第二十五話 秋の湖畔のピクニック
秋風が澄んだ空気を運び、湖畔の木々が赤や黄色に美しく色づく季節。
湖面に反射する紅葉のグラデーションを前に、私——ルチア・フォン・グランチェスターは、湖のほとりに広げられた豪華なピクニックシートの上に座っていた。
目の前に広がるのは、絵画のように美しい絶景。そしてテーブル代わりのローロッドには、侍女たちが腕によりをかけた秋の味覚満載のスイーツ群——モンブラン、焼き芋タルト、そして甘く煮詰められたリンゴのパイ。
(う、美味そう……! いや駄目よ! 秋の味覚は栗にイモにバターと、高カロリーの役満じゃないのよ!!)
前世48歳ニートおじさんの理性が必死に警鐘を鳴らす。
連日の甘味摂取と補正コルセットの締め上げにより、私のお腹の肉は全て「胸」へと配置転換を完了させ、すでに不可逆な「素でわがままボディ」へと変質を遂げているのだ。
(これ以上、栗やイモの重厚なカロリーを摂取したら……体内の女性ホルモンがまた狂喜乱舞して、上半身が爆発しちゃうわよーーーっ!!)
ひそかに自分の胸元を凝視しながら冷や汗を流す私に、隣に座るアストルフォ様が甘く優しい微笑みを向けた。
「どうしたんだいルチア? 寒くはないかい?」
「あ……アストルフォ様。大丈夫ですわ、ただ、湖畔の紅葉があまりにも美しくて……っ」
「ふふ、確かに素晴らしい景色だね。だが僕にとっては、紅葉の赤よりも……照れた君の頬の朱色の方が、ずっと美しく見えるよ」
「〜〜〜〜〜〜っっ!///」
破壊力抜群のキザな台詞とともに、アストルフォ様がそっと私の肩に羽織っていた厚手のショールを引き寄せた。
その瞬間、ふわりと近づく王子の体温と極上の香り。密着する身体。
そして、秋の装いとして少し胸元の開いたニットドレス越しに、私のアホほど育った胸が、王子の腕にむにゅりと押し付けられてしまった!
「っ……! ル、ルチア……君は、また……っ」
息をのむアストルフォ様。王子の瞳に、一瞬で熱い情熱の火が灯るのを感じる。
(やだあぁぁぁ!! 寒さ対策の厚手ニットのせいで、柔らかさがダイレクトに伝わっちゃってるじゃないのよぉぉぉ!! 王子の理性のタガが今にも外れそう!!)
「……ルチア。湖の散策は後にして……少し、あちらの木陰で二人きりになろうか?」
耳元で甘く囁かれる低い声。
「秋の行楽」という名目のピクニックのはずが、紅葉のロマンチックな雰囲気に乗じた王子の過激なスキンシップ(お泊まり手前の大ピンチ)へとカウントダウンが始まってしまった!
(だれかー! 誰か助けてぇぇぇ! 栗のスイーツで誤魔化す間すら与えられないのぉぉぉーーーっ!!)
秋風になびく紅葉の中、ルチア(中身おじさん)の可憐な悲鳴が湖畔に虚しく響き渡るのだった——!




