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第二話 男だよね?

「ルチア様、本日の朝食は王室御用達の甘味を添えたパンケーキでございます」

重厚な銀のトレーを捧げ持ち、完璧な礼を執るのは専属侍女のエレノア。

一見すると淑やかな侍女――だが、私(中身:48歳無職おじさん)にとって彼女は、この屋敷で最も恐ろしい存在だった。

鏡に映る自分を見る。金髪フリルドレス、陶器のような肌、どう見ても可憐な美少女。

……しかし、だ。

(昨日、風呂場で確信した。ある。間違いなく『付いて』いる……!)

俺はごくりと唾を飲み込み、周りに誰もいないことを確認してから、声をひそめて切り出した。

「ね、ねえ、エレノア……ちょっと真面目な話があるんだけど」

「なんでしょうか、ルチア様? コルセットの締め具合でしたら、あと二センチほど詰めることも可能ですが」

「違う! そういう物理的な圧迫の話じゃない!」

俺は必死に声を抑えつつ、自分の胸と股間を交互に指差し、意を決して問いかけた。

「……あのさ。私って……男だよね?」

部屋が一瞬、静寂に包まれる。

前世の記憶を取り戻してからずっと抱いていた疑問。実は身体も完全に女で、俺の錯覚だったというオチであってくれという微かな希望。

エレノアはパチクリと大きな目をまばたかせると、至極あっさりと頷いた。

「はい。さようでございますが?」

「……えっ」

あまりにも軽い肯定に、俺は思わず裏返った声を上げた。

「さよう、って……! じゃあ俺、やっぱり男じゃん!? なんでドレス着せられてんの!? もしかして公爵家のドロドロした跡目争いから身を守るためとかの深い事情が!?」

「いいえ? 単に『あまりにも可愛すぎるから』ですが」

「はい???」

俺の思考が完全にフリーズした。エレノアは至って大真面目な顔で、事もなげに語り始める。

「ルチア様が生まれた瞬間、旦那様も奥様も、我々使用人一同も確信したのです。『この愛らしさを男の子の服で覆い隠すなど人類の損失である』と。ですので、赤ん坊の頃から可憐なお嬢様としてお育てしております」

「狂ってんのかこの屋敷の大人たちはー!!?」

頭を抱えて叫ぶ俺をよそに、エレノアは深く頷いた。

「ええ、我々は真剣です。何より、男のお召し物よりドレスの方が圧倒的にお似合いですし」

「理由が浅い!! 浅すぎるだろ!! 男だぞ!? 中身もおじさ……いや、男だし、身体も男なんだぞ! 王太子殿下に嘘ついて騙してることになんだろ! バレたら不敬罪で処刑されるわ!」

「まあ、そんな野蛮なことになりませんわ」

エレノアは静かに一歩踏み出し、私の両手を優しく包み込んだ。その瞳には、狂信的とも言える澄み渡った慈愛が宿っていた。

「性別など、ルチア様の愛くるしさの前には誤差に過ぎません。ご覧ください、この可憐な立ち姿。王太子殿下がひと目惚れされるのも当然です。殿下だって『可愛いからヨシ!』とおっしゃるに決まっております」

「なんで急にガバガバな判定なんだよ!!」

バンッとテーブルを叩く俺をよそに、エレノアは優雅に紅茶を注ぎ始める。

「さあルチア様、冷めないうちにパンケーキをどうぞ。本日は午後から王太子殿下とのお散歩の約束がございます。とびきり可愛いリボンをお選びしますね」

「話を聞けぇぇぇ!!」

(……だめだ。「可愛いから」という一言で全てを押し通す狂気の館だ、ここは……!)

おじさんとしての理性が絶叫する中、差し出されたパンケーキの甘い香りに、身体が思わず「わぁ……♪」と反応してしまい、俺は己の未来に深い絶望を覚えるのだった。


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