第十三話 青い海! 白い砂浜! そして照りつける太陽!
「ルチア様! 本日は王家所有のプライベートビーチへのバカンスでございますわ!」
王立庭園の恐怖(胸タッチ事件)から数日後。
侍女のエレノアが、目を輝かせながら巨大な衣装箱を抱えて私の部屋へ飛び込んできた。
「見てくださいませ! ルチア様のために特別に仕立てさせた、最新流行のビキニ風スイムウェアでございます!」
「び……ビキニぃぃぃ!!??」
衣装箱の中に収められていたのは、布面積が尋常じゃなく少ない、フリルたっぷりの可愛らしい水着だった。
(無理無理無理!! 騙されないわよ!! ドレスならコルセットやフリルで誤魔化せたけど、水着なんて実質ほぼ裸じゃない!!)
パニックに陥る私の中で、前世の48歳おじさん脳がフル回転で警戒アラートを鳴らし始める。
(待って、下の『息子』は……確かに最近、日に日に小さくなって……今やほとんど主張しないレベルに萎縮してるけど! でもゼロになったわけじゃないのよ!? こんな薄い水着履いたら、万が一の事故で『ついてる』のがバレちゃうじゃない!!)
冷や汗をダラダラ流しながら必死に拒絶する。
「え、エレノア! 私はその……日焼けが気になるから、もっとこう、全身を覆う潜水服みたいな厳格な水着がよろしいのだけれど……!」
「まあ、ルチア様ったらお控えめなご様子も愛くるしい……ですがご安心くださいませ! ルチア様の現在の『完璧なお身体』に合わせ、下ラインはフリル付きのスカート仕様になっておりますので、何も気になさる必要はございませんわ!」
「そうじゃない!! 物理的な隠蔽率の話をしてるのよーーーっ!!」
必死の抵抗も虚しく、エレノアたちの手によって手際よく着替えさせられてしまう。
そして、姿見の前に立たされた私は、自分の最新のシルエットに言葉を失った。
(………………うそ、でしょ……??)
下半身はフリルスカートのおかげで、萎縮しきった「元・息子」の存在など微塵も感じさせない、完全無欠の美少女ライン。
しかし……問題は上半身だった。
(な、なにこれぇぇぇぇ!!??)
ドレスの締め上げから解放された胸元は、これまで摂取した高カロリーなスイーツと溢れ出る女性ホルモン(?)を蓄え込み、水着の小さな布地から溢れんばかりに主張していた。
かつてライバルのセシリアと争っていた頃どころか、前回のデートの時よりもさらにひと回り巨大化している!
(下はどんどん縮んで存在感が消えてるのに、上は留まることを知らずに爆発してるじゃないのよぉぉぉ!! まさに上半身への一極集中!! 体内の配分が狂ってるわ!!)
「……っ! ル、ルチア……!!」
ビーチに到着すると、海を見る前に私を見たアストルフォ様が、顔を真っ赤にしてその場に凍りついていた。
「殿下……その、あまりジロジロ見ないでくださいまし……///」
「あ、いや……すまない! だが……その……君は会うたびに、淑女として……その、豊かさに磨きがかかっていて……僕の理性が……っ!」
王子の視線は、水着によって強調された私の爆乳に釘付けになっている。
前世48歳の男としてのプライドはズタズタなはずなのに、王子の熱い視線に晒されると、脳の視床下部が勝手に「キュン……」とときめいてしまう。
(あああ……ダメ! 胸がときめくとまた女性ホルモンが出ちゃう!! これ以上大きくなったら水着のサイズがなくなっちゃうじゃないのよぉぉぉーーーっ!!)
「きゃあぁぁぁっ!?」
眩しい太陽のもと、浅瀬で足をパチャパチャとさせていた私を、容赦ない高波が襲った!
(ぐはっ……!? 波の圧力が強い……っ!?)
必死に体制を立て直そうとした瞬間、胸元に強烈な水圧がかかり、フリル付きビキニの水着が**スルッ……**とズル滑りした感覚が走る!
(や、ヤバいヤバいヤバい!! ズレたわ!! 完全にズレたわよぉぉぉ!!)
ドレスのように強力なコルセットで固定されているわけでもないため、水圧と重力によって「溢れんばかりの爆乳」が一気に解放されかけ、小さな布地が悲鳴を上げてポロリ寸前の位置までズリ落ちたのだ!
「ルチア様ーーーっ!!」
「ルチアッ!!」
前世48歳おじさんの反射神経をフル稼働させ、私は寸前のところで「両腕で胸をギューッと抱きかかえるポーズ」を取り、間一髪で全開ポロリの事態を阻止した!
「はぁ……はぁ……危なっ……危なさすぎでしょこの水着……っ!」
安堵の息を漏らしたのも束の間。すぐ目の前まで走って駆け寄ってきたアストルフォ様が、砂浜の上でピタリと動きを止めていた。
「っ………………!!!!」
王子の顔面は、茹で上がったタコのように真っ赤に染まり、目を見開いて私の姿を凝視している。
(え……? な、なに? 隠せたわよね!? ちゃんと手で隠したわよね!?)
