92/107
一歩を踏み出す
そう思った時だった。
僕の携帯電話が鳴った。
画面には、初音さんの名前が表示されている。
白乃さんのことだろうか。
僕は急いで電話に出た。
『良治さん? 今、大丈夫ですか?』
初音さんの声は落ち着いていた。
「はい。何かありましたか?」
僕は少し緊張しながら問いかけた。
『白乃さんが……暁ちゃんに会いに行きたいと』
「……そうですか」
『白乃さん――この数日、ずっと考えていたんです』
「……」
『旦那さんのことも。暁ちゃんのことも』
初音さんの声は、いつもと変わらなかった。
『それで……もう、大丈夫だって』
「大丈夫……?」
『はい。ちゃんと、自分の中で受け止められたって』
「……」
『ただ――まだ心細いから、一緒に行ってほしいって』
その言葉を聞いて、僕は少しだけ安心した。
どれほど長く生きていても、辛い時に誰かを頼りたくなるのは同じなのだろう。
そして――。
今の白乃さんにとって、その人が初音さんなのだ。
「……分かりました」
僕はそう答えた。
「待っています」
『ありがとうございます。すぐに準備して伺いますね』
初音さんの声が、ほんの少しだけ柔らかくなった。




