第二十六話 馬鹿なの?
「ルチア様……お願いですわ、わたくしにその『極意』を教えてくださいましーーーっ!!」
ある日、王立庭園のお茶会にて、突如として私の目の前で激しく頭を下げてきたのは、ライバルの高慢お嬢様・セシリアだった。
先日の「お腹の肉暴露事件」で返り討ちに遭い、脂肪の記憶形状という謎の科学(?)と本物の巨乳化した私の圧倒的存在感に敗走したはずの彼女である。
(な、なんだ急に……!? 天変地異でも起きるのか……!?)
私(中身:48歳元ニートおじさん)が引きつった顔で固まっていると、セシリアは涙目になりながら私の「圧倒的な成長を遂げた胸元」を凝視してきた。
そう、私の身体は日増しに暴走を続けている。下半身の男性器が日を追うごとに小さく萎縮していくのと引き換えに、上半身の胸は留まることを知らず肥大化の一途を辿っていた。もはや「控えめな膨らみ」など過去の遺物であり、セシリアの胸など完全に置き去りにする圧巻の果実へと育ち切っていたのだ。
「わたくし……諦めきれなくて調べ尽くしましたの! 貴女が毎日なさっているという『朝昼晩の激甘スイーツのドカ食い』と『限界突破のコルセット締め上げ』……! わたくしもここ数日、命がけで真似をしてみたのですわ!!」
「えっ、真似したの!? バカなの死ぬの!?」
思わず素のレスバ口調が出かける私。セシリアはプルプルと震えながら、自身のドレスの胸元とウエストを指さした。
「けれど……けれど何故ですの!? スイーツを死ぬほど食べたらそのままお腹と顔だけに肉がつき、コルセットを死ぬ気で締めたら息ができなくて倒れそうになっただけですのよーっ!! お胸には1ミリも脂肪が移動してくれませんでしたわ!!」
泣き叫ぶセシリア。
何を隠そう、私のこの変貌は単なるドカ食いと締め上げだけではなく、「アストルフォ様からの激甘イケメンビームによる過剰な女性ホルモン分泌」と、「男性器の萎縮と引き換えに上に配分される謎のステ振り現象」という、人体のバグのような相乗効果があって初めて成り立っているのだ。常人が真似をすれば、ただ太って苦しい思いをするだけに決まっている。
「ズルいですわルチア様! どんな隠し味をスイーツに入れているのですか!? どんな呪文を唱えればお腹の肉が上に移動するのですかーっ!!」
「秘薬も呪文もないわよぉぉぉ!!(涙目)」
必死に詰め寄ってくるセシリアを前に、私は内心で冷や汗をダラダラと流す。
(言えるわけないだろ……! 『元が男で、下の息子が消えそうになるのと引き換えに上がデカくなってる』なんて口が裂けても言えるかーっ!!)
「まあ、セシリア様。ルチア様のこの奇跡のような美しさは、選ばれし乙女にのみ与えられる天からの賜物にございます。真似をしようなど100年早くてございますよ」
背後に控える侍女のエレノアが、うっとりとした表情でフォロー(?)を入れる。
「くっ……! 覚えておきなさーい! わたくしも絶対に……絶対にルチア様を超える『淑女の山脈』を手に入れて見せますわーっ!!」
セシリアは顔をお腹周りの微妙な肉付きと共に真っ赤にし、再び悲鳴を上げながら走り去っていった。
「はぁ……勝ったけど、全然嬉しくない……」
疲れ果てて溜息をつく私。そっと自分の異様なまでに育った胸元に手を添えると、ずっしりとした柔らかな重みが手に伝わってくる。
(セシリアは真似しても太っただけだったのに、なんで俺(私)の身体は完璧に『胸』だけにカロリーが行っちゃうのよ……。下はもう本当にちっちゃくなっちゃってるし…… 私の身体の自動配分機能、仕事しすぎでしょ……!!)
ライバルが迷走して自爆していく中、当の自分はさらに人間離れした「美少女」へと近づいていく事実に、頭を抱えて涙ぐむルチアなのだった。




