第三十七話 凶器?巨器?
「あ、ルチア、見てごらん。あそこの植え込みに珍しい蝶が……」
「まぁ、本当ですわ、アストルフォ様♪」
秋晴れの気持ちの良い午後、私はアストルフォ様と並んで王立庭園の小道をのんびりとお散歩していた。
贅肉と過激なコルセットの相乗効果で育った私の胸は、今日も今日とてドレスの上から堂々たる存在感を放っている。中身が48歳のおじさんだという現実から目を背け、私はすっかり「完璧なお嬢様」として王子とのデートを満喫していた。
その時である。
「おーい、ルチア!」
少し離れた場所から、アストルフォ様が私を呼んだ。
「ん……?」
私はすっかり気を抜いて、「なぁに?」とばかりに勢いよく、クルリと振り返った。
――だが、ここで一つの物理的誤算が生じた。
日々の激甘スイーツと謎の女性ホルモンの活性化によって、私の胸はもはや「ただの脂肪の塊」の枠を超え、予測不可能なまでの質量と爆発的な弾力を身につけていたのである。
私が急激に体を翻したその遠心力は、凄まじい破壊力を生み出していた。
ぶおんっ!! と空気を切り裂く音とともに、私の胸の膨らみがまるで砲弾のように弧を描く。
そして――。
「ぐふっ……!?」
目の前にいたアストルフォ様の顔面に、私の豊満な胸が文字通り「直撃」した。
「……え?」
何が起きたのか理解できず、私は動きを止めた。
次の瞬間、――「ぽーん!」 という漫画のような勢いの音を立てて、王立庭園の美しき第一王子・アストルフォ様が、見事に宙を舞い、数メートル先の芝生へと盛大に吹っ飛んでいったのである!
「あ、アストルフォ様ぁぁぁーーーっ!?」
私は絶叫しながら、慌ててひらひらしたドレスの裾を抑えて駆け寄った。
芝生に大の字になってゴロゴロと転がった王子は、目をぐるぐると回し、頭から湯気を立たせて完全にフリーズしていた。
「な……ななんと……」
王子はフラフラと起き上がり、真っ赤に腫れ上がった鼻を抑えながら、信じられないものを見る目で私を見上げた。
「い、今の衝撃は……隕石か……? いや、それとも我が国の最終兵器か……っ!?」
「ち、違うんですのよアストルフォ様! 私はただ振り返っただけで、その、私の肉体が勝手に暴走したというかですね!?」
冷や汗をダラダラと流し、必死に弁明する私。
しかし、王子の脳内フィルターは、この常軌を逸したアクシデントを全く違う方向へとねじ曲げて解釈した。
「……っ! なんという情熱的なスキンシップ……!」
アストルフォ様は鼻血をタラタラと垂らしながら、うっとりと瞳を潤わせた。
「僕を驚かせようと、あえて全身を使って愛情表現を……! ああ、ルチアのその激しいまでの愛……痛いほどに伝わってきたよ……っ!」
「伝わってません! ただの物理的な暴力ですわ殿下!!」
(おじさんの肉体が生み出した殺人級のバスト捌きで、まさか王子を物理的に吹っ飛ばすことになろうとは……っ!)
己の胸の凶器ヂカラに震えながら、私は倒れ込んだ王子を回収し、今日のところはそっとお散歩を切り上げるのだった……。




