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じゃあヴィエルヤは?

「あなたも……この馬鹿げた話に同意したのか」


エダの頭越しに、ヴィエルヤを真っ直ぐ睨んだ。彼女は平然と椅子に座り、燭火を弄んでいた。炎が影を長く引き伸ばし、壁に圧迫感を纏わせている。昨日のあの痴態を見ていなければ、何か途方もない陰謀を練っているようにも見えた。もっとも、個人的には確かにそうなのかもしれないが。


「馬鹿げてなんかいないわ。明日、お姉ちゃんが教会の名で公布するの。アンビティ弟、これはとても厳粛なことなのよ」


「おまえ」


「視線を他所に逸らさないで。わたしを見て」


反論しようとした口を、エダが封じた。胸に寄り添うだけでは物足りないとでもいうように、爪先立ちになって私の顔を両手で掴み、唇を重ねてきた。


淡く上品な甘さが口腔に広がった。帝位を象徴する紫と、気品の残像が脳裏をよぎる。


エダの舌が口の中を探り、私の舌を誘い出そうとしていた。絡め取ろうとする動きは拙く、それでいて懸命で、配偶を求める小蛇のようだった。


心情は複雑を極めた。怒鳴りつけたい衝動と、口づけに身体が反応してしまう事実が同居している。この期間、散々唇を合わせてきたとはいえ、快を快と感じるのは本能だろう。少なくとも私にとっては。


舌だけではなかった。エダの手が身体中を這い回り、幼い頃から蓄えた知識を駆使して、くすぐったい箇所を的確に掻き始めた。


「うぅ、やめ、ははは、やめろ」


痒みに身体が勝手に暴れた。逃れようとするが、エダにがっちり抱きつかれて振りほどけない。頭だけが辛うじてよじれ、唇が食い違った。


それでもエダの舌は口から離れなかった。こちらの舌が身体と一緒に口内で滅茶苦茶に動く。水から跳ね上げられた魚のようだった。エダの舌がその瞬間、捕食する蛇に転じて絡みつく。だが私の舌が暴れ続けるせいで、外から見ればじゃれ合いにしか見えなかっただろう。


「やっぱり昔と変わらず、くすぐったがり」


散々味わってから、エダがようやく名残惜しそうに唇を離した。だが一言呟いた直後、今度は舌で顔を舐め始めた。


「や、やめろ。少しは女皇らしくしてくれ。そんな真似は権じゃなくて犬だぞ」


「ならあなた専属の犬でもいい。他の女が近づいたら噛みついて追い払う犬。わん」


冷たい声が消え、代わりに幼さを装った声色が甘えるように響いた。小さなエダに戻ったかのようだった。


「まったく、十数年前のつもりか」


「冗談よ。ふ。自分の美味しい持ち物を味わって何が悪いの。ところで、身体の傷はどうしたの。他の女の噛み痕があるわね。ねえ?」


エダの舌が顔から首筋に移り、そこで強く噛みついた。力の入り方はあの悪魔・黛娅に匹敵する。肉を引き千切らんばかりだった。


「痛い、もう少し加減しろ」


もがこうとしたが、くすぐりの最中に腕を封じられたまま、振りほどけない。


「へえ? わたしが噛んだくらいで大騒ぎ? あの汚い女どもがあなたの身体を抓ったり噛んだりした時は、なんで叱らなかったの。なんで突き飛ばさなかったの。ねえ? 言って? わたしはだめなの? わたしじゃ足りないの? なんで? 何の権利があって? わたしが何をしたっていうの、あなたにこんなに恨まれるようなことを。即位した日から、わたしを見る目がまるで変わった。敵を見る目。気づいてないとでも思った? 小さい頃からずっと、あなたの目にはいろんな色が浮かんできた。理由があるたびに変化して。新しい色が映るのをずっと待ってた。でもわたしが欲しかったのは愛慕で、届いたのは敵意だった。わたしを皇位に押し上げたのはあなた。勝手に憎んでいるのもあなた。わたしはただあなたが好きで、愛してる。何が間違ってるの? 他の人とはあんなに親密にしてるじゃない。小さい頃はわたしたちだって親密だったじゃない。なんで今は変わったの? 何を考えてるの? 何を恐れてるの? あなたが望むなら何だってあげる。わたしが欲しいのは最初からあなただけ。でもわかってる。本当に全部あげてしまったら、あなたを繋ぎ止められなくなる」


「……」


矢継ぎ早に溢れ出す言葉を聞きながら、心が揺れた。注がれる感情の重力が身体にのしかかり、わずかな罪悪感が芽吹く。だが他の女たちへの罵倒が引っかかり、そこだけが苛立ちとして残った。


「なんで黙るの。自分が悪いって気づいたんでしょう? わたしはあなたが好き。あなたを愛してる。あなたのいない毎日は胸がからっぽで、空洞で、空虚で、食事をする気力すら湧かない。味がしない。幼い頃にあなたを好きになった最初の日から、今日までずっと。表に出さなかっただけで、ずっと怖かった。あの不確かさが。あなたが正面から応えてくれないことが。応えがないことへの不安。あなたを愛してる。四六時中あなたと口づけしたい。抱きしめたい。あなたに所有されたい。幸福を象徴する痛みを味わいたい。でもわたしの長い長い待ち時間の果てに届いたのは、聖女お姉さまが見せてくれた、あなたとあの下品な女どもが睦み合う光景だけだった。なんで。なんで他の人となの。なんでわたしじゃないの。あなたになら何でも差し出せる。あなたにだけは何でも捧げられる。ただ永遠にわたしを見ていて。永遠にわたしだけの傍にいて」


「その、何と言えばいいか。正直、怒鳴りたい。でもこうされると、俺も辛い」


エダが再び胸に飛び込んできた。腕の中で泣き崩れ、涙が衣服を濡らし、肌に張りついた。迷った。姉妹や幼馴染を罵倒されたことへの不満はある。だがエダも幼い頃からの間柄で、権力の配分で揉めたとはいえ、言っていることに筋は通っている。確かに、自分勝手だったのは俺の方かもしれない。


違う。その考えを受け入れかけた瞬間、話の中にあった一つの事実に引き戻された。ヴィエルヤが見せた映像。そうだ、俺のせいじゃない。ヴィエルヤだ。あいつが全部仕組んだ。あいつの罪だ。


視線を動かし、怒りを込めてヴィエルヤを凝視した。


「あらあら。アンビティ弟ったら、どうしてお姉ちゃんを見てるの? エダ妹が泣いてるのに、視線がお姉ちゃんの方に来ちゃうなんて。浮気者」


「わたしが心を注いでいる最中にまで他の人を見るの?」


燭火しか見ていなかったはずなのに、私の意識が自分に向いた瞬間を鋭く察知していた。同時にその炎を吹き消し、表情が闇に沈んだ。


エダも不満を口にし、また長広舌を始めようとしたが、私が遮った。


「待て。一つ訊きたい。俺にだけ傍にいてほしいと、そう言ったな」


「当然でしょう」


「じゃあヴィエルヤは?」


「え?」


「え?」


二つの驚きの声が、同時に響いた。エダと、ヴィエルヤ。


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