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第二十一話 国際問題!?

アストルフォが疾走して駆けつけてくる中、隣国の第一王子ルークは、一切動じることなくルチアの手を取ったまま、さらに一歩深く踏み込んできた。

その切れ長の瞳に、青い炎のような情熱を宿して。

「……私の名はルーク・ヴァルハイト。グランチェスター公爵令嬢ルチア殿、君のその儚くも気高き美しさに、私の心は一瞬で奪われた」

「は……はぁ!?」

「我がヴァルハイト帝国の次期皇妃として、私と共に来てほしい。君を生涯、誰よりも大切に愛することを誓おう」

(き、求婚されたーーーっ!?!? 初対面! 挨拶して数秒!! なにこの爆速ストロングスタイル求婚!? 隣国の王子様、情緒どうなってんのよーーーっ!?)

ルチア(中身おじさん)の頭の中で、巨大な警報がけたたましく鳴り響く。

「離せ!! 僕のルチアに軽々しく触れるな!!」

そこへ、青筋を立てて怒髪天を突く勢いのアストルフォが割って入った!

ルチアとルークの手を無理やり引きはがし、ルチアを自分の背中へ隠すように庇い立てする。

「ヴァルハイト帝国第一王子ルーク殿! 我が国の庭園で、僕の『未来の妃』に対して何という無礼を! 初対面の淑女にいきなり求婚するなど……貴方は見た目だけで女性を選ぶような、そんな軽薄な方だったのか!?」

アストルフォの激昂に対し、ルークは氷のように冷ややかな、しかし絶対の自信に満ちた笑みを浮かべて返した。

「軽薄、だと? 冗談を言わないでいただきたい、アストルフォ殿。見た目だけではない。彼女の内に秘められた愁い、そして漂う高貴な品格……私の目は誤魔化されん。真の価値を見抜けず、彼女をこのような庭園で一人寂しく溜息をつかせていた貴方こそ、配慮に欠けるのではないか?」

「なっ……! 僕とルチアの絆を、何も知らんくせに語るな!!」

火花を散らす二人のイケメン王子。

空気は一触即発、バチバチと青い火花が目に見えるほどの重苦しい緊張感が庭園を包み込む。

(あ、あかん……あかんですよコレはぁぁぁぁっ!!)

アストルフォの後ろで、ルチアは冷や汗を滝のように流しながら、前世48年物のネットサーフィンで培った大人の脳みそをフル回転させていた。

(落ち着け自分! 冷静に分析するのよ!! 今の状況、単なる『男二人の女の奪い合い』じゃないわよ!?)

目の前にいるのは、当国の王太子アストルフォと、隣国ヴァルハイト帝国の第一王子ルーク。

もしここで二人が感情的になって対立し、外交問題にでも発展したら——?

(我が国とヴァルハイト帝国は、ここ数年でようやく平和条約を結んだばかりの緊張状態のはず! ここで『公爵令嬢(※中身おじさん)を巡る男の意地』で両国が反発し合ったら、最悪の場合、国交断絶……いや、戦争に突入しかねないじゃないのよぉぉぉ!!)

自分の存在(と、贅肉から生まれた虚飾の胸と、前世おじさんマインド)が原因で、二つの大国が世界大戦の引き金を引くかもしれないのだ。

(嫌よ!? 私のせいで国が滅ぶなんて絶対に嫌!! 我がグランチェスター公爵家も開戦と同時に取り潰されちゃうわよーーーっ!!)

「……アストルフォ殿。ルチア嬢の真意を聞こうではないか。彼女が誰の手に差し出されることを望んでいるのかを」

ルーク王子が静かに、だが挑発的に言い放つ。

「望むところだ! ルチア、君が愛しているのは僕だよね!?」

アストルフォがすがりつくような、しかし熱い情熱を込めた瞳で振り返る。

(ひええええっ!! 私に回答権を振らないでぇぇぇっ!! こっちを立てれば隣国が怒り、あっちを立てれば我が国の王太子が暴走する!! どっちを選んでも詰んでるじゃないのよぉぉぉ!!)

二人の王子の視線が、完璧な可憐さを装いつつも胃に激痛を抱えるルチア集中した——!


二人のイケメン王子から同時に迫られ、胃をキリキリと痛ませるルチア。

だが、そこは人生48年分の伊達と酔狂、そして長年のネットサーフィンで修羅場スレを読み漁ってきた「レスバおじさん」の危機管理能力が火を吹いた!

(落ち着け私……! ここで「どちらかを選ぶ」のも、「うろたえて逃げ出す」のも悪手中の悪手よ! 外交問題を回避し、かつ自分の保身(とファーストキス)を守る完璧な政治的回答を叩き出すのよーーーっ!!)

