第三十一話 強力ライバル登場!?
「あらあら、ルチア様。今日も一段と……お美しいですわね♪」
王立図書館の静寂な一角。窓から差し込む柔らかな陽光を浴びながら、上品に紅茶を嗜むその少女は、侯爵家から新たに送り込まれた次なる婚約者候補——クラリス・フォン・ローゼンバーグであった。
プラチナブロンドの長髪を美しくカールさせ、誰が見ても庇護欲をそそる儚げな青い瞳。常に慈悲深い聖母のような微笑みを浮かべ、言葉遣いはどこまでも丁寧で清楚。
——だが、それはすべて「計算された仮面」に過ぎなかった。
(なんだこの子……! 見るからに『おっとり系天然美少女』の皮をかぶってるけど、目玉の奥が全く笑ってねぇ……!!)
中身48歳のおじさん(ルチア)が前世の人生経験とネットの修羅場で培った「危険人物レーダー」が、全身の産毛を逆立てて警報を鳴らす。
以前のセシリアのような「分かりやすい高慢ちき」であればレスバで一蹴できたが、このクラリスという少女は、周囲の貴族や教師たちからの好感度を完全にハッキングし、「被害者ポジション」をノータイムで構築するタイプの極悪非道な腹黒系だった。
「私など、ルチア様の足元にも及びませんわ。殿下が毎日あんなにも熱烈にルチア様のお部屋に通われて、夜な夜な甘い愛を囁き合っていらっしゃるという噂……本当ですの? 私、羨ましくて嫉妬で胸が締め付けられそうですわ……おほほ♪」
一見すると、ルチアを立てつつ自分を卑下する「健気な少女の賛美」に聞こえる。
だが、その言葉の裏には「王太子が毎晩あなたの部屋に入り浸っている(=純潔が危うい、あるいは既成事実を作られている尻軽女だ)」という強烈な毒と、周囲の貴族たちにあらぬ妄想を植え付ける悪質なミスディレクションが隠されていた。
周囲の貴族男子たちが「えっ……王太子殿下が毎晩ルチア様の部屋に……?」「なんて羨ましい……いや、破廉恥な……」と、羨望と嫉妬が入り混じった生々しい視線をこちらに向けてざわめき始める。
(くっ……!! 言い方!! まるで私が自ら進んで王子を誘惑してやらかしてるみたいに言やがったこの腹黒ペコちゃんがァーーーっ!!)
ルチアの頭の中で、レスバおじさんの血が沸騰する。
しかしここで下手に怒りを露わにすれば、「聖女クラリスをいじめる嫉妬深い悪女」のレッテルを貼られてしまう。相手は清楚の皮を被った百戦錬磨の謀略家だ。
「まあ、クラリス様……そんな風に誤解されるような言い方をなさるなんて、お茶の味が渋くなってしまいますわね♪」
私はあえて扇子で口元を隠し、作り得る限りの最も無垢で上品な「天使の微笑み」を貼り付けて言い返す。
「殿下が私を案じてお心を寄せてくださるのは、私の身が……ほら、このように『あまりにもか弱く、守ってあげなければすぐに消えてしまいそうなほど繊細』だからですの。クラリス様のように、図太く……失礼、とてもしっかりとしたタフな肉体をお持ちの方には、この王太子の庇護欲の深さは少し理解しにくいかもしれませんわねおほほ♪」
「…………っ!?♪」
クラリスの完璧に作り込まれた微笑みが、わずか0.1ミリだけピクリと痙攣した。
「図太い(=太っている、あるいは図々しい)」という致命的な嫌味を、満面の笑みと「か弱い美少女アピール(※実態はドレスを破壊しかねない爆乳わがままボディ)」でオブラートに包み込んでカウンターを叩き込んだのだ!
(ふっ、どうよ! 清楚な言葉で相手をブチギレさせるテクニックは、前世のネット掲示板とギャルゲの嫌味キャラから全プッシュで学んだんだよ!!)
心の中でドヤ顔を決めるルチア。
しかし、その圧倒的な胸の膨らみが「か弱い美少女」の説得力を完全に粉砕しており、服の上からでもわかる破壊力が周囲の視線を釘付けにしているという致命的な矛盾に、本人はまだ気づいていなかった。
「ふふ……ルチア様は、本当にお喋りがお上手ですこと。……ですが、妃の座にふさわしいのが『口の上手いお人形』なのか、『真に国を支える賢夫人』なのか……すぐに分かりますわ♪」
クラリスはゾッとするほど美しい冷笑を瞳の奥に宿すと、優雅に一礼して去っていく。
(やべぇ……今までのライバルと格が違う……! 次回以降、もっとえげつない罠を仕掛けてくる気だ……っ!!)
腹黒清楚系美少女の参戦により、ルチアの「平和な(?)贅沢ニートお嬢様ライフ」は、さらに予測不能な泥沼の権力闘争へと突入していくのだった——!




