拒めぬ婚約
「イルミナ、皿の片付けは後にしてくれ。少し話がしたい」
「旦那様、どうなさいましたか。わたくしが何かしでかしましたでしょうか。それともお食事がお口に合いませんでしたか。お帰りが遅うございましたので、市場がもう閉まっておりまして」
私の呼び止めに、女中は慌てて振り返り、端正な姿勢で腰を折った。言うことをまるで聞かないアンシラとは対照的で、それだけで幾分か鬱憤が和らいだ。
「何もない。少し苛立っているだけだ。——なあ、俺は強欲に過ぎると思うか」
指の爪で皿の縁をこすった。ガチガチと細かな音がする。
「そのようなことは家臣の方にお尋ねになるべきでは。わたくしの身分では、軽々に断じる勇気がございません」
「おまえの身分だからこそ、話したいんだ。家臣の前で弱みは見せたくない。遠慮はいらん。思ったことを言え。これは命令だ」
「では……わたくしにも、何と申し上げればよいかわかりかねます。旦那様は貴族でいらっしゃいますし、わたくしはただの平民、幼い頃に城仕えに入った身です。旦那様にとって当たり前のお支出が、わたくしにとっては数年分の食い扶持にも匹敵するかもしれません。これでもわたくしは都市の自由民ですから、もしこれが領地の農民であれば——」
「もういい、わかった。話を変えよう。教会をどう思う」
手を振って遮った。領民の話題にはいささか苛立ちを覚えた。
「教会ですか。わたくしが幼い頃、両親はわたくしたち子どもを養うのにたいそう苦労しておりました。教会の施しがなければ、きっと生き延びられなかったでしょう。女神様と聖女陛下には感謝してもし尽くせません。旦那様は聖女様に拝謁できるのですから、本当に羨ましゅうございます」
「……」
顔に一瞬、不快の色が浮かんだのが自分でもわかった。
「あ、あの……どうなさいましたか、旦那様」
「何でもない。いい。もう一つ変えよう。——誰かを好きになったことはあるか」
「え、な、な、な、ないです。まさか旦那様、ど、どなたかに目を……」
イルミナの顔が赤く染まった。そっと顔を上げてこちらを窺い、すぐにまた伏せる。
「俺がいちばん好きなのは権力だ。肉の悦びも嫌いじゃないがな。どうだ、最低だと思うか」
「それは……いえ、いいえ。そんな、そんな。わ、わたくし、わたくし——」
イルミナの顔に一瞬だけ動揺が走った。私はふっと笑った。自分でもなぜ笑ったのかわからなかった。
「じゃあ仮に、おまえが誰かを愛したとして。何をされたらいちばん悲しい」
「裏切り……でしょうか。もしわたくしが誰かを愛したなら、その人だけでいたい。その人にも、わたくしだけでいてほしい。もし他の方と……きっと、悲しいと思います」
——他の女と関係を持つことで報復する。悪くない着想だ。ただ、あの忌々しい悪魔がまた折檻してくるかもしれないが。
「そうか。わかった。下がっていい」
「では失礼いたします。申し訳ございません。わたくしはただの平民ですから、旦那様のお力になれることが何もなくて」
イルミナが静かに退出した。私はもう一杯葡萄酒を飲み干してから、寝台に沈んだ。
——
翌日。ヴィエルヤの要求通り、再び皇宮に赴いた。道すがら、宮中の侍女たちがこちらをちらちらと窺い、何やらひそひそと噂話をしているのが目に入った。反応からして、明らかに自分に関係がある。
「陛下と聖女陛下はおいでですか」
誰にも制止されることなく大殿に入った。数名の侍女が忍び笑いをしているだけで、肝心の人物はいない。だが私の姿を認めた途端、笑いが凍りつき、互いに何かを言い合いながら狼狽え始めた。
最終的に、一人の侍女が後ろから押し出された。私の前まで来ると、手で顔を半分隠し、目を細めて覗き込むようにしながら告げた。
