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霊媒師リリカの受難  作者: やばくない奴
マザー・セラフ
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英雄

 あれからマザー・セラフの地下に幽閉されていた囚人たちは解放され、専用の施設で特別なセラピーを受けることとなった。そのセラピーに大きく貢献しているのは、エテコー団だ。あの三人はそれぞれの魔術を組み合わせることにより、患者たちを癒す映像や音声を生み出している。それまで阿鼻叫喚の地獄を味わってきた廃人たちも今や、この世で最も天国に近い場所にいるのだ。

「ワガハイたちに、悪役は合わなかったのであぁる。自分たちの魔術で誰かを笑顔にできるのなら、誰かを救えるのなら、それが一番であぁる!」

 それが今のミルシーの考えだ。当然、キクヒュアもまた、同じことを思っている。

「オーッホッホッホ! アタクシたちにも、アタクシたちの形で人々を救えますわ! 英雄は、リリカさんたちだけではありませんわ!」

 かつてはバーで歌い、そして失職した彼女も、今は他者の役に立てている。それは彼女にとって、何よりも喜ばしいことであった。一方で、ユウセイには少し迷いがある。

「リーダー……オイラも、本当にここにいていいのかな?」

「当然であぁる! 一体、何を気に病んでいるのであるか?」

「だって、オイラの魔術は、この施設で活用する場面がないじゃないか」

 確かに、他者を喋れなくする魔術は、セラピーに用いるものではないだろう。ゆえにユウセイは、己の存在意義を疑っていた。されどミルシーは、彼の苦労をよく理解している。

「ユウセイ。キミは患者の間で、評判がいいのであぁる! 人の心に寄り添い、気を配り、そして誰とでも打ち解けるキミは、エテコー団に、そしてこの施設に必要不可欠なのであぁる!」

「リーダー……! オイラ、これからも頑張るよ!」

「魔術だけが全てではないのであぁる! 魔術に甘んじず、患者の心に寄り添う者の存在が、セラピーの要なのであぁる!」

 曰く、ユウセイはどんな魔術を持つかにかかわらず、施設で重要な役割を担っているらしい。今のエテコー団は、誰よりも他者の心を重んじるセラピストの集まりであった。



 一方、マザー・セラフの像の前では、リリカが手を合わせていた。そよ風に髪をなびかせ、彼女は静かに目を瞑っている。その脳裏によぎっているのは、今は亡き親友の姿だ。

「ライム。最後に、歌ってくれて、ありがとう」

 今となっては、その声も本人には届かない。譜割(ふわり)ライムの魂は、今はどこにも存在しない。無論、そんなことはリリカも承知している。その上で、彼女は親友を弔うのだ。


 そこに姿を現したのは、ヒロトとカムイだ。

「い、偉業を、成し遂げたな、リリカ」

「僕たちなら、どんな困難も乗り越えられそうですね」

 この二人は、ライムの最期に立ち会っていない。彼らは、リリカが親友との永遠の別れを経験したことなど知らないのだ。彼女が真実を話したとしても、それはにわかには信じがたい話だろう。

「そうだな。オレたちにできねぇことはねぇ」

 そう返した彼女は、強気な笑みを浮かべてみせた。しかし、彼女たちは霊媒師だ。マザー・セラフが停止した今、三人にできることは限られている。

「もう霊獣もファントムも出てこないみたいですし、僕たちも何か新しい生業を見つける必要がありますね」

 カムイは言った。平和に越したことはないにせよ、彼女たちも生きるためには生業が要るのだ。もっとも、敵を倒すことだけが霊媒師の仕事ではない。

「お、俺は、そう、だな……これからも、れ、霊媒師として、死者との交信を代行したい」

 そんな旨を語ったヒロトはネックレスを手に取り、それを曇りなき眼で見つめた。一方で、リリカにはまだ、今後の計画はない。

「そうだな。オレはまだこれからのことなんか思いつかねぇけど、一つだけ確かなことがある。オレたちは、これからも家族だ」

 彼女がそう告げたのと同時に、三人は拳を重ね合わせたのだった。

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