第二十四話 国交問題!?
「ルチア様! 大変でございます! 今すぐ謁見の間へお越しくださいませ!」
翌朝、自室で「王国一の胸囲」という衝撃の噂とアストルフォ様の限界突破な独占欲に頭を抱えていた私(中身:48歳元ニートおじさん)のもとへ、エレノアが息を切らせて飛び込んできた。
「どうしたのエレノア、そんなに慌てて……?」
「ヴァルハイト帝国の第一王子、ルーク殿下が……再び王宮へお越しになられたのです! それも、正式な『帝国の使節団』と『親書』を携えて……!」
「……は???」
手にしていたハーブティーのカップが、カタカタと音を立てて震える。
(うそでしょ!? 昨日、庭園で追い払うために『国と国との正式な外交手順を通してくださいまし♪』って言ったじゃない! あれは日本のビジネスマンで言う『前向きに検討します(=遠回しのお断り)』の社交辞令よ!? なんで一晩で国家間の正式ルートを通して乗り込んできてんのよーーーっ!?!?)
◇
慌てて駆けつけた王宮の大広間は、かつてない重苦しい緊張感に包まれていた。
玉座の横には青筋を立てて殺気を放つアストルフォ様。
そして広間の中央には、深く静かな紺青の髪を揺らし、完璧な軍服姿で凛と佇む「氷の王子」ルーク・ヴァルハイトの姿があった。
ルーク王子の背後には、絢爛豪華な宝箱をいくつも抱えた帝国の使者たちがズラリと並んでいる。
「……おいでになりましたね、ルチア殿」
私の姿を認めた瞬間、ルーク王子の冷徹な瞳に一気に情熱の火が灯った。
「約束通り、再び参上いたしました。昨夜、君が私に授けてくれた言葉――『個人の感情ではなく、正式な外交手順を通すべし』という気高き教えに従い、我がヴァルハイト帝国皇帝の直筆による正式な『婚約打診の国書』を携えて参りました」
「こ、国書ぉぉぉっ!?!?(おじさんの心の叫び)」
ルーク王子は優雅に胸に手を当て、まっすぐな視線で私を見つめる。
「さらに、街で噂になっている『王国一』と称えられる君の豊かな美しさと気品にふさわしい、我が国の国宝『幻彩の絹』で仕立てたドレスと宝飾品も用意いたしました。ルチア殿、改めて申し上げる。我が帝国の次期皇妃として、私と共に来ていただきたい」
(行動力がストロングスタイルすぎるでしょーーーっ!! 検討しますを真に受けて一夜で皇帝のサイン貰ってくるって、どんな爆速決裁プロセス!? 帝国の書類処理能力どうなってんのよーーーっ!!)
「……ふざけるな、ルーク殿!!」
静寂を破り、アストルフォ様が激怒の声をあげて前に躍り出た!
ルチアを自分の背中に庇うように立ちはだかり、ルーク王子を射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつける。
「ルチアは僕の婚約者候補であり、僕の命にかえても守るべき最愛の女性だ! 隣国の王子だからと黙って聞いていれば、正式な国書まで持ち出して強引に連れ去ろうなど……断じて許さん!!」
「強引、ですか? 私はただ、ルチア殿が求めた『誠実な筋書き』を通したまでに過ぎません。真に配慮に欠けるのは、彼女の圧倒的な美しさと智勇にふさわしい待遇を用意できず、ただ嫉妬に狂う貴方では?」
「なんだと……っ!?」
バチバチバチッ……!!
二人の超絶イケメン王子の間で、目に見えるほどの火花と青い稲妻が飛び交う。
大広間に参列していた重臣たちも「ひ、ひえぇ……戦争になってしまう……」と生きた心地がしていない。
(あかん!! あかんってコレ!! 私の『社交辞令外交テク』が裏目に出て、マジで両国が開戦する秒読みに入ってるじゃないのよーーーっ!!、こうなれば仕方ないですわ。)
「――そこまでですわ、おふたりとも!! 高貴なお二方が、みっともないですわよっ!!」
一触即発の二人の間に、私はバッと割って入った。
中身が48歳おじさんだろうが何だろうが、今はグランチェスター公爵家の令嬢ルチア。目の前で超絶イケメン王子二人が青筋を立ててマウントを取り合い、国交断絶の引き金を引こうとしているのを見過ごすわけにはいかない!
「ル、ルチア……!?」
「ルチア殿……?」
雷のような一喝に、アストルフォ様もルーク王子も毒気を抜かれたように動きを止めた。
私は胸元を押さえ(むにゅっと手応えのある「王国一」の圧倒的質量を感じつつ)、凛とした佇まいで二人を冷ややかに見据えた。
「アストルフォ様! ヴァルハイト帝国の使節団とルーク殿下に対し、無礼な昂ぶりを見せるのはおやめなさいませ! 王国の顔たる王太子が、情動に任せて怒声を上げては国の品格が疑われますわ!」
「うっ……す、すまない……」
「そしてルーク殿下! 誠意を持って国書を携えてくださったことは感謝いたします。ですが、返事を焦るあまり『お披露目のドレス』などで他国の王宮で張り合い、挑発するような真似はお控えくださいませ。帝国第一王子の高潔なお名前に傷がつきますわ!」
「……っ、痛いところを突く淑女だ……」
二人の王子が、私の喝破に申し訳なさそうに身を縮める。
(よしっ! 一言で二人まとめて正論で殴って静めさせたわよ! これぞ昭和・平成を生き抜いた48歳おじさんの説教テクニック!)
胸の内でドヤ顔を決めつつ、私は可憐なお辞儀で締めくくった。
「私の返事を聞きたいのでしたら、まずは双方落ち着いて、穏やかに両国の友好を深めるお茶会から始めましょう。……わかりましたわね?♪」
「「は、はい……」」
揃って大人しく頷く二人の王子。
間一髪で外交危機を回避し、胸を撫でおろす私だったが……「怒られたことでさらにルチアへの尊敬と情熱を深めた二人の王子の瞳」が怪しく輝いていることに、まだ気づいていなかったのである。




