第十六話 古代の叡智
鬱蒼と茂る樹木、足元を絡め取る蔦、そして不気味に響く魔獣の咆哮――。
かつて『大魔法使い』が降り立ち、現実の理すら改変したとされる伝説の地『迷いの森』。
男としての尊厳(と消えかけた息子)を取り戻すための【異界の祭壇】を目指し、私たちは森の深部へと足を踏み入れていた。
……のだが。
「ルチア、大丈夫かい? ほら、足元がぬかるんでいる。僕にしっかり掴まって」
「あ……ありが……って、近い! 近いですわアストルフォ様!!」
過保護の域を遥かに越えたアストルフォ様が、歩くたびに私の腰を引き寄せ、まるでお姫様抱っこでもするかのように密着してくるのだ。
(危険な旅路って、森の魔獣よりこのイケメンの距離感の近さのほうが100倍危険なんですけどーーーっ!?)
前世のオタク知識によれば、これは完全にラブコメの「ダンジョン探索(名目)デートイベント」の構図である。
「これ進研ゼミで見たやつだ!」と脳内の48歳おじさんが警戒アラートをガンガン鳴らすが、王子の顔面スペックと包容力が凄まじすぎて、精神がどんどん骨抜きにされていく。
「しかしルチア。君がこれほど熱心に『異界の魔法使い』に興味を示すとはね。……一体、何をお望みなのかな?」
「っ!? それは……その……」
王子の澄んだ瞳に見つめられ、冷や汗が吹き出す。
まさか「萎縮した息子を再生させて巨乳を消し去り、48歳おじさんに戻りたい」なんて口が裂けても言えるわけがない。
「わ、私はただ……! 魔法の神秘に触れ、より魅力的で……完璧な淑女になりたいと思いまして……っ!」
咄嗟についたウソ(※乙女モード)だったが、それがアストルフォ様のスイッチを完全に押してしまった。
「……これ以上、僕を魅了するつもりかい? 困ったな……君の愛くるしさは、もう僕の理性を焼き尽くしそうなのに」
「〜〜〜〜っっ!?(顔面大噴火)」
耳元で囁く極上の甘いボイス。
さらに、ぬかるみに足をすべらせた瞬間、王子にガシッと抱きとめられた。
「っと……危ない。……捕まえた」
「あ……」
密着する互いの身体。
連日の甘味ドカ食いと女性ホルモンの暴走、そしてエレノアの特訓によって「素の状態で記憶形状」された私のわがままボディが、容赦なく王子の胸板に押し付けられる。
「……っ……ルチア……君は本当に……っ」
王子の瞳に、これまで見たこともないような熱い「男の欲望」が宿る。
生唾を呑み込む音すら聞こえそうな沈黙。顔が急速に近づいてくる――!
(やばいやばいやばい!! 雰囲気に呑まれてそのままファーストキス(※中身48歳おじさん)奪われちゃうーーーっ!!)
「殿下! ルチア様! 前方に古代遺跡らしき建造物を発見いたしましたわ!」
間一髪、空気をまったく読まないエレノアの叫び声が森に響き渡った!
ハッと我に返り、勢いよく王子から飛び退く私。
アストルフォ様は「……ちっ、あと少しだったのに……」と、恐ろしいほどのイケメン顔でボソッと舌打ちをした気がしたが、見物理的スルーを決めることにした。
木々の開けた先には、古びた石造りの祭壇――【異界の祭壇】が静かに鎮座していた。
(つ、ついに着いた……! ここに俺の『男としての復活』の鍵が……!!)
危険すぎる王子の愛から逃げ切り、無事に性別を取り戻すことができるのか!?
命がけの怪しい呪文解読(?)が、いま始まろうとしていた――!
第二十話:刻まれた日本語! 前世の英知と【全自動改変】の罠
「こ、これは……石板……!?」
古代の祭壇の中央に鎮座していたのは、巨大な一枚の黒い石板だった。
そこにぎっしりと刻まれていたのは――古代文字などではなく、見慣れた「日本語」だった!
『~異界より来たりし転生者へ~
我が名は転生大魔法使い。この石板は【現実改変・身体再構築魔法】の自動発動システムである。
望む数値を入力(念じる)し、下の実行ボタンを押すべし』
(きたぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!! やっぱり前世の日本人転生者だったーーーっ!!)
脳内の48歳おじさんが大歓喜のガッツポーズを決める。
目の前には、ステータス画面のような光の文字が浮かび上がっていた。
* 【性別】 :男の娘(笑)(※変更可能)
(なんだ、このカッコ笑は、馬鹿にしてんのか)
* 【胸囲】 :爆乳(※変更可能)
* 【下半身】 :完全静寂・萎縮モード(※変更可能)
(とにかく、勝った! 勝てるぞ!! 性別を『男』にして、胸をペタンコにして、息絶えかけた息子をフルスペックで完全復活させれば……俺は男として……!)
震える手で光の画面に触れようとした、まさにその時――。
「ルチア、それは一体……? なんだか不思議な光を放っているけれど」
後ろからアストルフォ様がそっと覗き込んできた。
やばい! 王子にはこの日本語は見えていないようだが、急いで設定変更を完了させなければ!
焦った私は、念じながら勢いよく【実行(ENTER)】の光をタップした!
(頼むぞ魔法使い! 俺を元のおじさん……いや、健康な男に戻してくれーーーっ!!)
ブオンッ! と祭壇全体が目眩く眩い光に包まれる!
身体の中に、凄まじい魔力の奔流が駆け巡り、細胞の一つ一つが組み換わっていく感覚――!
「ルチアっ!?」
アストルフォ様が驚いて私を強く抱きしめる。
(ふふふ……遅かったな王子! 今の光で俺の胸は消え去り、下半身には雄々しきシンボルが……)
光が収まり、システムからピロン♪と爽やかな電子音が響いた。
『――警告。対象の肉体は【アストルフォ王子の超絶愛執】および【連日の激甘スイーツドカ食い】、【エレノアによる脂肪記憶形状】により、極上の乙女として完全固定化されています。男への復元処理はエラーとなりました』
『――代替処理を実行。現在の【美少女パラメータ】をさらに強化します』
「は……?????」
【改変結果】
* 【ウエスト】 :キュッとさらに絞られ、くびれ強調
* 【バスト】 :極上の形状を維持したまま、柔らかさ・弾力+50%(※モチモチ感倍増)
* 【肌質】 :王子の愛に反応して吸い付くようなすべすべ桃色肌へ進化
* 【下半身】 :ドレスのシルエットを妨げないよう、より可憐に完全格納(永久静寂)
「嘘でしょぉぉぉぉぉぉ!?(涙目) システムが王子の愛とエレノアの記憶形状に敗北したのーーーっ!?」
あまりの衝撃に膝から崩れ落ちそうになる私。
しかし、抱きとめてくれていたアストルフォ様の腕の力が、ぎゅっと強くなった。
「……っ……ルチア……? 今の光は何だ……? 君が……君がますます可愛く、信じられないくらい魅力的になって……っ」
王子の瞳が、熱い情熱と愛で怪しくギラリと光る。
抱きしめられた胸元から伝わるのは、改変魔法によって「さらにモチモチに進化」してしまった禁断の感触!!
「あ……アストルフォ様……あの、これはその……っ」
「もう駄目だ……僕の理性が、完全に限界を迎えた……」
男に戻るどころか、「究極の美少女」としてアップグレードされてしまった48歳おじさん。




