問いを託す夜
——同じ頃、夜の街。
暗がりの路地を歩いていた黒猫が、ふと足を止める。
「……すまないね、黒さん。嫌な役回りを頼んでしまった」
街灯の淡い明かりの下で待っていた瀬尾局長が、ポケットに手を入れたまま静かに口を開いた。
黒猫――黒さんは振り返ることもなく、小さく鼻を鳴らす。
「気にするな」
尻尾を一度だけゆったりと揺らし、ぶっきらぼうに続けた。
「俺ぁ元々、こういう性分だ。」
少し間を置き、月明かりの下で口の端をわずかに吊り上げる。
「他の奴らは知らねぇ。猫又みんながそうだと思われちゃ困るがな」
黒さんは欠伸をひとつ漏らし、面倒そうに前足を舐めた。
瀬尾局長は苦笑し、小さく肩をすくめる。
「……あの子は、真っ直ぐすぎるからね。目の前の人を救うことには誰よりも一生懸命だ。でも、その先を見る経験がまだ足りない」
「だから、問いだけ置いてきた」
黒さんは夜空を見上げ、どこか遠くを見つめるように言う。
「答えを教えるのは簡単だ。だが、自分で辿り着いた答えじゃなきゃ、あいつはまた同じことを繰り返す」
「……君も、昔そうだったのかい?」
「さあな」
そう言い残すと、黒さんは軽やかに塀の上へ飛び乗り、夜の闇へと溶けていった。
瀬尾局長はその姿が見えなくなった闇に向かって、ぽつりと呟いた。
「……ありがとう、黒さん」
夜風だけが静かに路地を吹き抜けていった。




