第三十五話 暴かれた数値!
「――よし、誰もいないわね」
自室の扉をしっかりと施錠し、分厚いカーテンを閉め切ったルチア(中身:48歳元ニートおじさん)は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
手には、王都の仕立て屋が使う真新しい「巻き尺」が握りしめられている。
(下半身の『男の残骸』がついに跡形もなく消え去り、完全に女性の身体になってしまったあの衝撃の湯浴みから数日……)
日々の激甘スイーツドカ食い、エレノアによる容赦ない締め上げ、そして王太子アストルフォからの過剰なまでの溺愛(=大量の女性ホルモン分泌)により、ルチアの肉体はもはや人間離れした変貌を遂げていた。
(周りからは「王国一の豊満ボディ」だの「神々の造形物」だの持て囃されているけれど……実際の数値として、今の私は一体どうなっちゃってるのよ……!?)
恐怖と好奇心が入り交じり、ルチアは震える手で巻き尺を自身の身体にあてがった。
まずは、すべての元凶であり、日増しにメロンのように肥大化している上半身――バストの計測だ。
「い、いくよ……? せーのっ……」
巻き尺を背中から回し、ふくよかな膨らみの頂点へと合わせる。
目に入った数字を確認した瞬間、ルチアの思考は盛大にショートした。
「……は……? え……?」
そこが示していたメモリは、なんと 「135cm」。
「……いちひゃく、さんじゅう……ご……? はあぁぁぁぁっ!??」
絶叫が自室に響き渡る。
人間の胸のサイズとして完全にバグっている。アニメや漫画に出てくるデフォルメされたキャラクターだって二度見するレベルの、もはや凶器じみた数値だった。
前世のオタク知識が脳裏をよぎる。
(ちょっと待ってよ! 135センチって何!? 私の身長の半分近くが胸の出っ張りってどういうことなのよ!? どんな異次元の物理法則よこれ!! 脂肪の記憶形状もここまで来るとホラー映画でしょ!!)
パニックを起こしながらも、ルチアは恐怖に引きつる顔のまま、次の場所へ巻き尺を移動させた。
次は、コルセットによって奇跡的な形状記憶をさせられたウエストだ。
「こ、ここは……頼むから常識的な太さであってちょうだい……っ!」
そっとお腹周りに巻き尺を回す。
計測された数字は、「55cm」。
「……細っっっ!!!」
自分でも思わずツッコミを入れてしまうほどの極細ウエスト。
あんなに毎日パンケーキや濃厚なチョコレートケーキを山ほど食べているというのに、摂取したカロリーのすべてがウエストを完全にバイパスし、謎のルートを通ってすべて上の「135cm」へと直行しているとしか思えない奇跡の数値だった。
(くびれがキュッとしすぎてて、自分の身体なのに折れそうなんですけど……! 怖っ! 私の胴体、どうなっていのよ!?)
そして、最後は下半身――ヒップの計測だ。
恐る恐る巻き尺をヒップの最も高い位置へと回す。
「……っ! これでヒップまで爆発してたら、私はいよいよ人間の枠を外れる……!」
出た数値は、「88cm」。
「……あれ?」
意外にも、こちらはモデル並みの完璧で上品な黄金比率に収まっていた。
上は規格外の135cm、ウエストは脅威の55cm、そしてヒップはすらりとした88cm。
部屋の鏡に映る自分の姿は、あまりにもアンバランスかつ、究極のグラマラスボディを体現した「誰もが振り返る完璧な美少女お嬢様」そのものだった。
「スリーサイズが……バスト135、ウエスト55、ヒップ88……」
ルチアはその場にガタリと崩れ落ち、巻き尺を握りしめたまま遠い目を した。
(アニメキャラだってドン引きするような数値じゃない……! 完全にバグってる……私の身体、もう地球の重力とか生理学の法則を完全に無視してるわよ……!!)
「失礼します、ルチア様。お茶の……まあ!」
ちょうどその時、扉をノックして入ってきた専属侍女のエレノアが、ルチアの手にある巻き尺と、その圧倒的すぎるスタイルを見てパッと両手を合わせ、うっとりと目を輝かせた。
「素晴らしいですわルチア様! バスト135cmにウエスト55cm、ヒップ88cm……! 完璧、完全無欠の神すたいるでございます! これもう王都どころか、大陸全土の紳士たちがひれ伏す奇跡のプロポーションですわ!」
「喜べないわよぉぉぉ!! 服が! 特注のドレスしか着られない身体になっちゃったじゃないのよーーっ!!(涙目)」
おじさんのプライドを完全に置き去りにしたまま、ルチアの「究極のお嬢様ボディ」は、今日も今日とて留まるところを知らずに進化(?)し続けてしまうのだった。




