心の清算
あれからリリカたちは、苦戦を強いられた。彼女たちがどんな攻撃を仕掛けても、斬撃の波動によって打ち消されてしまう。そして今この瞬間も、空一面で魔法陣が点滅している。三人が早く眼前の敵を倒さなければ、全人類が主体性を失うこととなる。強風に髪をなびかせつつ、ヒズミは語る。
「ボクの望む世界は、痛みを伴わない。キミたちだって、己が己に属することに苦しんできたはずじゃないか。在りたいように在ることは難しい……しかし、在りたいと思う心さえ失えば楽になれるんだ」
彼の言葉に、三人の霊媒師は心を揺さぶられた。特に、リリカは酷く動揺している。それでも彼女は、その迷いを必死に振り払う。
「苦しみが全てじゃねぇ! オレたちは、不幸なんかじゃねぇ! 見ろ、オレたちは心を通わせている! 悲しみも喜びも分かち合える! それがどんなに素晴らしいことか! オレたちは、一つだ!」
「違うね。キミたちは、無理をしているだけだ。それを弱さだとは思わない。キミたちは強い――だから痛みを伴う生き方を受け入れてしまう。だけど、痛みを堪えれば報われるほど……世界は優しくはないんだよ」
「何度この世界に叩きのめされても、オレたちがオレたちを許している! そりゃぁ、泣きたくなるようなことは何度もあった! それでも、ヒロトやカムイと出会えたオレは! 生まれてきてよかったと、心からそう思ってるんだ!」
その喉奥から放たれた声の一つ一つが、彼女自身の本心を物語っていた。これまで散々な目を見た彼女にも、掛け替えのない「家族」がいるのだ。覚悟を決めたリリカは、手元に太刀を生み出した。彼女は瞬時に間合いを詰めたが、相手の斬撃の波動によってその身を負傷してしまう。更に、その波動はヒロトやカムイの身も巻き込んだ。
「くっ……こ、ここまでか!」
「時間が、ないのに……」
力尽きた二人は、無造作に崩れ落ちた。これで戦える者は、リリカ一人だけとなった。残された彼女は両足を震わせ、眼前の強敵を睨みつける。当の強敵は、依然として考えを改めようとはしない。
「キミは不幸だよ、リリカ。そしてボクも、生まれてくるべきではなかった。ボクたちが心と共に生まれたことを清算するには、心を失うしかない」
そう語ったヒズミは、哀愁を帯びた愛想笑いを浮かべていた。一方で、リリカは勇ましい顔つきをしている。彼女には、絶対に彼を止めなければならないという鋼の意思がある。その口から、魂から、熱意の言の葉が紡がれていく。
「うるせぇ! アンタの価値基準なんかで、オレを不幸だと決めつけるな! 確かに、オレは心と共に生まれることも、苦しむことも望まなかった! だけど、アイツらがよぉ……眩しくしちまったんだよ、オレの人生をよぉ!」
「たった二人の人間しか支えにならない人生は、決して眩しくなんかない。暗闇に慣れた目で、キミはか細い灯火を眩しいと主張しているだけだ」
「たった二人だと? アイツらは、か細い灯火なんかじゃねぇよ。アイツらは太陽だ。オレの空は、雲一つねぇ晴天だ!」
強い想いに呼応し、指輪が眩い光を放つ。直後、リリカは炎のような魔力を帯び、周囲に何丁もの機関銃を生み出した。その一つ一つが彼女の意思に従い、無数の弾を乱射する。境地に至った彼女は、生み出した武器を遠隔操作できるようになったのだ。続いて、何本もの太刀が生み出され、それらは一斉にヒズミの身に襲い掛かった。斬撃の波動では応戦しきれず、ヒズミは切り傷を負っていく。この時、彼の体には、ノイズのようなものが走り始めていた。
「極限状態による覚醒か、面白い。決着をつけよう……リリカ」
そう呟いた彼は、顔つきを変えた。そこに、いつもの穏やかな表情はない。その眼差しには、底知れぬ闘志が宿っていた。




