ですの!?」
「アストルフォ殿下!?」
私とセシリアがパニックになる中、王子は鼻血を拭おうともせず、熱い眼差しで私の胸元を凝視したまま興奮ぎみに叫んだ。
「す、すまないルチア……っ! 君が……君が可憐なだけでなく、僕の知らない間にこんなにも魅惑的な大人の女性へと成長していたなんて……っ! 淑女としての美しさが眩しすぎて、僕の理性が……理性が保てそうにない……っ!!」
「ええええええっ!?」
「ルチア、君はどこまで僕を狂わせれば気が済むんだ……! 愛している、愛しているよルチアぁぁぁ!!」
鼻血を流しながら感極まった様子で熱烈な求婚を繰り出し、私を力強く抱きしめてくる王子!
(王子ぃぃぃ!! 鼻血! 鼻血出てますって!! 服につく! ドレスについちゃうからぁぁぁ!!)
ド直球な愛の言葉と抱擁の熱気に、私の顔も爆発しそうに熱くなる。
(……待てよ? セシリアに勝ったのはいいけど、王子の理性を狂わせた結果、俺の乙女としての身の危険が跳ね上がってないか……!?)
鼻血を流す王子に抱きしめられながら、私は己が勝ち取った「成長」の代償の大きさに、ドッキドキの悲鳴を上げるのだった。




