小さな世界
局に着く頃には、お昼になっていた。
「ただいま戻りました。遅くなってすみません」
中へ入ると、サトリさんと局長がいた。
そして――。
「……あれ?」
昨晩見た時より、暁が少し大きくなっている。
しかも、局長のそばを離れ、よちよちと一人で歩いていた。
局長とサトリさんが、僕と白澤さんに気づいてこちらへやって来た。
「白澤さん、良治くん。お疲れさま。白乃さんは――どうだった?」
「……ちゃんと話してきた」
白澤さんが答える。
「旦那の魂のことも。これからどうすべきかも、全部伝えた」
「そう……」
局長の表情が少しだけ曇る。
「白乃さんは?」
「……受け止めていた」
白澤さんは短く答えた。
「あいつは強いな」
「そう――ですね」
「ああ。……まあ、初音くんがそばにいる。私が心配することでもない」
その時だった。
局長の後ろから、暁がよちよちとこちらへ近づいてきた。
「……暁」
僕が名前を呼ぶと、暁が足を止めた。
ゆっくりと顔を上げる。
「……りょ、じ」
「え?」
思わず聞き返す。
暁は僕を見ながら、もう一度口を動かした。
「……りょーじ」
「……僕の名前、覚えたんですか?」
「うん。良治くんがいない間に、少しずつ教えていたからね」
局長が、少し嬉しそうに笑う。
「良治くんのことも、サトリのことも。白澤さんや、みんなのこともね」
「今日は私もお手伝いしましたよ」
サトリさんが穏やかに笑った。
「少し離れたところからですが、この世界のことも、少しずつお話ししていました」
僕は暁を見る。
昨日までは、名前すらなかった子だ。
それが今は、僕の名前を呼んでいる。
自分がいる場所のこと。
そこにいる人たちのこと。
たった一晩で――ここまで。
白澤さんは、しばらく暁を見つめていた。
それから、いつもの調子を取り戻すように小さく息を吐く。
「さて」
暁の前にしゃがみ込んだ。
「診察の時間だ」




