ホムンクルス
リリカたちは唖然とした。確かに、つい先程起きた出来事は妙だった。ゴンゾウは、マザー・セラフで自滅することのないように手を打っていたはずだ。そんな彼が主体性を失ったことは、ある種の因果でもあるだろう。さりとて、それでリリカが納得するわけではない。
「何故だ? 何故、ゴンゾウの奴がファントムに……」
無論、選民会の幹部はもういない。これが彼を裏切った者による犯行であることは、先ず考えられないのだ。そこでヒズミは、種明かしをする。
「ああ、ボクがマザー・セラフにハッキングしたんだよ。そしてプロンプトを書き換えて、戒場ゴンゾウを依り代にしたわけだ」
「なんのために、そんなことを……」
「決まってるじゃないか。主体性を失った状態でも、記憶は機能する。さあ、ゴンゾウ……答えるんだ。ボクは何者で、キミはボクの人生にどう関わっているんだい?」
元より、彼は自らがどのような存在であるのかを模索してきた身の上だ。全ての真実を暴露させるには、その真実を知る者から主体性を奪うのが最も効率的である。当然、ゴンゾウは全てを話さずにはいられない。
「ヒズミさん。一年前、貴方の魂は私の霊魂編集、肉体は香月サダメの人体錬成によって作られました。たった一年しか生きていない貴方が人並みに知能や精神を有しているのも、私がそのように魂を設計したからです」
「そ、そんな……ボクは、君たちに作られたというのか? 一体、キミたちは、なんのためにボクを生み出したんだ?」
「先ず前提として、今のマザー・セラフのコアを成している魂は、あと数年ほどしかもちません。強力な魂でなければ、あの石像のコアにはなれないのです。貴方は次のコアとして使う算段でした」
畢竟、ヒズミは選民会の道具として作られたに過ぎない人間であった。否、彼はもはや、人間としての定義を満たしているか否かさえ怪しいだろう。
「ホムンクルスか……!」
口を挟んだのは、リリカだった。ゴンゾウは無表情のまま、その質問に答える。
「はい。ヒズミは選民会が作り出したホムンクルスにして、究極の霊媒師――そして、次世代のマザー・セラフのコアです」
そんな話の傍らで、ヒズミは虚ろな目をしながらうつむいていた。無論、突きつけられた真実は、彼の望んでいたものではない。
「ボクはボクだ。ボクはヒズミだ。ボクは……キミたちの操り人形なんかじゃない。ボクは、ホムンクルスなんかじゃない!」
憤りを覚えたヒズミは、勢いよくナイフを振った。波動の性質を有した斬撃は、ゴンゾウの身を一刀両断する。その断面から続く切り傷は、いつものように縞模様を描いていた。いつもなら殺生に消極的なリリカも、この時ばかりは怒りを感じなかった。もっとも、彼女をそうさせたのはゴンゾウに対する憎しみではない。
「ヒズミ。アンタ、つらかったんだろうな。自分が何者なのかもわからねぇまま、誰からも理解されねぇまま、ずっと己を知ろうと奮闘してきて、最後の最後に辿り着いた真実がこれじゃ……あまりにも浮かばれねぇよ」
それは紛れもなく、哀れみの心だった。彼女だけではなく、ヒロトとカムイもまた儚げな表情を浮かべている。一先ず、二人はヒズミを仲間に誘うことにする。
「ヒズミ。お、俺たち、もう、強くなっただろ? だから、俺たちの、な、仲間にならないか?」
「そうですよ、ヒズミさん! 本当の自分と呼べるものを、これから作り上げていきましょうよ!」
もちろん、それであの少年の気が晴れるわけではない。直後、ヒズミの周囲に、数多の魔法陣が浮かび上がった。目を疑うリリカたちの目の前で、彼は不穏なことを呟く。
「選民だけが主体性を持つ世界? 愚かだね。誰一人として、主体性と共に救われる人間なんかいない」




