送り出す想い
「そっか。決めたのね」
白乃さんが、最初に口を開いた。
いつものように穏やかな声だった。
けれど、その目はどこか寂しそうに見える。
「……うん」
「朧に会いに行くのね」
「うん」
暁はもう一度、しっかりと頷いた。
白乃さんはしばらく暁を見つめていた。
「じゃあ、ちゃんと会っておいで」
「……うん」
「それで、たくさんお話してきなさい」
暁が少しだけ目を丸くする。
「たくさん?」
「ええ」
白乃さんは微笑んだ。
「あなたがここで見たものも、楽しかったことも、嬉しかったことも。全部ね」
「……うん」
「きっと、朧も聞きたいと思うわ」
暁の顔に、小さな笑みが浮かぶ。
「いっぱい、はなす」
「そうしなさい」
白乃さんはそう言って、静かに目を細めた。
その隣で、初音さんが少しだけ俯いている。
「はつね?」
暁が名前を呼ぶと、初音さんは顔を上げた。
「……寂しいなって思って」
「さみしい?」
「うん」
初音さんは困ったように笑う。
「せっかく、いろんなことをお話できるようになったのに」
「……」
「もっと一緒にいたかったな」
暁は少し考えてから。
「わたしも」
そう答えた。
初音さんの目が、わずかに潤む。
「そっか」
「でも、いく」
「うん」
初音さんは少しだけ寂しそうに笑った。
「じゃあ、私はちゃんと『いってらっしゃい』って言わないとね」
「……いってらっしゃい?」
「大切な人を送り出す時に言うの」
「……」
「寂しいけど、暁ちゃんが決めたことだから」
暁は少し考えてから、頷いた。
「……いってきます」
「うん。いってらっしゃい」
そのやり取りを聞いていたサトリさんが、静かに息を吐いた。
「暁ちゃん」
「サトリ?」
「私も、寂しいです」
「……うん」
「でも」
サトリさんは、少し離れた場所から微笑む。
「暁ちゃんが自分で決めたことなら、私は応援します」
「おうえん?」
「うん。暁ちゃんが決めたことを、私は大切にしたいんです」
「……そっか」
暁は嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、サトリ」
「はい」
サトリさんの笑みが、少しだけ深くなる。
それから。
暁が僕を見る。
「りょうじ」
「……うん」
呼ばれることは分かっていた。
それでも。
いざ自分の番になると、何を言えばいいのか分からなくなる。
「僕も……寂しいよ」
「うん」
「もっと、いろんなところに一緒に行きたかった」
「わたしも、いきたかった」
「焼き芋以外にも、おいしいものいっぱいあるし」
「……いっぱい?」
「いっぱい」
暁の目が少しだけ輝く。
その顔を見て、思わず笑ってしまった。
「だから、ちょっと残念」
「……ごめんね」
「謝らなくていいよ」
僕は首を横に振る。
「暁が決めたんだから」
「……うん」
「朧さんに会ったら、ちゃんと話しておいで」
「なにを?」
「暁がここでどんなふうに過ごしたのか」
それから。
「暁という名前を好きになったことも」
暁は一瞬きょとんとして。
すぐに、笑った。
「うん。あかつき、すき」
「……そっか」
胸の奥が、また少しだけ苦しくなる。
「じゃあ、それも朧さんに教えてあげて」
「うん」
暁は大きく頷いた。
「りょうじが、つけてくれたっていう」
「お願いします」
「うん」
その返事に、僕も笑った。




