ひとりにはしない
局長は、幼い姿になった思念を見つめていた。
その目には、驚きとも悲しみともつかない、複雑な色が浮かんでいる。
「この子を、局に連れて帰りましょう」
僕は静かに言った。
この子のことを、もう少し知る必要がある。
なぜか、そう思った。
そしてそれは、きっと局長にとっても同じなのだと思った。
局長はしばらく黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「……そうだね。このままにはしておけない」
こだまさんは、その子をしばらく見つめていた。
その表情から、ようやく肩の力が抜けたように見えた。
「この子がここを離れれば、この辺りの自然は少しずつ落ち着いていくと思う」
こだまさんはそう言って、幼い姿になった思念をもう一度見つめた。
「……ありがとうございました」
局長が静かに頭を下げる。
こだまさんは、今度は僕へ視線を向けた。
「良治くん」
「はい?」
「君が困った時は、自然に頼っていいんだよ」
「……自然に?」
「うん」
こだまさんは、周囲の木々へ視線を向ける。
「森も、緑も、そこに生きるものたちも……きっと君に応えてくれるから。もちろん、私もね」
こだまさんは、少しだけ笑った。
「……ありがとうございます」
僕が頭を下げると、こだまさんは満足そうに頷いた。
「じゃあ、またね」
そう言って、こだまさんの周りに木の葉が舞い始める。
風に乗るように、その姿が少しずつ薄れていった。
完全に見えなくなる前に、こだまさんが一度だけ振り返る。
「この子のこと、よろしくね」
その言葉に、僕と局長は小さく頷いた。
「……はい」
こだまさんは、今度こそ木々の向こうへ姿を消した。
僕は、局長の腕の中にいる小さな姿へ目を向けた。
千年前に零れ落ちた、ひとつの想い。
それが、千年の時を越えて、今ここにいる。
僕たちは、まだ何も決められていなかった。
それでも――この子を、もうひとりにはしない。
それだけは、決まっていた。
僕たちは、幼い姿になった思念を連れて、公園をあとにした。




