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人外適応管理局 ―ようこそ、人と妖が暮らす街へ―  作者: 日旅こつめ


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初めて見る世界

暁の周囲には、今も局長の結界が張られている。

 局の扉を開ける。

 外から、少し冷たくなった秋風が吹き込んできた。

「わあ……」

 暁が目を丸くする。

「どうしたの?」

「そと、ひろい」

「そうだね」

 暁は空を見上げた。

 青い空。

 流れていく雲。

 道を歩き出すと、少し人通りが見えてきた。

 道を歩く人たち。

 どれも、暁にとっては初めて見るものだった。

「りょうじ」

「ん?」

「あれ、なに?」

「……あれは信号だよ」

「しんごう?」

「うん。赤になったら止まって、青になったら歩くんだ」

「どうして?」

「みんなが安全に歩くためだよ」

「そっか」

 暁は信号をじっと見つめた。

 そして、青に変わると――。

「みんな、あるいた!」

「そうだね」

 暁は嬉しそうに笑った。

 その姿を見ながら、僕は思う。

 さっきまで白澤さんが話していたことが、嘘みたいだった。

 この子は今、ただ街を歩いている。

 人間も、人外もいるこの街を。

 その中で、少しずつ世界を知っている。

「暁ちゃん」

 少し離れたところを歩いていたサトリさんが、その先を指差した。

「あそこにお店がありますよ」

「おみせ?」

「はい。何か食べてみますか?」

「たべる!」

「じゃあ、今日は何にしましょうか」

 暁は目を輝かせながら、店先に並ぶものを眺め始めた。

 しばらく悩んだあと、暁の目が一つのものに止まった。

「……これ」

「焼き芋?」

「やき……いも?」

「そう。食べてみますか?」

「たべる!」

 サトリさんが笑いながら買ってくれた焼き芋を僕が受け取り、暁へ渡す。

 暁は両手で大事そうに抱えた。

 少し冷ましてから、一口。

「……あまい」

「おいしい?」

「うん!」

 暁は嬉しそうに頷いた。

 局長も、その様子を見て笑っている。

 僕もつられて笑った。

 今はまだ――。

 ただ、この子にたくさんのものを見せてあげよう。

 人間の暮らしも。

 この街の日常も。

 そして――。

 ここで生きることが、どんなものなのかも。

 店を出ると、暁はさっき食べたものを思い出すように、自分のお腹をぽんと叩いた。

「おいしかった?」

「うん。おいしかった」

「それはよかった」

 サトリさんが笑う。

 暁は少し歩くと、今度は道端に植えられた木を見上げた。

「りょうじ」

「ん?」

「あれ、なに?」

「木だよ」

「き?」

「うん。大きいね」

「……おっきい」

 暁は首が痛くなりそうなくらい、上を向いている。

 風が吹くたび、葉がさらさらと揺れた。

「……おどってる」

「ふふ。そう見えるね」

 サトリさんが楽しそうに笑った。

 しばらく歩いていると、道の先に広い場所が見えてきた。

「あれは公園だよ」

 局長が教える。

「こうえん?」

「子どもが遊んだり、大人が休んだりする場所だね」

 公園に入ると、暁は足を止めた。

 広い芝生。

 ベンチ。

 少し離れたところには、子どもたちが遊ぶ遊具もある。

「……あれ、なに?」

「滑り台だよ」

「すべる?」

「そう。上まで登って、滑るんだ」

 暁はしばらく滑り台を見つめていた。

 すると、近くで遊んでいた小さな男の子が勢いよく階段を駆け上がり、そのまま滑り台を滑っていった。

「わあ!」

 暁の目が輝く。

「もう一回!」

 男の子が笑いながら、また階段を駆け上がっていく。

「……たのしそう」

「うん。楽しそうだね」

 暁はしばらく、その子を眺めていた。

 やがて、隣にいた女性が男の子へ声をかける。

「転ばないようにね」

「だいじょうぶ!」

「本当に?」

「だいじょうぶ!」

 男の子は元気よく返事をして、また走っていった。

 その後ろ姿を見ながら、暁が小さく呟く。

「……おかあさん?」

「そうみたいだね」

「おかあさんは、あの子がすき?」

「そうだね。だいすきだよ」

「……だいすき」

 暁は、少し考えるようにその二人を見つめた。

 それから、局長の手を握り直した。

「せお」

「ん?」

「わたしのこと、みんなすき?」

 暁は少し困ったように眉を寄せる。

 局長は一瞬、言葉に詰まった。

 けれど今度は、迷わなかった。

「うん。みんな、暁のことが好きだよ」

「……そっか」

 暁は嬉しそうに笑った。

 局長はそれ以上何も言わず、その様子を見ていた。

 ただ、ほんの少しだけ目を細めていた。

「じゃあ、次は川のほうへ行ってみよっか」

「かわ?」

「うん。水が流れているところだよ」

「おみず?」

「そう」

「みたい!」

 暁は、今度は自分から僕たちを引っ張るように歩き始めた。

「急がなくても、川は逃げないよ」

 僕が笑いながら言う。

「……かわ、にげない?」

「逃げないよ」

「そっか」

 暁は安心したように頷いた。

 僕たちは笑いながら、公園を抜けていった。

 川に着くと、釣りをしている人や散歩をしている人、木陰のベンチで休んでいる人など、様々な人たちがいた。

 川辺の生き物を眺めながら歩いていると、少し先のベンチに見覚えのある姿があった。

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