第五話 ライバル参上!
「あら、ごきげんようルチア様。……相変わらず、子供っぽいフリフリドレスがお好きなのね?」
王立庭園のお茶会で、扇子を優雅に揺らしながら私を見下ろしてきたのは、侯爵家の高慢なお嬢様・セシリアだった。
彼女はアストルフォ様の婚約者候補の座を狙う、いわば私のライバルである。
「アストルフォ殿下のお隣に立つには、もっと大人びた気品が必要ですわ。殿下も本当は、もっと洗練された『本物の淑女』をお求めなのではありませんこと?」
フンと鼻で笑うセシリア。
以前の私(中身:48歳無職ニート)なら、「どうぞどうぞ! 王子なんてあげるから俺を放免してくれ!」と歓喜して譲っていたはずだ。
だが、今の私は――何かが違っていた。
(あぁん?? なんだその上から目線は!? 誰に向かってマウントとってんだこのアマ!!)
胸の奥で、前世の「レスバ(ネット掲示板のレスバトル)で鍛え上げた48歳おじさんのマウント魂」がメラメラと燃え上がる!
……いや、それだけじゃない。
(アストルフォ様が……『本物の淑女』の方がいい……?? 冗談じゃないわ!! アストルフォ様は私を選んでくださったのよ!?)
おじさんの負けず嫌いと、育ち切った乙女心が最悪のフュージョンを起こした結果、私の口から出力されたのは完璧な煽りお嬢様ムーブだった。
「あら……? ご親切にどうも、セシリア様。でも、アストルフォ様は『そのままのルチアが一番可愛い』とおっしゃってくださいますの。……大人の気品(笑)に頼らないと振り向いてもらえないなんて、大変ですのね?」
「〜〜〜っ!? な、なんですって……!?」
セシリアの顔が見る見る真っ赤になる。
勝ち誇る私。……しかし、脳内の理性が叫ぶ。
(待って!? 俺、なんでマウント返ししてんの!? 負けず嫌いが出すぎて自分から『私が一番可愛い』ってマウント取っちゃったよ!?)
だが、一度火がついた「マウント対決」は止まらない。
「私、アストルフォ様からこんなに素敵なサファイアの指輪をいただいたのよ? セシリア様は、殿下から何かプレゼントをいただきましたかしら?」
「くっ……! た、たかが指輪の一つや二つ……! 殿下! アストルフォ殿下!!」
セシリアが怒りで震えていると、ナイスタイミングでアストルフォ様が姿を現した。
「やあ、ルチア。楽しそうにおしゃべりかい?」
「アストルフォ様……!」
私は咄嗟に、これ以上ない可憐な「あざとポーズ」でアストルフォ様の腕に抱きついた。
「セシリア様が、私のドレスを褒めてくださっていたのですわ。でも……私、アストルフォ様にもっと『可愛い』って言っていただけないと、不安になってしまいますの……っ」
上目遣いでうるうるした瞳を向ける私。
(うわあああ我ながら完璧なあざとムーブ!! 前世のオタク知識をフル活用してライバルを完封しにいってるぅぅぅ!!)
アストルフォ様は一瞬で撃沈された。胸を押さえ、感極まった顔で私を強く抱きしめる。
「〜〜〜っ! ルチア、君は世界で一番可憐だよ! 誰が何と言おうと、僕の妃になるのは君だけだ!!」
「殿下ぁ……!!」(絶叫するセシリア)
抱きしめられながら、私はセシリアに向かってチラリと「ドヤ顔」を決めて見せた。
セシリアは「キーッ!!」と金網を引っかくような悲鳴を上げて走り去っていく。
完全勝利。
……しかし、王子の温かい胸の中で正気に戻った私は、顔から火が出るほどの羞恥心に襲われていた。
(勝った……! いや勝ったけど……俺、女相手に可愛さ勝負でマウント取ってドヤ顔したのか……?? 男としてのプライドどこ行ったの……!?)
「ルチア、嫉妬してくれたのかい? 本当に愛しいよ……」
「あ……アストルフォ様……」
甘い瞳で見つめられ、私の胸がドキンと跳ねる。
ライバルを退けた達成感と、王子へのトキメキで頭がどうにかなりそうだ。
(あああ……もういいや……私、絶対に負けないんだから……可愛さでも、アストルフォ様のお隣も……っ!!)
おじさんの意地と乙女のプライドが完全に同化し、私は逃げ場のない「最強の男の娘ヒロイン」へと進化を遂げていくのだった。