ルチアはそっと両手で胸元を押さえ、深呼吸を一つ。

そして、今にも爆発しそうな二人の王子の間に割って入るように、一歩前へ出た。

その表情には、どんな外交官も平伏するような「気高くも儚い、聖女のごとき微笑み」が浮かべられている。

「ルーク殿下……そして、アストルフォ様。どうか私のために、お心を痛めないでくださいませ」

鈴を転がすような可憐な声に、火花を散らしていた二人がハッと動きを止める。

「ルーク殿下。隣国の第一王子であられる貴方様から、そのように情熱的で勿体ないお言葉をいただけましたこと、グランチェスター家の娘として大変光栄に思いますわ」

ルチアはルークへ向け、完璧な角度でお辞儀(カーテシー)をしてみせた。

「ですが……私はただの公爵令嬢。私の一言が、我が国とヴァルハイト帝国の素晴らしい友好関係に影を落とすようなことなど、決してあってはなりません。殿下の突然の求婚……そのお気持ちは大変嬉しく思いますが、まずは『国と国との正式な外交手順』を通し、両国の未来のために議論されるべきものでございます」

(よしっ!! まずは『個人の感情』から『国家間の外交問題』へスライドさせて時間稼ぎ!! 初対面での求婚をうやむやにしつつ、隣国の王子に『筋を通せ』と優雅に牽制よ!!)

「……っ、ルチア嬢……」

ルーク王子は息をのんだ。

見た目の美しさだけでなく、国の平和と外交の立場を第一に考える気高さ、そして自分を拒絶せずに立てて見せた聡明さ。

(素晴らしい……! 単なる可憐な少女ではない、真に帝国を率いるにふさわしい智勇と美徳を備えた女性だ……! 益々気に入ったぞ!)

(えっ、なんかルーク王子の目がさらに熱を帯びてない!? なんで!?)

ルチアが冷や汗を流す間もなく、今度は隣で青筋を立てているアストルフォに向き直る。

「そしてアストルフォ様……」

ルチアはそっとアストルフォの袖をキュッとつまみ、上目遣いで不安そうに瞳を潤ませて見せた。

「アストルフォ様が私を庇ってくださるお気持ち、とても心強く、愛おしく思っておりますわ。ですが……私のためにルーク殿下と争わないでくださいませ。お二人が対立してしまっては、私が皆様を困らせる『禍いの種』になってしまいます……。そんなの、私、悲しくて心が張り裂けてしまいそうです……っ」

「っ……! ルチア……!」

胸をギュッと締め付けられたアストルフォの顔から、一気に怒気が引いていく。

(うわあああ! 僕の嫉妬のせいでルチアをこんなに不安にさせてしまうなんて! 僕としたことが、なんて配慮に欠けていたんだ……!!)

(よし入った!! アストルフォ様には『罪悪感』と『守ってあげたい欲』をダブルで注入!! これで暴走を鎮圧!!)

ルチアは二人の王子を交互に見つめ、凛とした声で締めくくった。

「本日のところは、どうかお二人とも拳をおさめ、平和なお気持ちで庭園をお楽しみくださいませ。私の『お返事』は……両国の友好が深まり、正式な儀礼を経て、皆様が笑顔になれるその日まで……大切にお預かりさせてくださいな♪」

——完璧だ。

完璧すぎる「可憐なヒロインの政治的一手」であった。

・隣国の求婚を角を立てずに保留(国交維持)

・自国の王太子の暴走を「健気さ」で鎮圧(メンツ保持)

・自分自身のファーストキスと立場をひとまず死守(保身成功)

「……ふっ、一本取られたな。実に賢く、そして奥ゆかしい淑女だ」

ルーク王子は深く感服したように微笑み、一歩引いて胸に手を当てた。

「良いでしょう、ルチア嬢。本日はこれで引き下がります。ですが……私は諦めませんよ。正式な外交の場にて、貴方を帝国へ迎える準備を進めさせていただく」

「くっ……! 負けないぞルーク殿下! ルチアの愛を得るのは僕だ!」

アストルフォもまた、ルチアの手をぎゅっと握りしめて対抗意識を燃やす。

(あ、あれ……?? 完璧に交わしたはずなのに、なんで二人とも『第二ラウンド開始!』みたいなやる気満々の顔してるの……??)

二人の超絶イケメン王子から、同時に激重な熱視線を注がれ、ルチア(中身48歳おじさん)の胃孔はついに限界を迎えてキリキリと悲鳴を上げるのだった!


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