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魔女

「こんな目に遭わされて、感謝しろだと? 狂人。魔女め!」


焦燥に駆られ、灼熱の痛みが残る手を無意識に鞘の方へ伸ばした。剣を抜こうとして——空を掴んだ。


「アンビティ弟、鎧も剣も床に散らばってるの、気づかなかった? こんな些細なことにも気が回らないなんて、本当に子どもの癇癪ねえ。素直にお利口さんにしてれば、こんなことにはならないのに。それに——聖教世界を統べる聖女を、どうして魔女なんて呼べるの」


ヴィエルヤが掌を私の頬に当て、額を押しつけてきた。青い髪が首筋に絡みつき、かすかな痒みを伴う。あの異色の双眸が、言うことを聞かない子どもを見るように私を見つめている。——ひどく居心地が悪かった。


「俺はあなたの弟じゃない。姉ならいる」


「お姉ちゃんは一人だけとは限らないでしょう。アンビティ弟がこんなに頑固でも、お姉ちゃんは好きよ。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。いちばん好き」


手の灼熱感が消えた。代わりに降り注いだのは、ヴィエルヤの狂おしい口づけの雨だった。美味なものを味わうように、顔のあらゆる角を唇で辿っていく。あっという間に、顔中が接吻の痕に覆われた。


無力感が全身に蔓延した。幼い頃からずっと思っていた。この女は宗教指導者にはまるで見えない。黛娅と名乗るあの悪魔は、一体何を彼女に見せたのだろう。なぜここまで私に執着するのか。


「それで、この後どうするつもりだ。俺ともして、それから身体に奇妙なことでもするのか。こんな力があるなら、なぜ俺が必要だ。宮相くらい、直接殺せばよかっただろう」


「前にも言ったでしょう、アンビティ弟。この力の影響範囲は限られてるの。無知な世人を眩ませるか、特定の状況でしか使えない。でなければ、教会はとっくに世界を支配してるわ。——お姉ちゃんがどうしたいかって? したい気持ちはあるけど、女神が終わったばかりなのに、そんなことしたら冒涜が過ぎるかしら。それにお姉ちゃんも、初めては荘厳にしたいし」


話の途中で、ヴィエルヤが手を私の顔から引っ込め、自分の顔を覆った。真っ赤だった。そのまま、ずっと私を見つめていた。


時間が経つにつれ、拷問された怒りも徐々に収まっていった。——というよりも、理性が再び優位に立ち、このまま反抗し続けても何も良いことはないと告げていた。もし本当に感情を持っているなら、利用できるのではないか。その考えが脳裏をよぎった。


表情を整えた。残りの怒気も懸命に抑え込み、後悔の色を浮かべようとした。涙が表情に沿って目尻から滑り落ちた。——演技ではなかった。己の屈辱を思い出して、自然と溢れてきたのだ。


「ごめんなさい。さっきは少し、取り乱しすぎた。ヴィエルヤ……『お姉ちゃん』」


「あ、アンビティ弟、自分が悪かったってわかった? でもなんでこの"お姉ちゃん"の発音、ちょっと変な感じがするのかしら。まあいいわ。お姉ちゃんって呼んでくれただけでいい子いい子。なでなで」


「お姉ちゃん」を口に出す時、悔悟を装いながらも、どうしても力みが入った。実の姉を想像してみたが、余計に気分が悪くなった。幸い、ヴィエルヤは気にしていないようで、嬉しそうに頭を撫でてきた。


「うぅ……ヴィエルヤお姉……お姉ちゃんは、僕のことが好きなんだよね。愛してるんだよね」


「うんうん。お姉ちゃんがいちばん好きなのはアンビティ弟よ。っていうか、アンビティ弟とエダ妹だけが好き。アンビティ弟がお利口にしてくれるなら」


「じゃあ、お利口にしたら、ご褒美はある?」


「もちろん。アンビティ弟は何がほしい?」


——だめだ。こんなふうに甘えるの、気持ち悪い。地面に穴があったら飛び込みたいほど恥ずかしい。だがヴィエルヤは嬉しそうだった。顔を私の顔に押し当て、頬をぐりぐりと擦りつけてくる。いけるかもしれない。


「それなら、ヴィエルヤお姉ちゃん。教会の兵士を撤退させて、エダを説得して軍の指揮権を俺に戻してもらえないかな。あと、気に食わない何人かの教籍を剥奪してほしい」


「ああ……なるほどね。お姉ちゃん、わかったわ」


頬に密着していた動きがぴたりと止まった。声の温度が急激に下がる。一瞬前まで体温を感じていた頬に、氷の刃が突き刺さったような冷気が走った。


「えっ、ヴィエルヤお姉ちゃん、何がわかったの」


「アンビティ弟は反省なんかしてないわ。お姉ちゃんの愛を利用して、底線を試しただけ。教会への影響がどれほど大きいかは措くとして——アンビティ弟にやりたい放題させたら、お姉ちゃんのところに来てくれる暇なんてなくなるでしょう」


「じゃ、じゃあ何をもって愛してると証明するんだ」


「やっぱり利用するつもりだったのね。見破られたら、"お姉ちゃん"も呼ばなくなる。どう証明するかって? お姉ちゃんはもう証明したわ。この身体は女神の御身ほど高貴ではないかもしれない。けれど大多数の者にとって一目見ることすら叶わぬもの。触れることを許されているのは、アンビティ弟だけよ」


「呼び方くらい……うっかりするのは普通だろう。それに、それに——」


「それに、何? アンビティ弟」


ヴィエルヤが軽く唇を重ねてきた。言葉が途切れた。先ほど髪を撫でていた指がそのまま、唇の上に置かれる。


「アンビティ弟、緊張してるわね。お姉ちゃんは知ってるの。お父さんが早くに亡くなってから、ずっと無理に強がってきたこと。強い大人のふりをしてきたこと。でも本当は——心の中では、わがままな子どものまま」


「子どもじゃない。言いたかったのは——あんたがどれだけ綺麗でも、あの悪魔が俺に呪いをかけていなければ、触れたい相手に勝手に触れていた。とっくに子どもだっていたかもしれない。それに俺の姉や妹だって、あんたに負けてない」


「わあ。アンビティ弟、それってお姉ちゃんの美貌を褒めてるの? でもお姉さんや妹さんは関係ないでしょう。近親は聖教の教義に違反するわよ」


「俺がどうしようと教会に口出しされる筋合いはない」


「あら。では吾が愛しき者は、やはり姉と妹に想いを寄せておったか」


「話を逸らすな。本当に愛しているなら、なぜ俺の権力を奪った」


「女神にもエダ妹にも、それぞれの考えがあるの。それに幼い頃からずっと一緒だったからこそ、お姉ちゃんもエダ妹もわかってるの。アンビティ弟に対して何もしなかったら、アンビティ弟は今みたいにこんな簡単にお姉ちゃんの腕の中にいてくれる? とっくに勝利に酔いしれて、お姉ちゃんとエダ妹を放り出してるでしょう。——それにお姉ちゃん、アンビティ弟を冷遇したかしら? あれだけ広大な領地を与えて、神力の宿った聖剣まで授けたのに」


「ふん」


反論できなかった。確かに膨大な領地だ。だがそれと比べれば、全国を統べる権力の方が遥かに甘美な誘惑だった。——ふと、チェルシーのことが頭をよぎった。指を噛んでいた時の顔。何かに導かれるように、気がつくと——私もヴィエルヤの指に噛みついていた。

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