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第三十九話 お肌のお手入れ

「ごきげんよう、ルチア様!」

王立庭園のガゼボにて、またしても現れたライバル・セシリア。だが、今日の彼女はいつもと違っていた。その肌は陶器のように白く、一切のくすみもなく、光を浴びてツヤツヤと輝いている。

(なんだあいつ……! 肌の治安がめちゃくちゃ良くなってやがる……っ!?)

中身が48歳元ニートおじさんである私(ルチア)は、前世の夜更かしと偏った食生活のツケを美少女の神秘的な透明感で必死に誤魔化している身。対するセシリアは、鼻息を荒くしながら自慢の頬をビシッと指さした。

「ふふん、ご覧なさいなルチア様! 今日のわたくしのこのお肌! 最高級の真珠の粉末と、東方の希少なハーブから抽出した特製ローションを夜な夜な塗りたくって手に入れた、隙のない『究極の美顔』ですわ!」

「……ふーん?」

私は前世の美容系YouTuberの知識(聞きかじり)を総動員し、あえて余裕の笑みを浮かべて扇子で口元を隠した。

(落ち着け私……。あんな高価そうなスキンケア、こっちはそんな金も手もかけられない。だが、おじさんには最強の武器がある……! 朝昼晩の激甘スイーツによる『糖分パワー』……いや、それは肌荒れの元か!? えっ、待って、じゃあどうやって勝つの私!?)

内心で冷や汗をダラダラと流しながらも、外見だけはあくまで「生まれながらの美の象徴」を装わなければならない。

「セシリア様。お肌のケアに精を出されるのは結構ですけれど……そんなに表面的に塗りたくって、お肌が窒息してしまいますわよ? くすくす」

「なっ……! 窒息ってなんですのよ! これはれっきとした科学的な……!」

「お肌にとって一番大切なのは、日々の心の平穏と、内側から溢れ出る『愛』ですもの。……例えば、アストルフォ様から毎晩のように注がれる、あの熱いまなざしと甘い言葉の数々……これに勝る美容液など、この世に存在しませんわ♪」

「ぐっ……!!」

セシリアの顔が、怒りと嫉妬で真っ赤に染まる。王子からの寵愛という最強のパワーワードを繰り出したことで、セシリアの美顔がみるみるうちに般若のような表情へと歪んでいく。

「い、愛の美容液だなんて……! そんな精神論で綺麗になれるわけがありませんわ! 証拠に、貴女のそのお顔の秘密を暴いてやりますわよ!」

セシリアが狂乱したように詰め寄ってきたその時――。

「そこまでだ、セシリア」

涼やかな、しかし氷のように冷たい声が庭園に響き渡った。

振り返ると、そこにはいつの間にか佇んでいたアストルフォ王太子の姿が。その美しい紫水晶のような瞳が、冷ややかな光をたたえてセシリアをとらえている。

「殿下……っ!?」

「ルチアの美しさは、日々の気高さと、僕に向けられる純粋な愛によって磨かれたものだ。君のような浅ましい執着で汚していいものではない」

「そんな……! わたくしだって、こんなに努力を……!」

「下がりなさい。これ以上ルチアの邪魔をするというなら、侯爵家への処置を考えなくてはならないな」

王太子の圧倒的な圧力と「愛の重さ」の前に、セシリアはブルブルと震え上がり、「覚えておきなさーーーっ!!」と捨て台詞を残して、今度こそ文字通り涙を拭いながら逃げ出していった。

静けさが戻った庭園。

アストルフォ様はふっと表情を和らげると、私へと優しく歩み寄ってきた。

「ふう、鬱陶しい虫が払えてよかったよ。……ねえ、ルチア。今日も君のそのお顔は、息を呑むほど美しい。少し近づいてもいいかい?」

「あ……アストルフォ様……っ♪」

(ひゃあああ、顔が近すぎるっ! スキンケアの手抜きがバレる距離だよ!!! やめて、おじさんの毛穴を見ないでぇぇぇ――っ!!)

美顔マウントには辛勝したものの、王太子の至近距離からの甘すぎる愛の攻防に、ルチアの心臓は限界突破で鳴り響くのだった。


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