新しい景色
それから、数日が過ぎた。
その間、白乃さんと初音さんは店を閉めて、街を離れていた。
後から初音さんに聞いた話では、目的地を決めた特別な旅ではなかったらしい。
初音さんが行ってみたいと言った場所へ行き、知らない町を歩いて、気になった店に入る。
初音さんは、目に入るものすべてを楽しそうに眺めていたという。
「白乃さん、見てください。あのお店、面白そうですよ」
「ふふ。初音ちゃんは、本当に何でも興味を持つのね」
「だって、知らないものばかりですから」
そんな初音さんの言葉を聞きながら、白乃さんは笑っていたそうだ。
旅の途中で、白乃さんは何度も昔のことを思い出したという。
旦那さんと歩いた道。
一緒に食べたもの。
何気ない会話。
けれど、それだけではなかった。
初音さんが初めて見る景色に目を輝かせるたびに、白乃さん自身も知らなかったものが、少しずつ増えていった。
長く生きてきた。
それでも、まだ知らない場所がある。
まだ知らない人がいる。
まだ知らない時間がある。
そのことが、少しだけ嬉しかったらしい。
そして数日後。
二人は、いつもの街へ戻ってきた。
僕と白澤さんは、二人が戻ってきたと聞いて喫茶店へ顔を出した。
白乃さんの表情には、まだ寂しさが残っていた。
けれど――。
以前のように、過去だけを見つめる目ではなかった。




