永遠のライバル
突如、ヒロトはヒズミに殴りかかった。しかし彼には、間合いを詰めることさえままならない。ヒズミがナイフを振り上げたことにより、斬撃の波動がヒロトを退ける。その光景を前に、リリカは問う。
「どうした、ヒロト! アイツは今、どんな魔術を組んでいるんだ!」
彼女には、魔法陣を読み解くことができない。一方で、霊媒師としての経験の深いヒロトには、眼前の美少年が成そうとしていることがわかる。
「ぜ、全人類から、アイツは、しゅ、主体性を、奪おうと、している!」
己の存在を知ったホムンクルスが最後に辿り着いた答え――それは全人類から主体性を取り払うことであった。
次に飛び出したのは、カムイだ。彼女は眼前のホムンクルスの目の前まで迫ったが、腹部に右ストレートを食らってしまう。その衝撃は波となり、彼女の全身に伝っていく。必死に歯を食いしばりながら、彼女は訊ねる。
「何故、そんなことを……!」
「キミたちも、ボクも、主体性なんてものがあるから苦しんだ。そして選民会も、そんなものを有していたから傲慢になったんだ。誰も苦しまない。誰も争わない。人類に混沌をもたらしてきた全てを――ボクは壊す」
「そんなことは、させません!」
例え数多の苦しみを知っていても、カムイは自らを象るものを失いたくはない。その想いは、リリカにとっても同じだ。
「ヒズミ! オレたちは、もう選民会の支配下を逃れたんだ! 確かに、この世界は憎しみや痛みに満ちている! それでも! オレたちは、今手元にある希望と共に歩みを進めなければならねぇんだ!」
「この期に及んでもなお、キミは主体性と共に在る生き方を信じるんだね。だけど、もうじきキミは楽になる。ボクも、キミも、誰もが、己が己であることに囚われず、安寧と共に息ができるんだ」
「だったら教えてやるよ! オレは、オレが大好きだ! そして、ヒロトやカムイのことも大好きだ! 今アンタが壊そうとしているものは、オレが大好きなモンで、誰かが大好きなモンなんだよ!」
そう叫んだ彼女は機関銃を生み出し、それを乱射し始めた。さりとて、ヒズミの斬撃は波動だ。四方八方に広がっていく斬撃は、全ての銃弾を撃墜していく。そしてこの瞬間にも、空は無数の魔法陣に覆われていくのだ。このままでは、本当に全人類が主体性を失うこととなるだろう。今までコアを務めていた魂は、中継機を介してもなおチェレスタ国の大部分に影響を与えるのが関の山だった。されどこの少年なら、地球全土に魔力を及ぼせるだけの力を持ちうるのだ。
「誰も主体性を持たない方が、皆が納得するじゃないか。その方が、皆が幸せじゃないか」
そう呟いたヒズミは、右手を上空に向けた。直後、空を覆う数多の魔法陣から、大量の霊獣が作り出される。当然、リリカたちは霊獣の軍勢とも戦わなければならない。
「目を覚ませ! ヒズミ! それが本当に、アンタの望む世界の在り方なのか! それが本当に、アンタの望む己の在り方なのか!」
「お、俺たちは、主体性と共に、生きる!」
「僕たちは、もう痛みから逃げないと決めたんです!」
叫び声をあげながら、三人は周囲の霊獣と交戦していった。
同じ頃、街角では、満身創痍のミルシーたちが霊獣と戦っていた。今にも倒れそうな彼らを見て、一人の子供が質問する。
「どうして、おじさんたちは逃げないの? このままじゃ、死んじゃうよ!」
確かに、エテコー団の三人は、リリカ一行と比べればさほど強くもないだろう。この時、ミルシーの脳裏には、一人の少女の姿がよぎっていた。そこで彼は、子供からの質問に答える。
「ワガハイたちの永遠のライバルは、ここで逃げるような奴じゃないからであぁる!」
そう――リリカの存在が、彼の信念に大きな影響を与えていたのだった。




