動き出す準備
局長は手元にある資料を丁寧に取りまとめた。
その手つきを見ているうちに、僕の胸の奥にも覚悟が固まっていった。
「……僕も付いていきますよ!」
駄目だと言われる前に、そう口にしていた。
けれど局長は顔を上げ、さも当然だと言わんばかりに和やかに微笑んだ。
「もちろん、良治くんにも来てもらうよ」
「いいんですか?」
「うん。白乃さんから旦那さんの話を直接聞いて、葉月さんや河野さんの異変も間近で見てきた。それに、街で起きていることを一番近くで見てきたのは、良治くんだからね」
局長はそう言って、優しく僕の目を見つめた。
「人間と人外の間に立って、彼らの声を聞いてきた君に……一緒に来てほしいんだ」
その言葉が、胸の奥に静かに染み込んでいく。
僕はようやく、局長に一人前として認めてもらえたような気がした。
「……分かりました。一緒に行かせてください」
僕が頷くと、傍らで黙って聞いていた白澤さんも、フッと口元を緩めた。
「それと――初音くんには、ここまで話しておいた方がいいだろうな」
「初音さんに?」
「ああ。昨日、あれだけ白乃のことを聞いたんだ。何も知らされないまま……というのも、さすがに可哀想だろう」
白澤さんは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「それに……あの子は、事情を話せば勝手に首を突っ込んでくれるだろうしな」
「……初音さんなら、そうかもしれません」
「だろう?」
白澤さんは、どこか呆れたように笑った。
けれど、すぐにその表情を引き締める。
「……まあ、あの子にも知ってもらわないといけない」
白澤さんは小さく頷いた。
局長は扉の向こうへ向けて、少し声を張った。
「サトリ、ちょっといい?」
「はい、局長」
ほどなくして、サトリさんが部屋へ入ってきた。
「初音くんに、局に来てもらうように、連絡を取ってもらえるかな」
サトリさんは何かを察したように、けれど何も言わなかった。
「わかりました」
サトリさんは小さく頷くと、すぐに部屋を出ていった。
その背中を見送りながら、白澤さんがぽつりと呟く。
「さて……あの子は、どう受け止めるかな」
ほどなくして、サトリさんが温かいコーヒーを持って部屋に戻ってきた。
先ほど出してくれた湯呑みを下げ、それぞれの前にコーヒーを置いていく。
「初音さん、すぐに来られるそうですよ」
「ありがとう、サトリ」
局長が穏やかに礼を言った。
サトリさんは小さく一礼すると、再び部屋を出ていった。




