沈黙の、その前
「他に報告すべき事項がある者は」椅子にもたれ、気だるげに肘掛けを指先で叩く。——そういえば、妹にあれだけ絡まれていたせいで朝食を取り損ねていた。腹が減った。
「殿、ご安泰をお祈りいたします。裁定を、正確に申しますと、お力添えをお願いしたい件がございます」
もう一人の家臣が進み出て、片膝をついた。
「バッロか。何があった」
「教会の件でございます、殿。本日、家の帳簿を確認いたしましたところ、政変以降、レシア修道院の者が首都への往来で橋を渡る際に、私が建設した橋梁を使用しておきながら、一切の通行税を納めていないことが判明いたしました。税の納付を求めに参りましたところ、修道院長のエクレなる者が、聖女陛下のご命令であると主張し、私には徴税の権限がないと申しました。さらには殿の叔父君と親しいと言い立て、私の教籍を剥奪すると脅しまでかけてまいりました。それだけでなく、紛争の報復として、自らの牛羊を森に放し、猪を飼育するための橡の実を食い荒らさせたのです。とはいえ修道院が忠誠を誓うべき相手は殿であり、私の一存で踏み込むわけにもまいりませんでした」
「調べを入れさせる。事実であれば、本来納めるべき税の上納と罰金を命じる書状を、俺自身の名で出す。それでもなお抗うようなら、兵を率いて直接挨拶に行くとしよう。——逆もまた然りだ」
「殿のご温情に感謝いたします」
バッロが立ち上がって一礼し、退いた。
続いて他の封臣たちも次々と進み出て、案件を申し立てる。私が仲裁し、処理していく。その間にも、残りの領主たちが三々五々と集まり始め、やがてその中に見慣れぬ顔が混じっていた。
「セナトール伯爵殿にご拝謁いたします。我々はパラティ地方の領主でございます。正式に忠誠を誓いに参りました」
旧来の家臣たちの雑多な案件を捌き終えた後、新顔たちが次々と前に出て、片膝をついて忠誠を誓った。
「よろしい。昨日帰って来た折に図冊を確認したが、あれほど迅速に林地と戸口を整理できたのは、諸君の積極的な協力があればこそだろう」
「殿のお言葉、恐れ入ります。殿は内戦において赫々たる武名を轟かせ、幾人もの王を討ち取られたお方。我ら如きが協力せずにいられましょうか」
白髪の老人がもう片方の膝もつき、両手を地面に突いた。
「ははは」
思わず大笑いが漏れた。帝都での政治的な不如意と鬱屈が、一瞬で吹き飛ぶような心地だった。——これこそが俺の求めるものだ。領地。軍隊。権力。
「買い被りだ。俺自身の武勇もさることながら、代々受け継がれてきた力と忠誠な家臣の存在が鍵だ。パラティは帝国の南東境界に位置しているが、辺境の防衛に懸念はあるか?」
「はい。ピラタ人は継承権の喪失に強い不満を抱いているようでして。正式に帝国へ宣戦布告はしておりませんが、小規模な国境侵犯が絶えません。我々も兵力を組織して反撃しておりますが、相手の装備は明らかに上等でして、背後に国王の暗黙の支援があることは間違いございません」
「ふむ……そうか。考えさせてくれ」
指先で肘掛けを軽く叩く。壇下の新しい封臣たちが頭を垂れた。老人をちらりと窺う者もいる。その表情には緊張が滲んでいた。——老人は、彼らに選ばれた代弁者にすぎないのだろう。
「辺境防衛が課題であることは承知していたが、まさかブリヌスの奴が領主を差し向けて俺の新領土を荒らす度胸があるとは思わなかった。新たな主の威厳を示すため、自ら兵を率いて反撃する必要があるな。対処する。下がってよい」
「感謝の極みでございます」
私の答えを聞いた瞬間、壇下の新封臣たちから安堵の息が漏れた。口々に謝意を述べる。
「殿、情勢がまだ不安定な折に出兵してよろしいのでしょうか。もし全面戦争に発展したら——」
「心配するな、エクレ。ピラタ人が先に挑発してきたんだ。おまえはいつも心配しすぎる。帝都での譲歩にはもう十分うんざりした。少し反撃して気を紛らわせる頃合いだ。何より、領地の安全を確保しなければならない。封地に戻り次第、騎兵を召集しろ。数百騎で十分だ。多すぎると動きが鈍る。武装も最小限に。軽装で臨む。三週間以内に、パラティ領内のフィニスに集結」
「御意」
壇下から、声を揃えた応答が返ってきた。
「そうだ。パラティは南東地帯に近い。従来の交易路はまだ機能しているな?」
「はい、いかがなさいましたか、殿」今度は老人ではなく、別の領主が前に出た。
「帰ったら、地図を一枚届けてくれ。現在の交易路の交差点と経路を記入しておけ。軍事作戦に使うだけではない。戦後、主要な交差点に定期市を開設し、通行税を徴収する。さらに法廷を編成して新領地を巡回裁判する」
「殿がそのようなご意向であれば、我々は当然ご命令に従い実行いたします」
「この遠征にかかる軍事費用と経費だが」
「心得ております。全行程、我々が負担いたします。封建義務でございますから」
「ふむ。よくわかっているじゃないか」
「他に報告事項はあるか。なければ退下。散会だ」
手を振って封臣たちを退出させた。彼らが去っていくのを見届け、身体を椅子に深く沈めた。少しでも楽な姿勢を取りたかった。
「腹が減った。何か食べたい」
「こんなに長い間、何も食べてなかったの? まさか逃げ出しただけで、そのままぼうっとしてたんじゃないでしょうね」ずっと傍らに黙って立っていたチェルシーが、ようやく口を開いた。会議中は一言も発しなかったから、いることすら忘れかけていた。
「妹をなだめてたんだ」
「また一幕、家庭倫理劇ね」
「違——」
反論しようとしたが、的を射ていて、言い返す点が見つからなかった。
「固まったわね。だから言ってるの、救いようがないって。——ところで三週間後って、ここに三週間もいるの? 昨日はすぐ帰ると言ってたじゃない。エダが知ったら、そんなに長く帝都を空けてるなんて、発狂するわよ」
「敵が来たからには、やり返す。新たな領主としての威厳を保つためにな」
「じゃあなんで海を渡ってオリエンス人を攻めないの」
「船がない」
「……本当の目的は下の方でしょう。定期市と巡回法廷。出撃に乗じて、新領地への支配を固めたいんでしょう」
「主目的が後者であることは否定しない。だがピラタ人が俺の領土に踏み込んで略奪を働いた以上、この怒りを飲み込むわけにはいかない。兵を率いて逆にピラタ人の領土を攻撃する——それも事実だ」
「教会に対しては、どうしてその怒りを飲み込めるの? 兵を出して教会を焼き払えばいいじゃない」
「教会の横暴は、まだ俺の限界を本当に超えてはいないからだ。新たに大量の武装が流入してきたとはいえ、旧来の秩序に対する俺の影響力はまだ健在だ」
「あなただけの影響力じゃないわ。大部分はお父様の影響力よ。あなたがお父様を殺したせいで、その部分はとっくに大きく弱まっているの」
チェルシーはそう言いながら、指先で自分の唇にそっと触れた。——その指を、私の唇に当てた。身体を寄せてきて、私の太腿の上に腰を下ろした。
私は言葉を返さなかった。この沈黙は長く続いた。
——鷹の一声が、それを断ち切るまで。