焦って自分の身体を見下ろした私は、己の愚かさを呪った。
両腕で巨大な胸を力任せに抱え込んだ結果――ただでさえ溢れそうな爆乳が押し潰され、普段の何倍もの凄まじい谷間と肉感が強調されるという、最悪(最高)の誘惑ポーズになってしまっていたのだ!!
「ア、アストルフォ様……? あの……見ないで……水着がちょっとズレちゃって……///」
「っ……ル、ルチア……! 君は……君という人は、どれだけ僕の理性を試せば気が済むんだ……っ!!」
「ひゃいっ!?」
アストルフォ様は激しい吐息を漏らしながら、ドサッと膝から砂浜へ崩れ落ちた。
両手で顔を覆い、指の隙間から真っ赤な目でこちらを見つめてくる。
「だ、ダメだ……! 水に濡れて透けた肌も……腕で押し潰されて溢れ出ている豊満さも……っ! 僕の脳裏から離れない……! 今すぐ君を上着で包み込んで、誰の目にも触れないよう部屋に閉じ込めたい……っ!!」
(王子の理性が大暴走を起こしてるーーーっ!! っていうか、水に濡れて透けてるって何!? どんなスケスケ水着を着せられてたの私ーーーっ!!)
下半身の隠蔽(萎縮中)には成功しているものの、上半身の主張が激しすぎるせいで、王子の愛と欲望が限界突破の領域へ足を踏み入れかけていた。
「ル、ルチア様! 大変ですわ、すぐにお羽織りものを!!」
遠くからエレノアがバスタオルを持って走ってくるのを見ながら、私はズレかけた胸を必死に押さえつつ、「これ以上胸が育ったら本当に危険かもしれない……」と本気で恐怖するのだった。
「っ……ハッ!!」
バスタオルを抱えたエレノアが駆け込んできたことで、ようやく正気に戻ったアストルフォ様が、ガバッと跳ね起きるように体勢を整えた。
「ア……アストルフォ様……?」
私がズレかけた胸元をバスタオルでグルグル巻きにし、ひょっこりと顔を出すと、王子は砂浜の上にペタリと正座していた。
あの高貴で完璧な王太子殿下が、膝と手を砂に突き、全力のドゲザ体勢をとっているのだ!
「ル、ルチア……! 真心から……心の底から謝罪させてほしい……!!」
「えっ!? 殿下、なにをなさって――」
「僕は……僕はなんて浅ましい、最低な男なんだ……っ!!」
王子はガバッと顔を上げたが、その目には涙すら浮かんでいる。
「波の事故で混乱している君を支えるどころか……っ! ああいう……その、君の豊満で魅惑的な姿に理性を狂わせ、あられもない視線を浴びせてしまうなんて……っ! 淑女の尊厳を傷つける、万死に値する愚行だ……っ!!」
(いやいやいや! 鼻血出して倒れかけただけでそこまで!? っていうか『豊満で魅惑的』とか言われると恥ずかしさでこっちの脳が爆破するからやめてぇぇぇ!!)
王子の真面目すぎる反省と、直球すぎる言葉のナイフが前世48歳おじさんの乙女心(?)を容赦なくえぐってくる。
「ち、違いますわアストルフォ様! 私、嫌な気持ちなんて……(むしろ王子のイケメン顔が至近距離にあってドキドキしたなんて言えない!!)」
「いいや! 君の優しさに甘えてはならない……! 僕はもっと……君の成長を受け止められる、包容力と理性を備えた男にならねばならないのに……っ!」
アストルフォ様は自分の上着を脱ぐと、バスタオルの上から私の肩にやさしく羽織らせてくれた。
そして、私の手をそっと包み込み、熱い瞳でじっと見つめてくる。
「ルチア。君が……僕の知らない間に、どれほど努力して淑女としての『美しさ』を育んできたか……僕は知っているつもりだった。だが、今日の君は眩しすぎたんだ」
(努力っていうか……連日の激甘スイーツドカ食いとコルセット締め上げによる『脂肪の記憶形状』なんですけどねぇぇぇ!!)
真実を叫びたい口を必死に抑え込む私。しかし、王子の手から伝わる温もりと、真剣すぎる愛の告白に、胸の奥がキュンと甘く疼いてしまう。
「……これからは、君がどんな姿になろうとも、どんなに魅力的に成長しようとも、決して理性を失わずに君を守り抜くと誓おう」
「アストルフォ様……///」
「だから……その……」
王子は少し照れくさそうに頬を染めると、私の耳元に顔を近づけ、甘い声で囁いた。
「もう少しだけ……僕の腕の中で、火照った身体を休めていかないかい……?」
(理性を保つ誓いはどこ行ったのよぉぉぉーーーっ!! 距離が近い! 距離が近いです殿下ぁぁぁ!!)
猛省からの怒濤の甘やかしモードに突入し、私の心臓は砂浜の波音よりも激しくドコドコと鳴り響くのだった。




