第三十三話 ふと我に返る
ふと、ルチア(中身:48歳元ニートおじさん)の脳裏に、これまでの壮絶な経緯がフラッシュバックする。
(待てよ……? よく考えたら俺、前世では48年間ずっと孤独にネットとアニメに囲まれて生きてきて、人から愛されるどころか、誰にも必要とされない無職ニートだったよな……?)
湯上がりのふかふとしたベッドの上で、ルチアは自分のふくよかになった胸元を押さえながら、遠い目をした。
(それがどうだ……。異世界に転生した途端、美少女としてチヤホヤされ、世界で一番偉いイケメン王子様からは狂気的なまでの愛を注がれ、さらに専属侍女のエレノアには母性と忠誠心を全全全開で甘やかされ……、極め付けには肉体まで完璧な『尊いお嬢様』に自動最適化されてしまった……)
ここで、おじさんの理性がかすかに、しかし鋭くツッコミを入れる。
(……あれ? これってさぁ……)
【究極の「働かずに食っていける(しかも最高級の美食と愛付き)ヒモ・お姫様生活」が完成してないか……!?】
48年間、就職活動の失敗と社会からの疎外感に怯え、親のすねをかじり続け、いつか路頭に迷う恐怖と戦ってきた元ニートおじさんにとって、この状況は――。
* 朝起きれば最高級のドレスが用意され、
* 美味しいスイーツが無限に与えられ、
* 家事や労働の必要性はゼロ(すべてエレノアや使用人がやってくれる)、
* さらに「可愛い可愛い」と全肯定され続ける。
(……待て待て待て待て!! 男に戻って婚約破棄してボロアパートでひっそり無職ニートライフを送るより、このままアストルフォ王子の正妻(お妃様)の座に収まって、一生涯王宮のふかふかベッドで養われる方が、難易度もリターンも圧倒的に高待遇じゃね……!?)
これぞ、ニートとしての最適解(コスパ最強の生存戦略)。
「男のプライド」という、何の役にも立たないちっぽけなプライドのために、自ら過酷な労働(あるいは孤独な隠居生活)へ戻ろうとしていた自分は、なんて愚かだったのか。
(……いや、でも私はおじさんだし……! 中身は48歳だし……!)
と、かろうじて残っていた最後の良心がブレーキをかけようとするが、ふと鏡に映った自分を見てしまう。そこには、透き通るような白肌、艶やかなプラチナブロンドの髪、そして服の上からでもわかる脅威のグラマラスボディを持つ、息を呑むほどの美少女(完璧なお嬢様)が佇んでいた。
「……はぁ。もう、いっか……」
ルチアは脱力し、ふかふかの枕にパフッと顔をうずめた。
男に戻るための悪あがき、システムへの抵抗、そのすべてが「面倒くささ」の波に飲まれて霧散していく。
(労働ゼロで王子に愛されて美味しいものを食べる人生……。それはもはや、48年間ニートが夢見た【究極の楽園】そのものじゃないか……。負けたわ……私の完敗よ……)
おッサン思考から「悟り(完全降伏)」の境地へと到達したルチアは、もはや抵抗を諦め、明日から始まるお妃様教育をどうやってダラダラとやり過ごすかという、新たなニート的思考の沼へと沈んでいくのだった――。




