第二十九話 魔法再び
「……待てよ? 落ち着け俺、いや私! 冷静に脳内データベースを検索するんだ……!」
自室のふかふかソファの上で、ルチア(中身:48歳元ニートおじさん)は可憐な頭に手 we 添えて記憶の糸を手繰り寄せた。
(確か……あの『迷いの森』の祭壇で見た古代のシステムメッセージ! あれは『【現実改変・身体再構築魔法】の自動発動システム』って書いてあったわよね!?)
そう、あれは前世の日本人転生者が遺した、入力パラメータに従って肉体を改変する全自動魔法システムだったはずだ。
前回は、アストルフォ王子の超絶愛執やエレノアによる脂肪記憶形状のせいでエラーを起こし、「美少女パラメータ強化」という悲惨な代替処理を実行されてしまったが……!
(でも! あれは『自動発動システム』なんだから、システム自体はあそこにまだ存在しているはず……! もう一度『迷いの森』に行ってシステムを再起動させれば……!)
ルチアの脳内に、奇跡の再挑戦のシナリオが閃く。
(今の俺の身体は、下半身が完全消滅して完璧な女子になっちゃってる。だけど……! 男に戻るのがシステム的に拒絶されるなら、せめて『男の娘(男の象徴付き美少女)』という設定で入力をゴリ押せばいけるんじゃないかしら!?)
「『完全な男』への復元はエラーでも、【可憐な美少女のまま、下半身にだけシンボルを再構築する】というマイナーチェンジなら……! 王子の愛(美少女好き)とシステムの折衷案として通りやすくなるはず……!!」
かつて48年間培ったネットスラングと屁理屈の知恵が、恐ろしいスピードで回転し始める。
「そうよ! 男の娘に戻れさえすれば、『実は私、ついてるんです……!』ってアストルフォ様にカミングアウトして、ショックを受けた王子から婚約破棄を勝ち取れる……! そしたら俺は晴れてフリーの無職ニート(元お嬢様)として、一生怠惰に暮らせるじゃないのよぉぉぉ!!」
完璧すぎる(と本人は思っている)勝機を見出し、ルチアは勢いよく立ち上がった。
「決めたわ! 決めたわよ!! 今夜、屋敷を抜け出してもう一度【異界の祭壇】へ向かうわ!! 今度こそ俺の『息子』を取り戻し、最高の男の娘として復活してみせるーーーーっ!!」
自分の胸の圧倒的な爆乳がドレスを揺らすのも気にせず、ルチアは拳を握りしめて野望に燃えるのだった。
……しかし彼女(彼)はまだ知らなかった。
システムがすでに『アストルフォ王子の愛』と『エレノアの補正力』によって、二度と再設定できないように【完全ロック&固定化】されているという残酷な仕様変更に――。
その夜、エレノアの目を盗み、屋敷を忍び出たルチア(中身:48歳元ニートおじさん)。夜の「迷いの森」を必死に駆け抜け、ついにたどり着いた【異界の祭壇】。
「はぁ……はぁ……! 勝った……! エレノアにも気づかれずにここまで来られたわ……! これで俺は『男の娘』として復活し、アストルフォ王子にカミングアウトして婚約破棄、からの最高の無職ニート生活を手に入れるのよーっ!!」
月明かりの下、歓喜の表情で古代の石板——【全自動現実改変・身体再構築システム】へと飛びついたルチア。
だが、そこに表示されていたのは、以前のような青い光の入力画面ではなく——禍々しいまでの真っ赤な警告ウィンドウと、予想だにしなかった「人物」だった!
1. 画面を埋め尽くすシステムメッセージ
『——エラー。アクセス権限がロックされています。』
『——理由:システム管理者(アストルフォ王太子&エレノア)による【パラメータ完全固定化アプデ】が完了済みです』
「は……??? かんぜん、こていか……???」
パチパチと瞬きをするルチアの前に、詳細なシステムログがスクロール表示される。
* 【下半身データ】:アストルフォ王子の超絶愛執およびエレノアのナプキン固定により、女性器へと完全構造変換済み。「男の象徴」の再構築オプションは『不純な突起物の発生』とみなされ永久削除(ゴミ箱も空にされました)。
* 【男の娘化申請】:『王子の愛執(美少女至上主義)』と競合するため拒絶されました。
* 【爆乳データ】:脂肪の記憶形状完了により、不可逆な『究極バスト』としてシステムにバックアップ保存済み。
「ゴミ箱を空にされましたって何よぉぉぉ!? 俺の息子はパソコンの不要ファイルじゃないのよーっ!!(涙目)」
絶望の悲鳴をあげるルチアの背後から、ぬっと影が伸びる。
「……おやおや、ルチア様。こんな夜更けに、このようなお足元の悪い場所へお一人で来られるなんて……」
「ひぇっ!?!?」
振り返ると、そこには優雅にランプを掲げた侍女のエレノア。そしてその隣には、月光を背に受けて妖しく微笑む婚約者候補——アストルフォ王子の姿があった!
「ア、アストルフォ様!? エレノア!? な、なんでここに……!?」
「ふふっ、お召し替えの際、ルチア様がソワソワと股間……ゴホン、下半身の心配をなさっていたので、もしや『以前の光の魔法』に未練がおありなのかと、殿下にご報告差し上げたのですわ♪」
「エレノアァァァ! お前また余計な報告をーーーっ!!」
アストルフォ王子は愛おしそうに目を細め、ルチアに歩み寄ると、逃げ出せないようその豊満な胸ごと優しく抱きすくめた。
「聞いたよルチア。君はまだ……自分の身体が『完璧な乙女』へと変化したことに不安を感じ、過去の姿(男)に未練を残していたんだね……?」
「ち、違うの! 不安とかじゃなくて俺は男の娘になりたくて——」
「大丈夫だよ、エンジェル。もう二度と君が余計な迷いを抱かないよう……僕とエレノアで、この『異界のシステム』に【愛のマスターキー】を打ち込んでおいたからね」
3. システムの最終実行
王子がルチアを抱きしめたまま石板に手をかざすと、システムから『ポン♪』と祝福のメロディが鳴り響いた。
『——マスターキーを認証。アストルフォ王子の愛執エネルギーを魔法魔力に変換。【ルチア完全乙女化・絶対固定魔法】を永久発動します』
『——副次効果:下半身の再構築試行を検知したため、カウンター処理を実行。胸囲の自動成長スピードがさらに1.5倍に上方修正されました』
「んあぁぁぁっ!??!」
ルチアの胸元が、ドレスを押し破らんばかりのモチモチ感を増し、さらにワンサイズ巨大化する!
「見ごらんルチア。古代のシステムすらも、君が完璧な僕のお妃様になることを望んでいる……」
「違ぁぁぁう! システムが王子の重すぎる愛にハッキングされて都合よく書き換えられただけぇぇぇ!!」
「さあ、お屋敷へ帰りましょう、ルチア様。今夜は『完璧な乙女となられたルチア様』のお祝いに、厨房で特大のお赤飯を炊かせておりますわ♪」
「お赤飯炊くなと言ったでしょうがぁぁぁぁぁ(大泣き)!!」
『男の娘』になるどころか、システムの最終防衛線すら王子の愛とエレノアの手回しによって完全に破壊され、胸をさらに巨大化させたお嬢様ルチアは、王子に姫抱っこされたまま絶望の夜空へ悲鳴を響かせるのだった——。




