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霊媒師リリカの受難  作者: やばくない奴
マザー・セラフ
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呼吸の意義

 今この瞬間にも、ライムの魂は徐々に消滅しつつある。彼女に残された時間は、ごくわずかだ。リリカは握り拳を震わせ、必死に笑顔を見せる。それは揺さぶられる情緒に対する――彼女の最後の抵抗であった。

「なぁ、ライム。これで、オレたちは……離れ離れになるんだよな?」

「でも、リリカはもう、あたしがいなくても大丈夫。だって、リリカには、家族がいるじゃん」

「……アンタの魂が消えちまうことは、そう簡単には割り切れねぇ。だからこそ、オレは今残されている時間を大事に使わなければならねぇんだよな」

 強がった笑みに反し、その声色は震えていた。今まで散々追い求めてきた親友の魂は、もうすぐ無に還る。その瞬間は、今まさに目の前なのだ。


 リリカは少し考え、それから再び口を開く。

「ライム。最後に、一つ頼みを聞いてくれ」

「ん?」

「あの歌を……一緒に歌いたい。あの頃みてぇに、あの日々みてぇにさ」

 元より、彼女がよく口ずさんでいる歌は、ライムから継承したものだ。無論、ライムにはその頼みを断る理由などない。今まさに消えかかっている彼女は、リリカの横に腰を下ろす。そして二人は、あの歌を交互に口ずさむ。

「空がなぜ青いのかを知りたがっていた僕は今」

「人がなぜ生きるのかを知りたがっている」

「星がなぜ光るのかを知りたがっていた僕は今」

「命が産まれる意味を知りたがっている」

 幾年もの期間が空いても、彼女たちは歌詞を覚えていた。今にも溢れ出そうな涙を堪えつつ、彼女たちは歌い続ける。

「森に問う、山に問う」

「海に問う、呼吸の意義を」

 歌声を紡いでいくたびに、両者の脳裏には過去の記憶が蘇っていく。その最中にも、周囲に展開されていく魔法陣は美しい光を放っている。その光景はさながら、夢のようであった。

「鳥がなぜ飛べるのかを知りたがっていた僕は今」

「胸がなぜ痛むのかを知りたがっている」

「虹がなぜかかるのかを知りたがっていた僕は今」

「憎しみが芽吹く理由(わけ)を知りたがっている」

 次第に、ライムの魂は光の粒子に変わり始める。彼女が完全に消滅するまで、そう時間はかからないだろう。

「空に問う、星に問う」

「君に問う、呼吸の意義を」

 彼女たちの歌声は、涙声に変わり始めていた。それでも二人は、歌うことをやめない。これが最後なのだ。この機会を逃せば、彼女たちはもう二度と共に歌えないのだ。

「空がなぜ青いのかを知りたがっていた僕は今」

「人がなぜ生きるのかを知りたがっている」

「星がなぜ光るのかを知りたがっていた僕は今」

「命が産まれる意味を知りたがっている」

 空間は眩い光に包まれ、ライムはいよいよ無に還ることになる。最後の歌詞は、二人で共に口ずさむ。

「命が産まれる意味を知りたがっている」

 無事、彼女たちは歌いきった。光に呑まれるように、ライムの魂はその姿を消す。


 彼女はもう、この世にはいない。



 *



 リリカが目を覚ますと、そこはマザー・セラフの像の目の前だった。彼女の傍らでは、ヒロトとカムイが安堵の表情を浮かべている。

「よ、よかった! 目を、覚ましたんだな!」

「心配しましたよ、リリカさん!」

 何やら彼らは、彼女が目を覚ますのを待っていたらしい。リリカは目に涙を浮かべながらも、微笑んでいた。彼女は空を仰ぎ、こう呟く。

「やっと、叶ったよ……オレの、長年の夢がよ……」

 それがどんな形であれ、彼女は親友との再会を果たした。そして今は、家族と呼べる者が側にいる。リリカはおもむろに上体を起こし、拳を突き立てる。

「ヒロト。カムイ。心配かけて、ごめんな」

 何はともあれ、彼女は生きていた。その喜びを噛みしめ、ヒロトたちは彼女と拳を重ねわせる。

「か、勝ったんだな……俺たち」

「流石、リリカさんです!」

 この日、三人は世界を救う偉業を成し遂げた。

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