第三十二話 バチバチのお茶会
午後の王立庭園。陽光が柔らかく降り注ぎ、色とりどりのバラが咲き誇る最高のロケーションで、優雅なティータイムの準備が進められていた。
しかし、そこに集まった顔ぶれは、平和とは程遠い「一触即発の修羅場」を形成していた。
テーブルを囲むのは3人。
王太子の正式な婚約者であり、日々の過剰なスイーツと女性ホルモンの分泌によって「王国一の胸囲(自称・元48歳おじさん)」へと神格化を遂げてしまった主人公・ルチア。
そして、ルチアを目の敵にして高慢な笑みを浮かべる侯爵家のお嬢様・セシリア。
さらに、表面上の楚々とした笑顔の裏でエグい策略を巡らせる新進気鋭の腹黒清楚系美少女・クラリスである。
(なんでこうなったのよ……っ!!)
ルチアは心の中で頭を抱え、目の前に置かれた極上の三段トレーを見つめた。
そこには、専属侍女のエレノアが気合を入れて焼き上げた「バターと砂糖の暴力みたいな濃厚スコーン」と「特製パンケーキ」が山のように積まれている。
「ふふ……本日はお招きいただき光栄ですわ、ルチア様」
最初に口を開いたのはセシリアだった。彼女は扇子をパタパタと揺らしながら、闘志満々の目を向けてくる。
「前回の舞踏会ではいい気になってくださいましたわね。ですが、今日の私は違いますのよ。大人の気品と洗練された会話こそが、王太子殿下の心を射止めるのですわ」
「あら、そうですの? ごきげんよう、セシリア様」
ルチアは前世のネット掲示板で培ったレスバ魂と、自動改変システムによる完璧な美少女スマイルを全開にする。
(うっせぇな、相変わらず負けず嫌いねこのアマ! こっちは王国一の爆乳と完璧な淑女ムーブで返り討ちにしてやるわ……!)
だが、その隣で上品に紅茶を啜っていたクラリスが、スッと美しい目を細めた。
「お二人とも、お喋りがお上手ですこと♪」
クラリスの完璧に作り込まれた微笑みが、ほんのわずかにピクリと痙攣する。
「ですが――妃の座にふさわしいのが、『口の上手いお人形』なのか、『真に国を支える賢夫人』なのか……すぐに分かりますわね♪」
(っ……! こいつ、前の勝負より一段と格が上がってやがる……!!)
クラリスが放つゾッとするほど美しい冷笑に、ルチアの胃孔がキリキリと音を立てる。
「まあ、そんなギスギスしたお話はやめましょうよ」
冷や汗を隠しながら、ルチアは優雅にカップを持ち上げようとした――その時。
「おや、楽しそうなお茶会をしているではないか」
「私たちも混ぜてもらってもいいかね?」
突然、甘い香りに誘われて現れたのは、親バカ全開のグランベルク公爵夫妻(ルチアの両親)だった。
「お父様、お母様! なんでここに……!?」
「なに、我が愛娘が3人の華やかなお嬢様方とお茶会をすると聞いてな! ほう、この手作りスコーンは素晴らしい! 見た目は無骨だが、我が娘の溢れんばかりの情熱と愛が詰まっている!」
「本当ですわ、あなた! ルチア、もっとお食べなさい。その、日に日に豊かになっていく胸元こそ、我が家の誇りですわ♪」
両親がルチアの胸元を指さして大絶賛し、勝手に席に座ってスコーンをドカ食いし始める。
「「「…………は?」」」
セシリアとクラリスの動きが完全にフリーズした。
セシリアは「え、親公認で胸の大きさを誇るスタイルなの……?」と絶句し、クラリスの腹黒い計算も、公爵夫妻の斜め上を行く狂気の前には完全に粉砕されていた。
(やめろぉぉぉ! 親公認で胸の成長を語るな! 私の中の48歳おじさんが羞恥心で爆発四散しちゃうだろーーーっ!!)
顔を真っ赤にしてブルブルと震えるルチアの姿を、セシリアとクラリスは「あれが余裕の笑みと貫禄の現れ……!?」と勝手に誤解し、戦慄の表情で青ざめていく。
「さあ、ルチア様も冷めないうちに召し上がれ♪」
母親に勧められるがまま、甘いお菓子を口に放り込まれたルチアは、美味しいという幸福感と、「また胸が育ってしまう」という恐怖の板挟みで、絶叫しながら優雅に微笑むのであった。




