運命の再会
リリカが目を覚ますと、そこは奇妙な空間だった。辺り一面に浮かび上がっているのは、彼女自身の様々な記憶に関する映像だ。そして彼女の目の前には今、白髪の少女が立っている。
「久しぶりだね、リリカ」
少女は言った。この少女のことを、リリカはよく知っている。
「ライム……!」
それはまさしく、運命の再会の瞬間だった。さりとて、二人には再会を喜んでいる余裕などない。
「そう。あたしは譜割ライム。だけど、今はマザー・セラフのコア。リリカにも、あたしの一部になってもらうね」
「な、何を言ってるんだ! ライム!」
「あたしはもう……あなたの知るあたしじゃない」
それはリリカからすれば、最悪の事実であった。真顔で硬直する彼女の眼前で、ライムは己の周囲に無数の斧を作りだす。この瞬間、リリカは咄嗟の判断で何本もの太刀を生み出した。無数の刃がぶつかり合い、甲高い金属音をかき鳴らしていく。もっとも、これはリリカの望んでいた戦いではない。
「一体、アンタに何があったんだよ! ライム! オレたちは、親友のはずだろ! なんで、オレたちが戦わなければならねぇんだ!」
「あの日、あたしが消えた日、何があったのか。あなたには、それを知る権利がある。リリカ……これからは、ずっと一緒だよ」
「なんだ? もったいぶるんじゃねぇ! あの日のことを、教えてくれよ!」
そう叫んだ彼女は、己の手元にも太刀を生み出した。迫りくる数多の斧を振り払いつつ、彼女は親友との間合いを詰めていく。一方で、当の親友は無機質な微笑みを浮かべたままだ。あの日、ライムは完全に変わってしまったのだ。
「知ってる? あの魔女狩りは、選民会がメディアを買収して引き起こしたんだよ。そしてあたしは霊媒師の素質の高さゆえに、マザー・セラフのコアに選ばれた。だから選民会は、あたしの魂を強化するために、あたしたちを巡り合わせたの」
「オレたちの絆は……仕組まれたものだったのか! 嘘だ……オレたちは、心を通わせて、涙も喜びも分かち合ってきたはずじゃねぇか!」
「その通り。だからこそ、あたしも、あなたも強くなった。あの日のあたしは、あなたを守るために覚醒した。そして、その時の魔力がマザー・セラフの魔術回路に反応したの。あたしたちの出会いは、段取りにすぎなかったんだよ」
そんな真実を語った彼女は、自らの境遇をまるで不幸だと感じていない様子だった。その身の周囲には、数多の魔法陣が浮かび上がっている。直後、魔法陣の節々にノイズが走り始め、ライムはこう口にする。
「助け……て……リリカ……あたし、これ以上、人を壊したくない……」
この瞬間、彼女の表情は打って変わり、ほんの一瞬だけ憂いを帯びた。そして彼女は何かに取り憑かれたように、再び無機質な笑みを浮かべ始める。
「あなたがあたしを倒せば、マザー・セラフは停止する。あたしがあなたを倒せば、人類は主体性を失う。始めようよ……最後の戦いを!」
先程の刹那――ライムは確かに自我を見せていた。されどその自我は、選民会やヒズミに組まれた魔術回路に屈している。
「ライム! 今、助けてやる!」
声を張り上げたリリカは、一気に間合いを詰めた。この時、彼女は太刀を大きく振りかぶっていた。しかし彼女の動きは、完全に見切られている。
「あたしは、マザー・セラフのコア。あなたが奪うべき、最後の魂」
ライムがそう呟いた時には、一本の斧がリリカの腹部を切りつけていた。リリカは血飛沫を散らしつつ、その場に崩れ落ちる。薄れゆく意識の中で、彼女は呟く。
「冗談じゃねぇ。オレは、アンタのことだけは、殺せねぇ……」
彼女の視界が滲み、そして光を失っていく。静かに目を瞑る彼女の目の前で、ライムは笑う。
「終わりだね、リリカ」