「セナトール伯爵様……陛下が、その……寝宮でお待ちです」
「は? 何だ、もう一度言ってくれ」
衝撃を受けて声を上げたが、侍女は言い終えるなり駆け去ってしまった。——今ので、侍女たちが何を囁いていたのかは完全にわかった。
エダの奴、何を考えている。寝宮だと? こんなことが漏れたら、必ず醜聞になる。——いや、もしかすると、それこそが狙いか。
少なくとも、あの悪魔版の精神的制限が解かれた今、エダが私に対して何を思っているのかは理解できていた。潜在意識では、こちらに有利に働くかもしれないとも感じている。だが感情の上では、やはり拒絶感が拭えなかった。
複雑な心境を抱えたまま、寝宮に向かった。扉は半ば開いていて、簡単に押し開けられるはずだった。だが私にとっては、この扉は万鈞の石門のように重かった。
一息に押せば一瞬で済むものを、力を殺して極めてゆっくりと押した。蝶番のきしむ音が一分近く続いた。——焦れたのだろう。金色の光が扉を包み、バンと音を立てて一気に開け放たれた。
吹きつけるような薫香の匂いが鼻腔から直に脳を刺した。明らかにヴィエルヤが行使した力に引きずられるようにして、身体が室内に引き込まれた。背後で扉が轟音とともに閉じる。
室内を見回した。窓帘はすべて引かれている。光源は天井の燭台と、卓上にずらりと並べられた蝋燭だけ。薔薇の花が卓の上に置かれ、ヴィエルヤは椅子に端座して炎を弄んでいた。——エダは、寝台に横たわっている。こちらを真っ直ぐに見つめて。
「陛下、これはどういうおつもりですか。こんなことをしたら流言蜚語が飛び交います」
「そうかしら。でもね、アンビティ伯爵。あなたが領地でしていたことを思えば、噂が立つのは時間の問題よ。だったら、その前にわたしの噂が先に立つ方がいい。それに——もうすぐ噂ではなくなるのだから」
冷ややかな声が寝台から響いた。認めたくはないが、この声は部屋の雰囲気とまるで噛み合っていない。だがだからといって、この雰囲気に流されて何かが起きることを望んでいるわけでは断じてない。
「陛下、冗談にしても笑えません。俺は本題があって参りました」
「わたしも本題よ、アンビティ伯爵。皇帝の終身大事と婚姻——何よりも重要なことではなくて? 我が夫よ」
「陛下はご冗談を。俺はあなたと婚約した覚えはありませんし、今のところ結婚するつもりもありません」
後退り、まずいと直感して、背中を扉に押し当てた。
「あるのよ。たとえ今なくても、明日には聖女お姉さまが証人として公布するわ。これは教廷からの絶対的な承認であり、皇帝の勅命。アンビティ伯爵——いいえ、我が夫、あなた。拒否できないでしょう?」
「何だと? 無茶苦茶だ。こんなことをしたら、どれほどの政治的波紋が起きると思っている!」
「無茶苦茶なのはあなたの方でしょう? 勝手に領地に帰って、勝手に怒って、勝手に悩んで。おまけに、あなたを通した門番のあの男まで、ひどい罰を受けたのよ」
「ああ、そうだ。俺が戻ってきたのはまさにそのためだった。あの、あの男を赦免してほしいのだが」
「あら、なぜ? わたしたちの命令を無視して城門を開け、わたしの愛しいアンビティ伯爵を領地に帰して他の女といちゃつかせた男よ? 四肢を切り落とさなかっただけでも温情なのに、放免しろと?」
エダの口調は次第に激しさを増していった。寝台から姿勢を変え、床に降り立ち、ゆっくりと私に近づいてくる。
「だが俺は約束を破れない。どうすればあの男を出してもらえる」
「簡単よ。わたしと結婚して。——今すぐ」
エダが再び、私の胸に身を寄せた。




