第十四話 ルチアの初めてクッキング
「本日はなんと、王太子殿下へ手作りの焼き菓子をプレゼントする企画でございますわ、ルチア様!」
厨房の真ん中で、侍女のエレノアが気合十分にエプロンを掲げた。
(……いやいやいや! おかしくない!? 料理なんて前世のニート時代にカップ麺にお湯注ぐか、レンジでチンしたことくらいしかないんだけど!?)
ルチア(中身:48歳元ニートおじさん)は、フリルたっぷりの可愛らしいエプロンを着せられながら冷や汗を流した。
「大丈夫ですわルチア様! 愛さえ込めれば、料理は必ず美味しくなるものです!」
「根性論で料理を作らせるなーっ!!」
まずは生地作りからスタート。ボウルに小麦粉、バター、そしてたっぷりの砂糖を投入する。
しかし、ここでルチアのおじさん脳と「乙女のカロリー欲求」が余計な計算を弾き出した。
(待って……砂糖とバターの量がエグい。これ、全部食べたらまた脂肪になるやつじゃない……? いやでも、今の私の体質だと、摂取したカロリーは全部あそこに蓄えられて……)
ふと自分の胸元に視線を落とす。ドレス越しでも主張の激しいその膨らみは、連日の激甘スイーツと女性ホルモンの過剰分泌、そしてエレノアの謎技術が生み出した「奇跡の贅肉」である。
(……あかん! 料理に集中しろ自分! また胸に配分が回ったら、服が入らなくなる!!)
「ルチア様、生地を丸めてオーブンへ入れますわよ。……あら? ルチア様、力仕事はお任せください」
「いいえ! 料理くらい自分の力でやってみせるわ!」
意地になったルチアは、力任せに生地を捏ね回す。だが、日頃のコルセット締め上げによって鍛え上げられた(?)体幹と、乙女化が進んだしなやかな腕力では、生地は力強くねじ切られ、なんだかゴツゴツした謎の立体物へと変貌していった。
〜数十分後〜
オーブンから上がってきたのは、甘い香りを漂わせつつも、どこか歪でゴツゴツとしたクッキーたち。
「……うぅ、ちっとも可愛く焼けなかったわ……。こんなの、アストルフォ様にお渡しできない……」
ガックリと肩を落とすルチア。しかし、エレノアはうっとりとそのクッキーを見つめていた。
「何を仰いますかルチア様! ご覧ください、この無骨ながらも溢れんばかりの情熱! まるでルチア様の愛そのもののフォルムですわ!」
「ただの形崩れを愛で押し通すなーっ!!」
そして午後、東屋にて。
連絡を受けて駆けつけたアストルフォ様は、可愛らしいラッピング箱を差し出すルチアの手を、両手でそっと包み込んだ。
「アストルフォ様……その、私、初めてお菓子を作ってみたのですが……少し形が不細工になってしまって……」
恥ずかしさのあまり俯くルチア。
アストルフォ様は目を見開くと、尊いものを見るような眼差しでクッキーをひとつ口に運んだ。
サクッ……。
「……っ!! 美味しい……! 素晴らしいよルチア! 甘みが体に染み渡るようだ……!」
「ほんとうですか……?(良かった、生焼けじゃなくて……)」
感激したアストルフォ様は、そのままルチアの手を引き、ギュッと強く抱きしめた!
「僕のために慣れない料理をして手まで痛めて……ルチア、君の愛が本当に嬉しいよ!」
「あ……っ///(ちょ、アストルフォ様、距離が近い……っ!)」
密着した胸元から伝わる、柔らかく育ちきった感触。
アストルフォ様は一瞬で顔を真っ赤にし、呼吸を荒くした。
「っ……ル、ルチア……なんだか、君の胸のあたりから、甘い焼き菓子の香りと……すごく甘い匂いが……」
「や、やだ殿下……どこ嗅いでるんですかぁぁぁ!!///」
手作りクッキーの甘い香りと、すっかりヒロインとして育ちきったルチアの魅力にノックアウトされた王子は、そのままルチアを膝の上に抱え上げ、甘いお返し(キス)の嵐を降らせるのであった。
(俺の作ったクッキーのカロリーが、巡り巡ってまた俺の胸に還元される気がする……!!)
おじさんとしての理性が甘く溶けていく中、ルチアの「初めてのクッキング」は大成功(?)で幕を閉じたのだった。




